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第94話 混沌とドジっ娘

「えっとローグ教諭と、それに……?」

「こいつぁ……」

「あら、シュトローム教諭。貴方にはピットの生徒に付いているように言ったつもりなのですが?」


 二階堂は突然の来訪者に驚きを隠せない。

 ローグ教諭は不思議そうに辺りを見回す女性教師に対し、憐憫(れんびん)交じりの眼差しを向けている。

 そして俺は敵側の増援である可能性も――と、三者三様。


 少しばかり緩んだ雰囲気が元のシリアスを取り戻しつつあるが――。


「えっと、お花を()みに出たら迷子に……って、そんなことを言っている場合じゃありません!」


 対するシュトローム教諭は、恥ずかしそうに指をモジモジさせながら機密区域に侵入してしまったことを弁明している。

 もし、この人があちら側の戦力だったら、人間不信になりそうだ――と、一周回ってさっきまでの動揺が落ち着いていくのを感じていた。


 でも当のシュトローム教諭は、逆にヒートアップしていき――。


「これは一体どういう状況なんですか!?」


 斬撃で(へこ)んだ床。

 内側から力任せに(ひしゃ)げた扉。

 戦闘装束こそ出していないが、武器を手に向かい合う俺たち。

 それも教師二人と生徒一人が、精密機器の押し込められた部屋で対峙している。


 どこからどう見ても、戦闘の真っ最中であり、とても指導だと流せる様な状況ではない。

 結果、シュトローム教諭は温和で天然な様子とは対照的に語気を荒げた。


「そんなに怖い顔をしないでください。可愛らしい顔が台無しですよ」


 だが芝居かかったような動作で肩を(すく)めるローグ教諭には効果がないようで、当の本人は愉し気に笑うのみ。


「――ッ!」


 むしろシュトローム教諭は、そんな彼女を前にして全身を強張らせながら目を見開いている。

 この反応からして、鉄仮面を崩したローグ教諭に対し、困惑を通り越して恐怖すら感じているのだろう。

 だがそんな彼女の反応は、エーデルシュタインも一枚岩ではない――という、可能性を示唆(しさ)しているに等しい。新たな情報の一つだと考えていいのだろう。


 困惑する天然教師。

 口を割る気は無いドS女王様。


 そしてAE校の内情が分からない以上、俺も下手に動けない。

 そんな最中、痺れを切らした単細胞が声を上げたことにより、膠着(こうちゃく)状態から脱することになる。


「あー、もうめんどくせぇ! ローグ先生よぉ!! あの姉ちゃんも、一緒に殺っちまっていいのかぁ!?」

「この状況では致し方ありません。構いませんよ」

「そんじゃ、遠慮なく……! ゴミガキはさっさと始末して、姉ちゃんとは最期に楽しくお話してぇなァ!! おいッ!!」


 まずは前菜――とばかりに、またも斬撃魔導が頭上から迫って来る。

 俺としても、この単細胞に用はない。

 さっさと片付けてしまおうと、右手首のアンカーと左手の“白亜の剣(アーク・エクリプス)”を構えて迎撃態勢を整えるが――。


「生徒相手に何をやっているんですか……!?」

「な……ッ!? この、アマ!?」


 突如として、二階堂の巨体が宙に浮き上がる。

 理由は二階堂の進路を防ぐように躍り出たシュトローム教諭によって、奴の右手首が掴み取られていたからだった。


「魔導術式の威力と発動速度は、及第点(きゅうだいてん)。でもただ魔力を込めれば、強い攻撃を出せるわけではありません。込め過ぎた魔力が四散してしまっていますし、とても教師とは思えない無駄の多さですね」

「ぐ、がああァぁっ――ッ!?!?」

「それにフェイントなしで、正面から突っ込んで来るなんて、減点対象。その結果が相手のカウンターへの対処も考えていない大振り……」


 なんと、シュトローム教諭は手首を掴んで持ち上げた二階堂を頭の上でぶん回し始める。

 細身の女性が一九〇センチ近い大男を片手で振り回している様は、いくら魔力での身体強化が成されていると言っても、異様の一言でしかない。


「その他諸々、全部加味して落第点です。基本からやり直してきなさいッ!」

「――がっ、ふぁっっ!?!?」


 直後、華麗なスイングで、背中から床に叩きつけられた二階堂は見事にノックアウト。陥没した床で埋葬されたかのように沈黙する。

 不意を突いたとはいえ、“魔導兵装(アルミュール)”なしでベテラン教師を倒してしまうとは――。


「さあ、お話聞かせてもらいますからねッ!」

「戦いっぷりと比べて凄い落差だな。まあ確かに腕っぷしは大したもんだが……」


 一方のシュトローム教諭は、両手を腰に当ててプンスコ顔。

 色々ツッコミが追い付かない。


 まあ何にせよ――。


「残るは貴方一人だ。今の五分で()かなきゃならないことが山ほど出来たし、このまま無力化させてもらう」


 白刃をローグ教諭へ向け、殺気を込める

 対抗戦についてもそうだが、何よりようやく掴みかけている真実への断片を逃すわけにはいかない。


「これは少々分が悪いですねぇ。でも……」


 片や固有(ワンオフ)機持ち。

 片や代表生徒に慕われる実力派教師。


 完全に追い詰めている。

 実際、彼女の表情から、今までの余裕が消え失せつつあることは事実だが――。


「わ、っぷ!?」

「これ、は……ッ!?」


 緊迫から一転、突如として振動と衝撃が周囲を駆け抜ける。

 一方、これはローグ教諭からの攻撃というわけではないのだろう。

 さっきの今で、この広大なメインアリーナそのものを揺れ動かすような魔導を放てるわけがない。


 だがその一方、これは明らかに人災だ。

 まるで上から何かに殴りつけられたかような衝撃の抜け方は、自然に起こる地震とはかけ離れているからだ。

 今はバランスを崩して倒れ込んで来たシュトローム教諭を抱き留め、断続的に続く振動に耐えながら険しい顔で周囲を見渡すことしか出来ないが――。


「時間の様です」

「何を……!?」


 ローグ教諭は、分かって(・・・・)いた(・・)かのように飛行魔導を起動。

 振動の影響を受けない空中を使って逃走を図っていた。


「逃がすか!」


 それを見た瞬間、“白亜の剣(アーク・エクリプス)”から“白亜の拳銃(アーク・ミラージュ)”へ形態移行。

 蒼穹の魔力弾を撃ち放つ。


「あら、モニターを見たらどうですか? 私を追うより、やらないといけないことがあるはずですが――ねっ!」


 しかし動き出しの分、奴の方が一手早い。

 さっき以上の出力で魔導鞭が振るわれ、斬り裂かれた鋼鉄の床が跳ね上がる。それは畳返しの様であり、魔力弾を防ぎながら俺と奴を分かつ壁と化した。


 だとしても、絶対に逃がすわけにはいかない。

 こうなったらシュトローム教諭を抱えたまま、フリューゲルの大出力で一気に追撃するしか――と、魔力を開放しかけた瞬間、そんな思考の熱に冷や水をかけられるような出来事が勃発した。


「こんな、ことが……!?」


 モニター越しに聞こえてきた絶叫。

 それを見て絶句している、シュトローム教諭。


 僅かに横目を向ければ――。


 アリーナの天蓋(てんがい)を突き破り、さっきの衝撃を巻き起こした者たちの姿が飛び込んで来る。


「ちっ、呼ばれてもいない客が次々と……!?」


 学園上空に展開するのは、(おびただ)しい影。

 大小から成る軍勢は、この世界に生きる者にとっての死の象徴――“異次元獣(ディメンズ・ビースト)”に他ならない。


 そして――。


「“竜騎兵(ドラグーン)”……!?」


 その軍勢を従える三体(・・)の“竜騎兵(ドラグーン)”が、天頂高く(たたず)んでいる。

 つまり下手をすれば、国ごと落されてもおかしくない戦力が学園上空に集っているということ。


 状況はより混沌を極めていく。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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