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第84話 プライドの咆哮【side:Everyone】

 ◆ ◇ ◆



 天月烈火とヴィクトリア・シュトロームの邂逅(かいこう)と時を同じくして――。


 ミツルギ学園側の代表者は当日の下見を()ねて、メインアリーナで決起集会を行っていた。


 とはいえ、そのほとんどは教頭のありがたい演説を聞いた後に即解散。残っているのは、一年の五人だけ。

 理由はこれが初めての事前顔合わせであり、選出順などについて話し合わなければならないからだった。

 仮にもチームである以上、本番前日にこの状態は異常と言わざるを得ないだろう。

 しかし第二研究所で訓練していた面々は、むしろそれが正解だったと思い知らされることになる。


「ふふっ! 出来損ないが消えて、ちゃんとチームらしくなってきたじゃないか! なぁ、七重(ななえ)?」

「ええ、何と言っても、秘密特訓で強くなった土守さんと神宮寺さんがいれば、二勝は確定! 後は三人の誰かで一勝すれば、勝利の方程式が組み上がります。Fクラスがいなくなって、負け筋が一つ潰れたわけですからね!」


 代表者発表以来、姿を見せることの無かった土守陸夜は、取り巻きの一人――七重健緒(ななえたけお)に対して楽し気に問いかける。

 これまでの期間に相当の修練を積んだ自負からか、自信に満ち溢れた表情を浮かべていた。


 ちなみに健緒(たけお)は、かつて烈火に魔力弾を蹴り返されて悶絶していない方の取り巻きであり、“シオン駐屯地”での合同訓練にも参加していた内の一人だ。

 もう一人の取り巻きはギリギリ代表に引っ掛からなかったということで、内心彼を見下す笑みを浮かべながら、陸夜に媚びを売っている。


「ねぇ、神宮寺さん……」


 困惑と侮蔑(ぶべつ)

 アリアは険しい表情を浮かべると、恐らく自分と同じ心境であろう雪那に声をかける。


「連中は捨て置け。構うだけ時間の無駄だ」


 一方、対する雪那の回答は、何とも淡泊なものであった。


 実際、保護者会に零華や惣一郎が参加していれば、また別の形になったのかもしれないが、今の二人が学校行事に構っている暇などあるわけもない。

 それこそ、億単位の人間に関わる責任ある立場として、その頭脳や手腕を振るっているのだから当然だろう。

 金とプライドだけが有り余り、子供の行事に顔を真っ赤にしながら首を突っ込んで来るような者たちとは、根本的に次元が違うのだ。


 まあ何にせよ、もう決まってしまった以上、烈火が戻ってこないことだけは確かだ。

 結果、雪那の表情は、悪い意味で氷の女帝に相応しい冷淡さを発揮してしまっていた。


「……」


 そして最後の一人――祇園聖(ぎおんひじり)は、双方の和に入れず、無言で佇むことしか出来ないでいる。

 陸夜たちとは反りが合わず、心境としては限りなく雪那たち側であることは言うまでもないだろう。

 だがそれはそれとして、ズカズカと女子の会話に入っていくのも――という状況だった。


 土守一派はチームがAクラス統一になって、気分が最高にブチ上がっている。

 アリアと聖は、理不尽な交代劇に戸惑うばかり。

 雪那に関しては、もうそれ以前に呆れ返っている。


 不協和音が漂う――という他ないだろう。

 本番直前での人員交代が強行された結果、致命的なまでにチームとしての体裁(ていさい)を成していないのだから。


「……」


 せめて、これ以上雰囲気が悪くならないように、土守一派を無視して去ろうとする雪那だったが――。


「へぇ……思ったよりも小綺麗じゃないか。小国と言っても、ウチの姉妹校なだけあるようだ」


 一年代表の五人は、アリーナの入り口付近から響いた聞き覚えの無い声に意識を向ける。

 視線の先に佇んでいるのは、見覚えのない制服を着こんだ五人の少年少女。


 それは異国からの来訪者に他ならない。


「ねぇ、いい加減戻らないとだよ? 興味あるのは、分かるけどさ」

「ミス・ヴィクトリアなら許してくれるさ。ミス・フィオナにバレたら地獄だがな」

「うへぇー」


 先頭に立つのは、興味深そうに周りを見回す長身の少年と、彼にジト目を向けるウサ耳カチューシャの少女。

 一団は初めて見る異国のアリーナ内を歩きながら、楽しげに談笑し始めてしまう。


 だが元からアリーナにいる五人と視線が合ってしまうのは、最早必然であり――。


「ミツルギ学園の神聖なアリーナに土足で踏み込むなど何事だ!? 名乗れ! 君たちは何者だ!?」


 開口一番、陸夜が言い放つ。

 気分を害されたとばかりに、いつもの調子で声を張り上げていた。


「お、お邪魔してすみません! 私たちはAE校の一年で……前日入りして暇だったから、下見がてらちょっと来ちゃった……みたいな? ウチのリーダーも気は済んだと思うので、私たちはこれで……って、いないっ!?」


 ウサ耳少女――リラ・ルプスが申し訳なさそうに頭を下げる傍ら、長身の少年――グレイド・ヴァイパーは一歩で踏み切り、気付いた時にはアリーナの中央へと到達してしまっていた。


「な……ッ!?」

「これはこれは、御高名(ごこうめい)はかねがね……!」


 一年代表たちは全く反応できず、二手ほど遅れてグレイドの動きを知覚した後に驚愕。

 だがそんなミツルギ側一同をスルーして視線が向けられる先は、この場で唯一平然と佇んでいる雪那の元だった。


「名乗るのが遅れて申し訳ない。僕はAE校一年のグレイド・ヴァイパーと申します。かの有名な、ミス・雪那にお会いできるとは光栄です」

「御冗談を……それにヴァイパー殿こそ、お噂は耳にしています」

「いやいや、“氷獄女王アブソリュートクイーン”に褒められるほどではありません」

「ご謙遜(けんそん)を……。既に実戦で活躍され、“錬双戦騎士(ブレイヴソリデッド)”と称されているのでしょう?」


 今ここに並び立つのは、両代表のエースにして一年チームの大将。

 次代を(にな)うに相応(ふさわ)しい、超高校級の魔導騎士だ。


 故に一般生徒は、二人の顔合わせを固唾(かたず)を飲んで見守ることしか出来ないでいた。

 癇癪(かんしゃく)を起した一人を除いて――。


「おい、貴様! 挨拶しなければならないのは、雪那さんだけではないだろう!? この僕! “魔弾剣士(クーゲルフェンサー)”こと、土守陸夜に声をかけないとは、一体どういう了見だ!?」


 陸夜は雪那と同等の知名度を誇っているはず(・・)の自身が(ないがし)ろにされたことが、余程許せなかったのだろう。

 かつての決闘騒ぎを思わせる勢いで激昂している。


「……ド、カミ? 申し訳ない。ミス・雪那以外の生徒は、ほとんど記憶にないんだ」


 例外はあるがね――と、内心付け加えながら、グレイドはお手上げとばかりに両手を上げる。

 AE校の魔導実技の責任者に手渡された特記戦力のリスト。

 そこに記されていたのは二人(・・)だけであり、完全に心当たりがないようだった。


 確かに陸夜が固有(ワンオフ)機持ちであり、一年生ながら仰々(ぎょうぎょう)しい異名を付けられるほどに有名で優秀な生徒であることは事実だ。

 だが有名とは言っても、所詮(しょせん)はミツルギ学園一年生の中では――というレベルでしかない。

 逆に雪那の知名度は、世界規模(ワールドクラス)


 つまり、二人がワンツートップの成績を取り続けていたこと自体は事実ではあるが、その境界は陸夜本人が思っているよりも遥かに深かったということ。

 そう、雪那にとってはミツルギ学園の成績一位ですら、上限がそこで頭打ちであるが故に居座っている程度のものでしかない。


 一位、二位――と、表面上拮抗しているように見えていただけだったのだ。


「――けるな。また……僕を……そんな……こと」


 遠巻きに雪那以外は眼中にないと発したグレイドに対し、陸夜は思考が焼き切れそうなほどの怒りで震える。

 声にならない呟きと共に、歯茎(はぐき)(きし)む。


『果たして、学園の恥はどちらなのだろうな?』


 雪那から拒絶された屈辱。


『逆に僕様には、馬鹿にされない言動をして欲しいわけだが?』


 Fクラスを相手に打ち砕かれた誇り(プライド)


『くそぉ! くそぉぉ!! くそぉぉぉ!?』


 偽りの襲撃者を相手に苦戦して、思う通りにならなかった世界。


 陸夜は全てが許せなかった。

 故にどんな障害でも力でねじ伏せられるように己を鍛え上げたのだ。


 対してグレイドの発言は、そんな陸夜のプライドを激しく傷付けるものであり――。


「ふじゃけるなああぁぁぁ!!!!!!」


 耐え難い屈辱。

 そして激昂。


 “オーファン”を起動して完全武装した陸夜は、細剣(レイピア)を手にグレイド目掛けて駆け出した。


「貴様、何をやっているッ!?」

「止める必要はないよ」


 武装展開。

 グレイドは大剣を呼び出すと共に、前に出ようとする雪那を制した。


「うおおおおおおぉぉっ!!!!」

「これは教諭たちに黙って出歩いた報いかな?」


 勇ましい雄叫びと共に突っ込む陸夜に対し、グレイドは大剣を構える。

 本番前のアリーナは一触即発どころか、刃物が光る事件現場と化してしまった。


 だが双方、剣を抜いた以上、待っている未来は一つだけ。

 直後、両者は互いの得物を振り抜く。


「これ、は……?」

「なっ……!?」


 だが二人の刃が火花を散らすことはなかった。

 陸夜の細剣(レイピア)は素手で、グレイドの大剣は白亜の刃によって、行く先を(はば)まれていたのだから――。

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