キャラメイク・上
私たち三人は、夜の公園に訪れた。
「本当に、先輩にここに来るように言われたの?」
「うん…でも、あの時は明らかに様子が変で」
「変?」
「なんだか、あず先輩にしては、なんというか神々しい感じで」
「神々しいって…現代人に対して本気で使う言葉じゃないでしょ」
「うーん…でもそうとしか言えないんだよね」
灯嶺は私を問いつめるような態度だが、これでも長い付き合いなので、内心では心配しているのがわかる。私の言い分も———神々しいというくだりとか———説得力に欠けているし。
「この公園、町中なのになんだか寂しいよね。人の目が届かない」
「山吹くん…こんな時間に呼んでごめんね」
「いや、いいよ。僕も暇だったし」
山吹くんは高校に入ってから出会ったが、なんだか見てて不安・心配になる感じの男の子だ。背が低くて、幼く見える。
同じ部活に所属している私たちは、高校帰りに、先輩に言われた通りこの公園に来たのだが、先輩の姿は見えない。
「あれ、あのブランコ、さっき誰か乗ってたっけ」
「みねが気づかなかっただけでしょ」
「僕も気にしてなかったからわからない」
「じゃあ、なんで揺れてるんだろう?」
私は地面が揺れるような感覚に陥った。
「あれ…?」
「峰さん、大丈夫?」
「疲れてるのかな…今、あの遊具の中に誰か」
なんだか怖い雰囲気になってきた。ここは、さっさとあの土管が無人なのを確認して、先輩に連絡を入れて帰ろう。
「音はしないけど」
「あれ、でも中に何か」
そう、黒いものが見えるような、影のような。私は覗き込む。
「ようこそ」
「ひっ———」
「ちょっとあず先輩、みねを驚かさないでくださいよ」
「うわーびっくりした…」
本当に、心臓が止まるかと思った。寝転がっていたあず先輩は土管の中から這い出してくる。いや、何かがおかしい。たしかにあず先輩は奇人の類いだが、ここまでではなかったはず———
「それで、話ってなんですか?なんで部活後にこんなところに呼び出したんですか」
「土管で暮らしてるとか言うんだったら、これから未確認非行少女って呼びますよ」
「峰さん、顔が自慢げだね」
あず先輩は口を開いた。口から漏れるのは知らない言語の呪文、私たちは一様に得体の知れない恐怖を感じる。
「え…いきなりどうしたんですか、先輩」
「みね、これは異常よ。逃げましょう」
「神々しいどころじゃないというか禍々しいっ」
あれ、逃げる間も無く地面が光って———これは魔法陣?じゃあ、この呪文も本物で———
「なにこれ!」
「みんなには、他の世界に転移してもらう」
あず先輩の姿をした誰かの謎の言葉とともに、私たちの意識は遠のいた。
◆◆◆
私たちは、気づくとゲームセンターにいた。営業は終了しているみたいで、筐体も真っ暗だ。ゲームセンター?なぜ?
「灯嶺!山吹くん!これどういうこと?」
「少し落ち着きましょう。私たちは冷静じゃない」
「ほんとどこだろうね、ここ」
ゲームセンターの外も真っ暗で、まるでその先に何もないような…。いや、それよりも、なぜか起動している目の前のゲームについて考えるべき?気味の悪いことに、あるいはお誂え向きに、三台全てが光を放っている。
「ええと、『キャラクター作成』…?」
「なにこれ、時間制限あるよ。三分かぁ」
「この三台で、私たちにキャラを作れってこと?う…なによ、これ。信じられない」
画面には、ドレス・タキシードを着た私たちの姿が映っていた。絶妙に似合っているその姿に、私たちは言い様のない恐怖を覚える。そう、それはまるで、自分たちがゲームのキャラクターにされてしまったかのような…。
ふと、筐体に書かれている文字が、目に留まった。
〜RISE and DESUETUDE〜
これ、どこかで見たことがあるような…?