第66話 真相解明
「で、出まかせだ! こんな子供の戯言に耳を貸す必要はありません! お前たちもいつまで寝ているんだ!? さっさと奴を排除しろ!!」
いつの間にか会場の端へ逃げていた一柳は、内壁を背に覚束ない足取りで立ち上がる。
直後、付近に倒れている警備隊の腹を蹴り上げながら、甲高い怒鳴り声を上げた。
「二流以下だった一柳家の大躍進。それは運や商才……という言葉だけでは片づけられない異常さだった。だからその不自然な部分を調べていく中、断片的な情報が繋がり始め、隠されていた真実へと到達した」
一柳親子以外の面々は、俺の言葉に思う所があったのだろう。さっきまでの狂乱が収まり、誰もが動きを止めている。
「可もなく不可もなくといった程度の利益が、数年前を境に急激に跳ね上がった。どの事業においても……だ。しかもそれが分かっていたかのように事業拡大が行われ、すぐさまクオン皇国のトップ企業にまで成り上がってみせた。特に顕著だったのは、物理的に不可能な低価格で取引される“魔導兵装”のパーツ……」
「こんなのは陰謀論だ! 子供の妄想は高校生になる前に卒業したまえ!」
みんなが聞き耳を立てる中、一柳親子は声を裏返しながら発狂する。
だが困惑している雪那を気遣いながらも、喚く親子を無視して話を進めていく。
「そこを中心に調べていく中で、“トルドー財閥”という団体からの度重なる物資の横流しと、莫大な送金履歴が確認された。案の定というべきか、不正ルートを使用していたわけだ。そして“トルドー財閥”なんて企業は、出自どころか実態すらも不鮮明。一体、何が起こっているのやら?」
「だ、誰かあの小僧を黙らせろ……ッ!」
「しかも他社へのスパイ行為に破壊工作。元々金融系だった繋がりを利用して、他企業の情報を他国へ売り払っていた。極めつけが人身売買に非合法な人体実験。他にも“トルドー財閥”とかいう団体から指示を受けて、色々とやって来たようで……。その報酬が、今の地位ですか?」
「違う、違うッ!!」
親子は頭を抱えてふらつきながら、否定の言葉をうわ言のように呟くのみ。
嘘でもなんでも反論すべき場面においては、最悪手の行動と称せるだろう。
まあ弁解できる余地がない以上、仕方ないのかもしれないが。
「そして、ここからは俺の推測ですが……。この結婚は、野望の第一歩。通過点といったところでしょうか?」
「だから戯言を……!?」
「構わん。続けたまえ」
「じ、神宮寺さん!?」
「……せっかくだ、最後まで聞こうじゃないか」
雪那の親父さんは一柳家の発狂に対しても微動だにせず、話の続きを促して来た。
「烈火……」
「大丈夫だ」
俺は制服の袖を掴んで不安げに瞳を揺らす雪那に目線を送った後、事態の真相に迫るべく再び当主たちと対峙する。
「元々の一柳家は、どこまで行っても二流半。はっきり言って底が知れていたはず。だからこそ、成り上がって強大な地位と名誉を得るための絶対条件は、皇族に連なる家々に何らかの形で取り入ることだった」
「そんなことは、ここにいる誰も理解しているつもりだが?」
「でしょうね。双方にメリットがなければ、神宮寺家も娘を犠牲にはしないはず。それに薄汚い権力に縋り付こうとする連中が、こんなに集まったりもしないはずだ」
大人の半数以上が居心地の悪そうな表情を浮かべていた。
普段、我が物顔で汚い札束をポケットに突っ込んでいる割には、随分と小心者なようだ。いや、叩けば埃が出る連中だけが顔を背けたと言うべきか。
「当時の一柳家程度が最上流階級の人間と関係を持つのは、土台無理な話。だから“トルドー財閥”の指示を受け、彼らの要求を飲む代わりに自分たちが成り上がる地盤を固めた。ここまでが、第一段階」
「ふ、ふざけっ……」
親子の反論に付き合っていては話が進まない。
俺は淡々と言葉を紡ぐ。
「そして皇族に連なる家に婿入りして、まずはその中で当主の立場を得る。これが第二段階。その男が今日から目指すべき地点だ」
周りの連中も、ようやく話が繋がり始めたと察したのだろう。
もう逃げる素振りすらない。
「最後が第三段階にして到達地点。皇族に連なる一人としてクオン皇国の政治に参加し、いずれは最高権力者に成り上がること。国の上に立つとは、上昇志向溢れる大変ご立派な目的ですね」
「違う、違う違う……違う! 違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う……ッ!!!!」
「一柳の唯一性を確立。そのために出来上がりつつあるのが、“魔導兵装”の生産が“一柳グループ”に依存しているという現状。生産停止を盾にすれば、一柳に従わざるを得なくなるからな。全ては貴方たちが危惧しているように……」
多少ぶっ飛んでいても、俺の言葉には筋が通っているはず。
対して子供のように喚く大人――という時点で、周りからどう見られるのかというのは、考えるまでもない。
奴との初対面で警察に取り囲まれた時のように――。
「そして一柳の背後に“トルドー財閥”が存在する以上、実質的にはこの皇国が傀儡国家に成り果てることを意味している。つまり話題性重視で無理やり学生結婚させる前にやることがあるのでは……と、ささやかな忠告に来たわけです」
これが一柳家の真実。
皇国を守るために雪那を差し出すつもりが、逆に国自体を売り払うことになるとは皮肉極まりない。
そしてこんな連中の私腹を肥やさせるために、雪那が犠牲になることを認められるわけもなかった。
「……そ、そんなのは、根拠もないお前の妄想じゃないか! 妄想だ! 作り話だ!」
一方の一柳は、整髪剤で固められた髪を振り乱しながら狂ったように叫ぶ。
すると、さっきまで興味津々だった周りの連中も、一定数は奴に味方するように俺に疑いの目を向けて来る。
さっきまでの推理は、少なからず衝撃的なものだったはず。
加えて、共感や納得出来る部分が全くない――ということは、絶対的にあり得ない。
多くの大人たちが聞き入って、推理を遮ってこなかったこと。
逆に一柳親子が図星を付かれたように動揺していたことなどが、その証明となるだろう。
でもこの推理が致命的な欠陥を抱えているのは、奴の言う通りだった。
「探偵気取りで、下らないことをベラベラと喋りやがって!! 証拠もないのに馬鹿なのか、お前は!? 相変わらず一人前なのは、悪知恵だけだったようだな!! 証拠を見せろ! 証拠を!!」
そう、俺の推理には確固たる証拠がない。
どんなに筋が通っていても作り話だと言われてしまえば、それまでとなってしまう。
故に主導権を握った奴は、勝ち誇ったように叫んだ。
ただ別人のような口調は、奴の化けの皮が剥がれたことを意味しているのかもしれない。
それに――。
「証拠ならある……というか、ここにいる。言ったはずだ。伊達に遅れて来たわけじゃないってな」
そう呟いた直後、会場中が驚愕に包まれる。
再びの狂乱。
「な、何だ!?」
その理由は、俺がぶち破って来た大扉から、山吹色の光を纏った巨大水流球体が大広間に飛び込んで来たからだ。
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