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第98話 崩壊する夢とプライド【side:土守陸夜】

 雪那とネレアが激闘を繰り広げているのと時を同じくして――。

 若き魔導騎士は、意図せず共同戦線を組む形で“竜騎兵(ドラグーン)”に挑んでいた。


「受けよ、僕の魔弾の嵐を――!」


 陸夜は高らかに細剣(レイピア)を掲げると、“マジックバレット”を六連打。

 一般生徒の水準を上回る射出速度と弾速を(もっ)て、宙に佇む怪物を強襲する。


「はっ……そんな物は攻撃とは言わない。本当に私と戦う気があるのか?」


 一方のジル・ハインバッハは、心の底から退屈だと言わんばかりに溜息を零しながら、魔力弾を回避していく。

 先ほど見せた螺旋槍とこの軽やかな動きが示す通り、彼がオーソドックスに近接格闘を主体としていることは明白だった。


「ふざけるなっ! 進化した僕の魔弾をなめるァ!!」


 魔弾乱舞。

 顔を真っ赤にして怒り散らす陸夜は、楽団の指揮者の如く細剣(レイピア)を振り、九発(・・)の魔力弾を同時発射する。

 しかし以前までの彼を超えた攻撃であっても、その全てが空を切ってしまう。


「前に出過ぎだ、さっさと退がれ! えっと、ドガイ君だったかな!?」

「うるさいっ! 僕は由緒(ゆいしょ)ある土守家の人間だ!!」


 一方のグレイドは、無駄にジルを猛追する陸夜を魔力弾で援護しながら後退を促すが、聞き入れられる様子は全く見受けられない。

 戦闘中でありながら、思わず頭を抱えそうになっている。


「どうして僕がこんな奴の尻拭いを……!? この瞬間湯沸かし器が……!?」


 グレイドが纏うのは、“固有魔導兵装(ワンオフアルミュール)”――“アイゼンナイツァー”。

 主兵装は身の丈ほどの大剣。

 つまり彼の戦闘スタイルは、ガチガチのインファイターである――ということ。


 言ってしまえば、初見かつ満足に連携出来ない相方のフォローをしながら、チマチマと援護をするのは、グレイドにとって自身の力が満足に発揮できない状況であるわけだ。

 戦力がギリギリであるこの戦況で好き放題動き回られるのは、迷惑極まりない。子供でも分かる理屈だった。


「せっかくの戦場だというのに、私と相対するお前たちは戦士の顔をしていない。嘆かわしいことだ。これでは蹂躙する価値もない」

「こ、この僕を愚弄するというのか!? 絶対に許さん!」


 ジルは戦場でパニックになっている陸夜らを完全スルーし、眼下で戦闘を繰り広げている学園警備隊(セキュリティー)・学生・教員から成る合同部隊へと進路を向ける。

 前線の特記戦力が“竜騎兵(ドラグーン)”にスルーされるというのは、考え得る限り最悪の状況だろう。


 こうなったら陸夜を叩き落としてでも自分が前に出るしか――と、グレイドが判断した瞬間――。


「ふ、ふじゃけるなああぁぁ!!!!」

「おい、バカ!? 一気に間合いを詰め過ぎだ!」


 自分が全く相手にされていない。

 そのことに激昂する陸夜は、グレイドの制止を振り切って単身突貫してしまう。


 ――“テンスバレット”。


 己を含めて一〇の弾丸と化し、明後日の方向を向いているジルに迫る。

 だがそんな陸夜を待っていたのは、狂気混じりの笑みだった。


「貴様に真の戦場を見せてやろう!」


 ジルは右手首に装備した五本の爪状ブレード――“ネメア”を起動。

 更に五本の爪を円周状に展開して高速回転させると、陸夜の切っ先に合わせるように螺旋槍形態と化した“ネメア”を軽く突き出す。


「――ぁ!? ぐっ、ぎいいいぃぃっっ!?!?」


 正面打突。


 腕を突き出して、軽く攻撃を弾く。

 たったそれだけの行為によって、陸夜の細剣(レイピア)が砕け散る。

 当の本人も、コメディ漫画(さなが)らに全身をグルグルと回転させながら、空へと打ち上げられていた。

 まるで()との決闘を再現するかのように――。


「くそっ、言わんこっちゃない!!」


 このまま全身を乱回転させながら落下でもすれば即死確定であり、グレイドはフォローに回らざるを得ない。


「何なんだよ、こいつ……!?」

「くそおおおぉぉぉ!! くそおおおおぉぉぉっっ!!!!」


 魔力でネットを展開。

 グレイドは、どうにかこうにか落ちて来る陸夜を立ち直らせるが、当の本人は礼の一つもなく喚き散らすのみだった。


 血の(にじ)むような努力を重ね、絶対の自信を取り戻した魔導が全く通用しなかったどころか、またも(・・・)(ほこり)を払うように弾き返された。

 そんな衝撃と屈辱からの叫びだった。


 無論、多くの命がかかっている戦場で自分のことしか考えていないのか――と、ツッコむべき状況であるのは言うまでもない。


「どうしてだよっ!? こんなァ!?」


 確かに土守陸夜は、天才と呼ばれる部類にカテゴライズされる。

 魔導至上主義に傾倒(けいとう)しており、少々性格に問題があっても優等生と呼ばれて当然である――と、誰もが認めるだけの能力は持ち合わせているのだ。

 実際、以前は六発までだった魔力弾の同時制御も、短期間で九発に向上している。決して口だけの人間ではない。

 だがやはりというべきか、所詮(しょせん)は優等生止まりでしかないのだ。


 実際、“竜騎兵(ドラグーン)”とは、単騎で戦況を変え得る力を持つ一騎当千の戦士。

 ごく一部(・・・・)を除いた学生が相対してどうにかなる相手ではない。


 故に陸夜には酷な話ではあるが、そのごく一部に該当しているわけではない彼では、勝つとか負けるとか、そういう次元の話ですらないのだ。

 だからこそ、“竜騎兵(ドラグーン)”よりランクが落ちて小回りが利かない大型竜種を相手に逃げ回ってくれ――というのが、この戦場における彼のミッションだった。


 本来、一年の身分でそれを任される時点で胸を張るべきであり、殊勝な態度を取っていれば、頼りになる戦力として見られていた場面もあったことだろう。


「ほ、僕の魔弾が……」


 だが陸夜は自分が一番でなければ気が済まない。

 鋼士郎は別格としても、自分と大して差がないと思っていた雪那の真の全力を見てしまったことで、変な形で闘志に火がついてしまったのだ。


 成績順が一つ上でしかない女子の雪那は、“竜騎兵(ドラグーン)”を相手にして互角以上に立ち回っている。

 片や自分は障害物としても見られていない。

 そして、その理由も単純極まりないとあって、更に陸夜の焦燥が増していく。


 その上、雪那とネレアはただの陽動(・・・・・)で、彼の必殺技(アイデンティティ)と称せる魔弾を超える魔力弾をばら撒いているのだ。


 更にネレアの出力は、教員の“上級魔導(ブレアバレット)”の出力を優に超えている。

 雪那に関しても、運用難易度が上がる“魔力変換”を付与した状態ながらも、多弾数を自在に操っている。

 評定という上限が決まっている成績表では現れない力量差が、これでもかと剥き出しになっているのだ。


 それ故に意固地になって戦ったわけであるが、現実は残酷だった。

 しかも自分が立ち退いた瞬間、グレイドがジルを引き付け始めたことも相まって尚更 悲壮感が増していく。


 皇国最強の魔導騎士。

 陸夜はそんな自分の夢が砕け散る音を聞きながら、涙目で高みに立つ戦士を睨み付けた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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