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「マリー、どうやら私たち、この病を食い止められそうにないわ」
「…それは、当然でしょう。なぜ急に、そんな事をおっしゃるのですか?」
ここで、私の持つスキルを明かしてもいいのだが、私はまだマリーを全面的には信用していない。スリタス公国は治安も悪い。マリーが盗賊に通じている可能性も、十分ある。マリーの疑問は曖昧に誤魔化した。
マリーともっと仲良くなりたい。
このゲームに、プレイヤーが使える範囲回復魔法とかがあれば話も違ったのだろうが、残念ながら『治癒魔法』は一人ずつにしか発動できない。
そういえば、この『治癒魔法』は稀に発現するスキルらしい。その中でも、私の持っているものはプレイヤー仕様なので効力が特別に強い。このことを正確に把握されたら、祭り上げられかねない。軽い怪我や病を治す程度ならバレないよね?本来の力は秘密にしなければ。鍛えたら部位欠損もなんとかなるらしいし。
そういえば、盗賊に関係するバッドエンドには、訪ねた村が丸ごと占領されるものや、攻略対象の貴族や王子様が毒矢で倒れたり人質に取られるようなものもあった。
こんな僻地からスタートした私が、彼ら攻略対象に出会うことはあるのだろうか。だいぶ先の話になりそうだ。
それを考えると、灯嶺や山吹くんに出会うのも難しいように思えるけれど、どうだろうか。すれ違ったりしたら目も当てられない。さすがに、二人はすぐに病気にはならないと思うけれど、対抗手段を持っていなさそうなのも事実。私が早くあのゲームについて思い出して、アドバイスをすることができていれば…。まあ、山吹くんの能力は目立つものが多そうだけれど。あかりは、どうかな…。結局、何を選択したのかも知らない。精神系の、何か。
最初に流行する細菌で、国の人間は一割が死ぬはず。ただ、えげつないのは次以降の疫病だ。なにしろ、人口が減りすぎて他国に征服されてしまうのだから。そう、ゲームでは必ず征服されていた。バットエンドってわけではない。ただ、私の『薬物調合』や『内政』で死亡者を減らせれば、征服されない未来もあるかもしれない。
あ、でも攻略対象の王子がかかって治らなかった場合は必ず国が滅びてた。戦争に負けたくなければ、王子ら王族は病から救わなければ。ただ、そうなると戦争が長期化するから、それはそれで死人が増える。征服とどっちがマシだろうか。
そう、そして、この貧しい国が豊かになればなるほど、私たち三人の生活環境も改善されるだろう。私たちは、国外脱出でも考えない限り、この国を豊かにする必要がある。かなり大変だが。あれ?国外脱出も、検討すべきかもしれない。
◆◆◆
「姉御、準備が完了しました」
「わかったわ。休んでていいわよ」
一人になった、山賊にしては小綺麗な格好をした女性は、東洋人らしい黒髪をかき上げた。
「なんで私はこんなところに…」
ひざを抱える。
「みねは何処にいるのかなあ」