第85話 それぞれの想い
振り抜かれた大剣を弾けば、腕にかかっていた重みが離れていく。
ギリギリセーフって感じだな、全く――。
「君は……っ!?」
俺とは違う制服を着こんだ男子生徒が声を上げる。
コイツは確か――と、前に雪那から教えられた知識を引っ張り出している最中、当の本人は既に構えていた大剣を格納していた。
仕掛けたのはウチの僕様からだし、コイツはそれを迎え撃とうとしただけだ。よって、俺から伝えるべきことはない。
そう、俺からは――。
「随分ご立腹だけど、良いのか?」
俺は敵の大将――グレイドの質問に答えることなく、彼の視線を誘導するように観覧席を指差す。
そこにあるのは、長い金髪を揺らしながら降りてくる美人教師の姿。
「もうっ! こんな所で何をしてるの!?」
「うえっ……!?」
「詳しい話を聞かせてもらいますからねっ!」
顔を強張らせたウサ耳少女。
肩を竦めるグレイドと他三人。
対して、シュトローム教諭は、教師らしく檄を飛ばしている。
しかし意外とちゃんとしているというか、かなり様になっている。さっきまでとは大違いだ。
とはいえ、ジャンプして降りて来る時にパンチラしていた辺り、やっぱり隙だらけには違いない。
まあ何にせよ、AE校側はシュトローム教諭に任せておけばいいだろう。
問題は――。
「貴様ァ!! この、離せ! 代表落ちのFクラスの分際で、僕の麗しき“オーファン”に触れるんじゃないッ!!」
顔を真っ赤にして細剣を押し込もうとして来る、この馬鹿だ。
とはいえ、いくら奇声染みた叫びを上げようが、突き立てられた細剣は何の脅威にもなり得ない。
刀身を掴み取った状態から、抜け出すことが出来ないでいるのだから――。
ちなみに当然の話ではあるが、本当に素手で真剣を掴んだわけじゃない。あくまで掌を魔力で強化した上で、一連の行動を起こした。
加えて、グレイドとの対応の違いは、文字通り破壊力の差を見越しての判断によるものだ。
そして当の俺は、喚く土守をスルーし、奴の背後に現れた人物に対して声をかける。
「遅いお着きで……」
「そう言ってくれるな。担当の者が動かなかったのでな」
「途中で急ぐのを止めたでしょう?」
「あのタイミングでは、私は間に合わなかった。それにお前なら何とかしてくれると信じていたさ」
「今回だけですよ。こんな私闘騒ぎに巻き込まれるのは勘弁なので」
土守の背後から現れたのは、我らが鳳城先生。
しかし冗談交じりの言葉とは裏腹に、額には一筋の汗を滴らせている。事態に気付いて、急行して来たのだろう。
「土守、剣を納めろ」
「ですが!?」
「反論は聞かん。事情なら後で聞いてやる」
「ぐ、ぐゥ、っ!? 分かり、ました……」
あくまでヒートアップする土守ではあったが、鳳城先生の口調からは有無を言わせぬ凄みが感じられる。
結果、奴の怒りは冷や水を被ったように急速鎮火させられていた。
「シュトローム教諭でしたか? そちら側の話も聞きたいので、会議室までご同行願いますか?」
「は、はいっ! 勿論です!」
“オーファン”が解除され、私闘騒ぎは収束。
とはいえ、ある意味本番なのは、ここからの事情聴取だろう。
鳳城先生を前に、シュトローム教諭は緊張した面持ちを浮かべていた。
だがそうして事態が落ち着きを取り戻しつつある中、突如聞き覚えのない声が響いて来た。
「――でしたら、私も同行させていただきますね」
「ローグ教諭、まだおられたのですか?」
「ええ、少しばかり騒がしかったものですから」
現れたのは、身長が一九〇センチを超えていそうな長身の女性。
加えて、キリリとしたキツい顔付き。
アップスタイルに纏められた髪。
色気の欠片もないカジュアルスーツまで含めれば、これぞキャリアウーマンという風貌の女性だった。
「私はフィオナ・ローグ。AE校では魔導実技を担当しております。以後お見知りおきを……」
表情一つ変わらぬ、事務的過ぎる自己紹介。
彼女の発言から察するに、さっきまで鳳城先生と打ち合わせを行っていたシュトローム教諭の上司――というのが、この人なのだろう。
シュトローム教諭とは真逆の冷たさ。
鳳城先生とも毛色が違う。
正しく、ロボットとでも話しているのかと錯覚させられそうなクールっぷりだった。
「では会議室に向かいましょう。詳しい事情はそこで……」
そうして鳳城先生に促された一同は、各々が千差万別の表情を顔に張り付けながらメインアリーナを後にする。
対抗戦関係者である、俺以外の全員は――。
「す、少し、待ってもらえるだろうか!?」
一方、俺一人が別方向に進もうとしていることに気づいてか、少し焦ったようなグレイドから声をかけられる。
その場の全員に視線を向けられ、何とも居心地が悪い。
「その、君がFクラスだというのは、本当なのだろうか? それに代表ではないというのも!?」
「二つとも間違いないな」
「ああ、何たることだ……君と相まみえることを楽しみに、極東の国まで来たというのに……これでは怒られ損じゃないか……!?」
別に隠すことでもない。
普通に答えた直後、当のグレイドは顔を手で覆いながら重々しい嘆息を零した。
落胆と憤り。
理由はよく分からないが、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
「Fクラスは……この際どうでもいい! ですが、本当に彼は代表に含まれていないのですか!?」
「残念ながら……そういうことになる」
「ありえないっ!? その選択は理解出来かねます……というか、本当に意味が分からないのですが!?」
「決まってしまったものは仕方ない。これは学園の決定なのだからな」
直後、グレイドはシュトローム教諭やウサ耳少女の制止を振り切り、なぜか鳳城先生に食ってかかり始めた。
対戦相手から代表入りを熱望された時は、一体どういう顔をしていればいいのだろうか。
まあ本番前日であるこのタイミングに加え、学園の裏事情まで絡んでいるのだから、今更騒いだところで何かが変わるわけでもない。
程なく、ローグ教諭の魔導鞭で絡めとられたグレイドを含め、俺以外の面々は足早にアリーナから去っていった。
そして本番直前での乱闘騒ぎ――という波乱の展開を演じながらも、今日という日は終わりを告げる。
ミツルギ学園とエーデルシュタイン・アカデミーの学園対抗戦。
それぞれ想いを胸に、俺たちは運命の日を迎えることになった。
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