第8話 慢心と現実【side:土守陸夜】
◆ ◇ ◆
騒がしい朝が過ぎ去った後の放課後、学園の訓練施設を一つの影が飛び回る。
「ふっ、はあああっ!!」
戦闘装束に身を包み、細剣を手にしているのは、土守陸夜。
使用魔導兵装の名は、“オーファン”。
そして現在、陸夜は“インテンスオーク”と呼ばれる“異次元獣”と戦いを繰り広げている。
なぜ学園内に異次元からの侵攻者が存在するのか――という問題だが、このオーク自体は戦闘訓練用シミュレーターで作り出された偽物に過ぎないからだ。
ただ過去のデータが反映されており、戦闘能力は元の本物と何ら変わりない。
つまり実際に“異次元獣”と戦っているのと、何ら変わらない状況にあるわけだ。
「■、■■■■――!!!!」
「そんな大振り、当たるものかッ!! 受けよ、魔弾の嵐!」
――“マジックバレット”。
陸夜は振り抜かれたオークの腕を避け、小型魔力弾を連続で撃ち放つ。
「■■■■■、■――!?!?」
直後、陸夜の魔弾がオークの横っ腹に炸裂。
野太い悲鳴と共に、肉を焦がしたような臭いが周囲に漂う。その上、魔弾の直撃に悶絶しているオークは、大きな隙を晒していた。
全ては陸夜の狙い通りであり、こんな絶好の機会を逃すわけもない。
「今だッ!」
――“ディバインスラッシュ”。
陸夜は細剣の剣先に黄色の魔力を纏わせて特攻。
斬撃魔導でオークの肉体を斬り刻む。
「我が聖なる剣、無敵なり!」
そして騎士のように細剣を構えたところで、終了のアラームが鳴り響く。
「お疲れ様です! 気合入りまくりですね!」
「訓練メニューCの最高スコアを取っちゃったんじゃないですか?」
「ふっ、何も驚くことじゃない。だって、この僕なのだからね」
――“オーファン”、展開解除。
控室に戻った陸夜の衣装は、元の制服に戻る。その後、取り巻きから受け取った最高級タオルで顔の汗を拭った。
まるでモデルの様な立ち振る舞いを受け、女子たちからも黄色い声援が飛ぶ。
キラキラ系男子、ここに極まれり――という光景だった。
「土守くーん!」
「週末は頑張ってねー!」
「あんな奴、ボコボコにしちゃってー!!」
一方の陸夜は、これが当然とばかりにそんな女子たちの歓声に手を振って答える。その表情は明るい。
「いや、ホント絶好調っすね!」
「当然だ。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと言うだろう? たとえ相手が卑劣なゴミ野郎だとしても、僕は全力で戦うのみだ! まあこの状況で負ける方が難しいがな」
陸夜自身の所属はAクラス。更に成績も学年次席。
学園での烈火とは真逆の存在であり、この時点でも圧倒的な差があると言えるだろう。
その上、さっき使っていた“オーファン”は、とある企業が陸夜のためだけに造った“固有魔導兵装”。
一般量産機である“陽炎”を遥かに上回る性能を秘めていることは確実。
そして“固有魔導兵装”とは、開発企業が才能を見出した特別優秀な魔導使いに対して与えられた物を指す。
要はデータ収集テスターであったり、企業の広告塔としてスポンサー契約を結んだ者だけが持つことを許されるわけだ。
よって、全学年合わせても所有者は非常に少数であり、ましてやFクラスが固有機を持っているはずもなく――。
「ふふっ、魔導の腕前は、学園の成績が全てを物語っている。奴が学園貸し出しの量産機しか使えない以上、“魔導兵装”の性能もこちらが上だ。全く、我ながら僕が完璧すぎて、奴が可哀そうになって来たな」
何をどう考えても、陸夜が烈火に劣っている部分は一つもない。
負ける方が難しい――という言葉には、こういう意味が含まれていた。
「まあ見ておけ。優雅に! 猛々しく! この僕がFクラスのゴミをボコボコにするところを……!!」
陸夜は観客席を指さしながら、見事なモデルポージング。
溢れんばかりの歓声を浴びて、満足げな表情を浮かべている。
自分の勝利という未来に酔いしれながら――。
共に名家に生まれ、エリート街道を突っ走る陸夜と雪那の立場はよく似ている。
魔導も勉学も常にワンツーフィニッシュ。
男女でクラス代表者を出せば、絶対に二人が選出される。
そう、いついかなる時も二人の名前が並んできたのだ。
そして雪那に釣り合う男子は、一体誰なのか。
同時にそれは、陸夜に釣り合う女子は誰か――という問いにも、置き換えられる。
道行く生徒に話を聞けば、それぞれ陸夜と雪那の名が挙げられるところまで含めて――。
二人の魔導の腕前は、高い成績が証明している。
その上で、既に将来は国の要職に就くことが決まっており、豪快に贅沢をして暮らしても金に困ることはない。
魔導至上主義と呼ばれる社会においては、最強の人生勝ち組だと称せるはず。
そんな天に選ばれし、美男美女が結ばれるのは当然のこと。
周囲はそれを認め、陸夜もそう認識している。
故に自分の勝利を信じて疑わない。烈火の存在など、それ以前の問題であると鼻で笑っているわけだ。
だが陸夜には、一つだけ大きな誤算があった。
それはこの盛り上がりに苦笑している、シミュレーター担当教師のモニター内に隠されている。
まずミツルギ学園は、小・中・高一貫教育――という形をとっている。
その中で本格的に“魔導兵装”を使い始めるのは、高等部になってからとされているが、時折例外も存在していた。
だが年少のデータなど見る機会が皆無であるため、画面に表示される方がかえって邪魔になる。
結果、半ば通常設定とされている“フィルター・高等部”では、初等部・中等部のスコアデータが弾かれているわけだ。
だが本来の全員表示では、先ほど陸夜が出したスコアデータから何段か上に二つの名前が並んでいる。
天月烈火と神宮寺雪那。
それも初等部・五年生時点のデータが――。
つまり一一歳時点の烈火と雪那は一般量産機を使って、一六歳の陸夜を上回るスコアを叩き出し、同じ訓練内容をクリアしていたことを意味している。
それこそが陸夜にとって、大きすぎる誤算だった。
「身の程知らず……という言葉を、骨の髄まで叩き込んでやろう! その時を待っているがいいッ!!」
一方の陸夜は、己に待つ栄光の未来を思い描き、自信溢れる笑みを浮かべる。
全ての決着が付くのは、今週末。
果たして、陸夜が思い描いた未来が訪れることはあるのだろうか。
ただ一つだけ確かなことは、陸夜が高笑いしている今この瞬間――。
魔導の封印を解いた烈火が、新たな剣を手にしようとしていることだけだった。
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