謎のお好み焼き屋さん
もう十年以上前のこと。その頃住んでいた家の近くに、こじんまりとしたお好み焼き屋さんがオープンした。住宅街でお店などはあまりない場所だった。
食べ物屋の場合、開店直後はお客が殺到するのが常なので、興味はあったのだが暫くの間様子を見ていた。ところが、お好み焼きというちょっと特殊? な食べ物だからなのか、いつ見ても行列もできていなかったし、混んでいる風でもなかった。また、近所でもあまり評判にもなっていなかった。
お好み焼きは好きなので、オープンから一か月程経った頃、近くに住む友人と一緒に行ってみた。お店の外観も可愛い雰囲気だったが、店内も可愛く飾り付けされていて、個人的にお店にとって味よりも大切だと考えている清潔感もあった。
迎えてくれたのは年の頃なら22~25と思える女性が二人だった。それも二人揃ってとても美しい。モデルにでも居そうなほど美しかった。そう言えば姉妹でやっていると聞いていた。
その二人の美女は、お店に入って行った私達を見て、
「いらっしゃいませ」
と、二人別々に小さな声で言った。
店内には鉄板が載せられたテーブルが六卓あって、私達以外の客は一組だけだった。夕食時だったので、そんなに空いているのが意外だった。
言われたテーブルに着いて暫くすると、多分妹と思われる方の美女が注文を訊きに来た。彼女は肩の辺りよりも少し長い髪を顔の両側で内巻きにして、ワンピースの上にメイドエプロンというのか、ヒラヒラのついた白いエプロンを掛けていた。もう一人の女性も同じ服装だった。
とても美しい彼女の声は小さく、商売をしている人の話し方でもなかった。そのたどたどしい様子に、まだお店を始めたばかりで、慣れていないせいだろうと思ったのだが……。
びっくりしたのは次の瞬間だった。注文を訊いてからの去り際、その美女は愁いを帯びたような大きな瞳で私達を見たのだった。その瞳は、
「なんで、来るの?」
と言っていた。「目は口程に物を言う」と言うから、言葉はなかったがそう言っているようにしか見えなかった。しかもその表情のまま、数秒ほどの間じっと私達を見つめていたのだ。その瞳と数秒の間には怒りのようなものが含まれているような気がした。
美女が私達のテーブルから離れるや否や、友人と二人で顔を見合わせた。そして、お互いの頭の上に? があるのを確かめずにはいられなかった。
さっきの美女の最後の態度が気になって、その後いただいたお好み焼きの味がどうだったかとか、値段がどうだったなど何も思い出すことができない。
ただ、私達も二度とそのお店には行くことはなく、お店自体がその後三カ月ほどで閉店してしまった。あの美女は、お客皆にあの瞳で「なんで、来るの?」と問いかけたのだろうか?
かなりの月日が経った今でも、どう考えても謎が残るお好み焼き屋さんだった。




