第2話 恋心
俺の名前は、天塔 翔、中学2年、14歳。
と言っても、俺はごく普通の中学生。
けど、先だっての部会で、写真部の部長の詩先輩から、俺は次期部長に指名された。
もしかして、詩先輩は、自分を頼りにしてくれてるのかな。そう思うと、すっごく嬉しい。他の部員から反対の声が出なきゃ、俺、頑張るよ。
俺の最近の登校時の日課は、普通列車しか止まらない家の最寄り駅から一駅後ろに戻って、そこから準急列車に乗ること。
どうして、わざわざ一駅戻って、準急列車に乗るかって?
そうすれば、学校近くの駅のホームで、午前8時着の準急列車を待っている詩先輩と、一緒に登校することができるから。
今朝も俺は、準急列車に乗り込んだ。
俺はいつも、詩先輩が待っているホームの場所より、少し後ろに着く車両を選ぶ。だって、あの人が待ってるのは、毎朝、この準急列車に乗ってくる《《イケ面》》の高校生だ。
乙女心を朝一で邪魔するほど、俺は無粋ではないからな。
でも、あんな格好つけの激しい高校生は、詩先輩には全然、似合わないと、俺は思うぞ。
詩先輩は自己評価がとても低い。それが今の俺の救いだ。できれば、ずっと、あいつに告らないままでいて欲しい。
やがて、準急列車は、学校の最寄り駅に入って行った。
ホームに到着した準急列車の中から、大勢の学生たちが改札口に向けて、どやどやと流れてゆく。この時間には学生が集中してしまうものだから、朝の駅はちょっとしたラッシュになってしまうんだ。
ところが、俺はホームに立つ詩先輩を見つけて、首を傾げた。
いつもと様子が違う。普段なら背丈が低い先輩は、せいいっぱい背伸びをしながら、あいつを眺めてるんだが……今日はどうした? 顔が赤いぞ。
「おっはよっ。詩先輩っ!」
「何よ、”甘党”っ、朝っぱらから大声で」
ふと、ホームから改札に向かう生徒たちの群れの中に、あのイケ面の高校生と、それにじゃれついてる薄っぺらそうな女子高校生の姿を見る。
何だよ、あれ。
先輩は鈍感なところがあるし、背が低い分、ああいう光景までは見えないのかもしれないけど、俺はあいつは、けっこう軽い奴と思うぞ。
あいつが時々、詩先輩のことを、チラチラ見ていることを俺は知ってる。
あの野郎は、絶対に先輩の恋心をもて遊ぶやつだ。
冗談じゃない。自己評価が低くて、本人はなかなか認めないけど、詩先輩を好きな奴はけっこう多い。
派手じゃなくて、頑張り屋で、面倒見がよくて、すこし鈍いところが玉に瑕だが、それが、どうにも放っておけなくて……小さな肩に、大きなカメラを抱えて走り回ってる姿が、すごく可愛くて……
俺は実際……好きなんだ。
何で先輩と同じ学年になれなかったんだろうなあ。
中3と中2の間に、俺が感じる見えない壁。
1日早く生まれてりゃ、俺だって中3だった。先だっての京都への修学旅行にだって参加できたんだ。
”木之下 詩”と一緒に名所を観たり、後輩にあげる”生八つ橋”を選んだり、考えるだけでも楽しいじゃないか。
詩先輩と俺が同級生だったら……俺はもっと気兼ねなく、自分の気持ちを伝えることができたのに。
けど、あと一歩が踏み出せない。
《《このまま》》じゃ、詩先輩は写真部を引退して、来年の3月には卒業してしまうっていうのに。
* *
「いいなあ、あのひつじ雲たちには、何も悩みがなさそうで」
空を見上げながら、ため息をついている詩先輩。
俺にだって悩みは多い。
二人で眺める秋の空。
風が吹き、ひつじ雲が空の青の中に消えてゆく。
ちりぢりに散らばって小さくなってゆく雲の形は、頼りなくて
すぐに溶けてしまう氷の欠片みたいだった。




