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第63話 Lost Colors【side:Everyone】

 ◆ ◇ ◆



 神宮寺家本邸――。


 お付きの侍女たちは大広間の飾り付けと段取り確認。

 行きつけの店から呼び寄せた料理人(シェフ)らは、フルコースの調理。

 後は警備部隊が周囲に散り――と、皆が一様に慌ただしく動き回っていた。


 なにせ今日は関係各位の超VIPを招いて、一柳神弥と神宮寺雪那の入籍報告が成される晴れ晴れしい一日なのだから――。


 そしてそれを示すかのように、如何(いか)にもなスーツに身を包んだ中年男性(ナイスミドル)らがドレスの女性陣を(ともな)って次々と押し寄せている。


 言うまでもなく彼らは今日のゲストであり、各界の重鎮(じゅうちん)が数多く顔を揃えている。

 今回の婚姻(こんいん)がどれほど重要視されているのか――と、嫌でも見て取れる光景だった。


「いやはや、御宅(おたく)のご令嬢も大したものですな。あの気難しい一柳家の敏腕御曹司を射止めるとは……。しかしもう(とつ)がれるとなると寂しくなるでしょう?」

「まだまだ若輩の娘です、お恥ずかしい。それに彼の方が神宮寺に加わる形に落ち着きまして、これまでと大して変わりませんよ」


 会場となる大広間では多くの著名人が和やかに言葉を交わしており、神宮寺惣一朗の下にはゲストたちが列を作っていた。


「聞けば魔導騎士としても、既に超一流なのでしょう? 素晴らしい逸材(いつざい)ですなぁ。うちの愚息(ぐそく)にも見習わせたいくらいです」

「そんなことはないでしょう? 土守さんの所も上のお子さんは、大企業で固有(ワンオフ)機のテスター。次男の方も娘と同い年で既に二つ名持ちだと聞いていますし、大したものでは?」

「た、確かに凡夫ではないと思っていますが、そちらのご令嬢には遠く及びませんよ」


 しかしお祝いムードは完全に表層だけ。

 水面下では互いの跡取り自慢や事業拡大のため、相手に取り入ろうと執念を燃やしているのが実情と化していた。


 そんな最中――。


「皆様、席の方にお戻りください」


清廉(せいれん)とした声音が会場に響き、皆はその指示に従って着席する。


「本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。これより一柳神弥様、神宮寺雪那様の婚姻祝儀会を始めます。請謁(せいえつ)ながら、司会進行は私……四条舞歌(しじょうまいか)が務めさせていただきます故、どうぞよろしくお願い致します」


 中央のメインテーブルの隣、司会者席に立つのは、一柳神弥の専属侍女。

 半ば秘書の様に付き従う女性。


「まず早速ではありますが、本日の主役である二人が参ります。皆様、温かくお迎え下さい」


 舞歌は空席を一つ残して、皆が着席した所を見計らい祝議会の開会を宣言。

 それに伴って大扉が開け放たれ、二つの人影が会場に姿を現した。

 そして皆の口から恍惚(こうこつ)の息が漏れる。


 まず目に飛び込んで来るのは、白いタキシードを着こなした伊達男(イケメン)――一柳神弥。

 十人中九人は振り返るであろう端正な顔立ちに、長身が映える優雅な様。

 美形という言葉は、彼のために在るのではないか――と、錯覚(さっかく)させられる程の存在感を放っている。


 そして、もう一人――。


 (けが)れなき純白のドレスを身に(まと)った少女――神宮寺雪那。

 普段は一つに(まと)められている御髪(おぐし)は解き放たれており、艶やかな黒髪が白のドレスとのコントラストを生み出している。


 そしてシミ一つない白い肌。

 ドレスから(こぼ)れそうな豊満過ぎる胸部。

 引き締まって(くび)れた腰部。


 とても少女とは思えない色香だ。

 更にそんな魅力を引き立たせるのは、もの憂い気な彼女の“(かげ)り”。


 卓越した美貌と少女相応の未成熟さが相まって、暴力的なまでの美しさを体現するに至ったのだ。

 例え本人が望まなくとも――。


 そんな男女に対し、誰もが目を奪われていた。


 直後、この場の主役――白いタキシードを着こなした神弥が壇上に上がれば、女性たちの熱い視線が注がれる。

 それを見た神弥は、誰にも悟られぬように小さく笑みを浮かべた。


「新郎の一柳……改め、神宮寺神弥です。本日は私たちのためにご足労いただき、誠にありがとうございます」


 神弥は爽やかな笑みを浮かべながら、優雅に一礼。

 勝ち誇ったように晴れやかな口ぶりでスピーチを開始した。


「皆様ご存知とは思いますが、本日をもって不肖(ふしょう)の身である私と雪那嬢は、めでたく婚姻致す運びとなりました。まずは発表だけではありますが、こうして皆様の前に立てることを大変嬉しく思っておりまして――」


 だがそんな神弥の様子とは打って変わり、もう一人の主役であるはずの雪那は、会場の光景を冷めた瞳で見つめている。


 体のいい人柱(ひとばしら)として、この男に捧げられようとしている自分自身。

 それを羨む者、妬む者、利用しようとする者。

 誰もがそれぞれの思惑を覆い隠すかのように和やかな笑みを顔に張り付け、表面上は楽しそうに過ごしている。


 利権と欲望に塗れた虚構の世界。

 ()のいない世界。


 それは雪那にとって、どこまでも無価値で醜い物でしかない。

 彼女の世界は、再び色を失ってしまっているのだから――。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

本日はもう一話投稿いたします。

いよいよ第3章もクライマックスを迎えておりますので


「面白そう!」

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では次話以降も読んでくださると嬉しいです!

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