第3話 最初から失恋だったんだよ
大勢の生徒たちが行く黄葉のポプラ並木を、俺と詩先輩は一緒に歩いていった。
俺たちの中学と付属の高校では、朝、開いている校門は一つしかなく、電車通学の生徒たちは、駅から校門まで10分ほどのこのポプラ並木を必ず歩く。
落ち葉が靴底の下で、さくさくと小気味のいい音をたてている。
ひつじ雲が溶けて、青一色になってしまった空に、ひらひらと黄色い木の葉が流れていった。
今朝の先輩は、いつもより強気になっているのが、俺には分かる。普段なら、距離をとって、あの”イケ面高校生”に付いてゆくのに、今日はやけに近づきたがるし。
「先輩、写真部の今年最後の部会の議題なんですけど」
「うん、うん」
「引退する3年生のお別れ会も」
「あっ、そうだね」
「詩先輩っ、聞いてるんですか」
聞いちゃいないなと、俺は眉をしかめる。今の先輩の頭の中は、少し前を歩いて行く《《あいつ》》のことで、いっぱいなんだから。
「ああ……玉砕覚悟で、告ってみようかなぁ」
おいこら、聞こえてるぞと、詩先輩がぽつりと呟いた囁きに、俺は焦った。
けれども、俺と詩先輩が、同時にため息をついた時、
「おっはよ! マッキー、いい天気ねー」
さっき、駅のホームにいたのとは別のチャラそうな女子高生が、詩先輩の《《憧れの君》》の横に現れたのだ。ウゼぇ。あのイケ面野郎は”マッキー”って呼ばれてんのか。
その女子高生が、詩先輩の方をふりかえって、こともあろうに、笑いやがったんだ。
「ね、あの眼鏡ちゃんでしょ。マッキーに気があるJCっていうの」
その時、微笑いながら、振り返った、あのイケ面野郎の小馬鹿にしたような、揶揄うような、物凄く嫌な目つきが俺は忘れられない。
「あ……」
いくら鈍い先輩でも、気付くだろう。
あの男が、鼻持ちならない《《自惚れ屋》》だってこと。
案の定、詩先輩は俯いて、それきり黙り込んでしまった。
「くすっ、ダッサイ眼鏡。告ろうなんて笑っちゃう」
女子高校生が吐いた学園ドラマのイジメ役みたいな台詞に、詩先輩は小さい体を余計に小さくして、少し震えてた。
それが、俺がひた隠していた心の導火線に火をつけてしまったんだ。
「詩先輩、急ごう! 走らなきゃ、遅刻しちまうぞ!」
俺は詩先輩の手を握り、校門に向けて走り出した。
「え、何っ?まだ、始業時間には間に合うよ」
「いいからっ」
驚く彼女に構わず一緒に走り出す。そして、俺はあのイケ面野郎の横を通り過ぎる時、思いっきりの軽蔑こめた眼差しで睨みつけてやった。
『お前なんか相手にしなくても、詩先輩を好きな奴はいっぱいいるんだからな』と。
詩先輩は戸惑っていたと思う。
それでも、握った俺の手を、先輩がぎゅっと強く握り返してくれた時には、心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
校門へは、たった5分くらいの距離だったけど、二人で走る息使いが弾んでて、先輩は笑ってて、俺は嬉しかったよ。
やっと、自分の気持ちを伝えることができたのかなって。
けど……校門を二人で通り過ぎた瞬間に、
「”甘党”、もういいから」
詩先輩は、ぽつんとそう一言。その直後に俺の手を振り払って、一人で校舎に入っていってしまったんだ。
ちぇっ、何だよ……喜んで損しちまった。
毎朝、わざわざ家の最寄り駅から一駅戻ってまで、準急列車に乗っている自分が馬鹿らしく思えてきた。
もう止めた。あんなこと。
結局、最初から失恋してたんだ。
変に告らなくて、良かったと思えよ
……俺。




