第77話 滅亡へのカウントダウン
天月家のリビングは、重苦しい空気に包まれる。
とても聞き逃せない零華さんの言い様に対し、雪那の瞳は困惑に揺れていた。
「今の情勢が緊迫しているのは知っています。ですが皇国滅亡まで時間がないとは……一体、どういうことですか?」
「……一柳家の解体に伴って、皇国全体に変化が起きているのは、二人も分かっているわね?」
「はい、当時者ですから……」
今現状、“魔導兵装”生産以外にも一柳と通じていた連中に関しては、一斉に摘発されている真っ最中だ。
それこそが零華さんの言う“変化”の要因であり、先の一件について情報統制が敷かれている理由でもある。
だが当初から予測されていた話であり、想定内の事態だったはずだが――。
「汚職や賄賂なんかは、日常茶飯事。それどころか、手柄欲しさに前線の被害状況や物資供給に関しての改竄もやっていたらしいわ。それもご丁寧にバレない様に立ち回ってね。おかげで軍上層部と政府は大混乱。上が騒がしいのは、そういうことよ」
「それは……」
「……腐ってるな」
俺たちは零華さんが言わんとしていることを理解した。
結果、俺と雪那は呆気に取られざるを得なかった。
「しかも、改めて統計を取り直した結果……機体は四割、騎士団員の消耗率は三割増しだったことが発覚。現実の被害状況は予想以上に深刻というわけね。それでいて一柳離脱の穴を埋めないといけない状況にある。後は言わなくてもわかるわよね?」
「実戦で通用する魔導騎士の育成より、損耗率の方が上回ってしまった。今のままではいずれ……」
現実は予想以上に深刻――という零華さんの言葉は、正しくその通りだろう。
異次元からの敵に対抗出来るのが魔導騎士だけである以上、魔導使いがいなくなればその時点で詰み。
よって、このままでは、もうダメかも――ではなく、滅びの未来が確定しているようなもの。
実際、国内有数規模の“シオン駐屯地”ですらあの様だったわけで、現有戦力での防衛が困難であるのは明白だろう。
しかも実は戦力数値をちょろまかしていて、手が足りなくなりそうで――なんて、冗談で済む話じゃない。
それこそ悪い方の上振れで“竜騎兵”が押し寄せでもすれば、明日にも皇国が攻め落とされる可能性すらあるのだから――。
「何にせよ、今後は個人で受け持つ相手の数が増える。だから個の戦闘能力を上げたいってことか」
「であれば、まず真っ先に戦力アップを狙えるのは、“魔導兵装”……というわけですね?」
こればかりは、ある意味で零華さんも被害者だし、首を縦に振るしかないだろう。
危急を要する現状を受け、三人で重たい息を吐いた。
「そんなこんなで二人にテスト役をお願いするってわけ」
「でも、どうして俺たちに?」
「はっきり言って、今の二人は皇国でも五本の指に入る実力者よ。一対一に関してなら……だけどね」
「なるほど、手が空いている魔導騎士の中で俺たちが適任だったわけか」
「そういうこと。よろしいかね? お二人さん」
「ああ……」
「ええ、とりあえずは……」
「まあ難しい話をいっぱいしちゃったけど、二人はそんなこと考えなくていいわ。ましてや国を守るため……とか、前線の魔導騎士のために……なんて、もってのほかよ。そんなことは、私も雪那ちゃんのお父様も求めてないわ」
一方の零華さんは、怪訝さを滲ませているであろう、俺たちに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「新しい力は自分の成すべきことを果たすために使って欲しい。何かしたいって時……何も出来ないほど、もどかしいことはないでしょうしね。二人にはきっとこれから先にそういう時が来てしまうと思う。だから、後悔しないように……ね」
「零華さん……」
「偶には、保護者らしいこともしないとね」
零華さんは俺たちの前で微笑を浮かべる。
ただそれは、どこか複雑そうな雰囲気を放つものだった。
こちらから聞くのも憚られるほどに――。
「実際の本音は、二人に無事でいて欲しいだけなんだけどね。とにかく、そういうことよ。機体の調整や新形態の試験稼働なんかで色々忙しくなるけど、頑張ってくれると嬉しいわ」
“特異点”が学園を始めとした都市部に発生したこと。
数年ぶりらしい“竜騎兵”の襲来。
腐敗しきったクオン皇国の内情――。
何より、事態の深刻さも相まって、上手く言葉を返せないというのが正直なところだった。
「はい! シリアスモードはここまで! それより、この部屋に入って来る時、何か困ってることがある風な話が聞こえて来たけど、何かあったのかしら?」
一方の零華さんは、パンっ――と、手を叩くと共に明るい声音で話題を振って来る。
こういう時の立ち直りの早さは、俺たちにはない大人の力ってやつなのかもな
「実は……」
あまりに強烈な事態の応酬によって、すっかり忘れかけていた俺たちの問題。
まあ今は目の前のことを全力でやっていくしかない――と、零華さんに俺たちが置かれている現状を話したのだが――。
「あら、それなら――」
零華さんは満面の笑みを顔に張り付け、裏技とも称せる解決策を提示してくれた。
よくよく考えれば、どうして真っ先にこの人に頼ろうとしなかったのか――と、思わされた最強の解決策を――。
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