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第59話 希望と絶望の前奏曲【side:PreludeⅢ】

 ◆ ◇ ◆



 互いの波長というべきものが合致したのか、幼き日の少年と少女が打ち解けるのに、それほど長い時間は必要なかった。


 白亜の戦闘装束と激烈な剣戟を以て、“紅焔聖騎士(ヘリオスパラディン)”と称される彼の父親。

 黒衣の戦闘装束と凶猛な砲撃を以て、“星蝕女帝ストレーガエンプレンス”と称される彼の母親。


 その異名は伊達(だて)ではなく、名実共に皇国最強の魔導騎士を両親に持つ烈火も、周囲に馴染めているとは言い(がた)かったのだ。


 何より、烈火にとっての基準は自分の両親。


 つまり剣の一振りで空が裂け、炸裂した砲撃で山が吹き飛ぶ――というレベルの魔導を幼少から見てきたということ。

 烈火の心境としては、赤ん坊に交じって昼寝の練習をさせられているようなものだったのだ。


 加えて、雪那ほど露骨ではないが、烈火自身も周囲からのやっかみを(わずら)わしく思っていた。

 そんな周囲に対して物足りなさを抱いていたのだ。





 そして時は巡り、邂逅(かいこう)から五年――。


「退屈そうだな、烈火」

「今更、魔力弾を作る練習をしましょう……って言われてもな。実際、雪那だってやることないだろ?」

「否定はしないが……」


 今の二人は、ミツルギ学園・初等部六年生。

 成長した烈火と雪那は、魔導基礎の実技授業を楽しむ生徒たちを退屈そうに見つめていた。

 互いにファーストネームを呼び合いながら談笑している様は、今の彼らとも重なる部分が多いことだろう。


「次、音無さん!」

「は、はいっ!」


 そして、間もなく初等部卒業を控えた彼らのクラスが行っているのは、魔導実技の最終テスト。

 初等部のカリキュラムとしては珍しく魔導を扱えるとして、二人を除いた面々はかなり気合が入っている。


「魔力弾を作って、そのまま三〇秒以上静止出来たら合格よ」

「はいッ!」


 担当教員の指示を受け、女子生徒の緊張したような声が響く。


 内容は“魔導兵装(アルミュール)”無しで魔力弾を生成。

 その状態を規定時間以上、維持するというもの。


 そう、“マジックバレット”を目標に放つでもなく、その場に留めるだけの工程。

 正しく基礎中の基礎だ。


「しかし、暇だな」

「もう少ししゃんとしろ。我々は試験を終えたが、他の者はまだなのだぞ」

「それは分かってるけど、延々(えんえん)と同じ光景を見せられるのは、流石にしんど……ん? お前のところのメイドの番みたいだな」


 既に“魔導兵装(アルミュール)”を扱える二人からしてみれば、拷問のような退屈さであることは想像に難くない。

 だが現在試験を受けている少女が親交のある人物だと分かり、そちらに目を向ける。


「む、むむ……っ!!」


 (うな)り声を上げながら魔力弾を維持する少女。

 それは雪那の専属メイド――音無結愛(おとなしゆあ)だった。


「結構、頑張ってるな」

「ああ……」


 感心した様子で、その光景を見つめる二人。

 普段(・・)の少女を知っていればこその反応だった。


「はい! 三〇秒! よく出来ました!」

「ま、マジかよ……」

「音無さん、凄い!」


 少女の規定タイムクリアを告げる担当教員のストップを受けて、感嘆に包まれる一同。


「や、やった……」


 肩で息をする少女は、思わず胸を撫で下ろすが――。


「な……!? おいッ!」

結愛(ゆあ)、気を乱すな!」


 テスト終了と共に気を抜いた少女に対し、珍しく慌てた表情を浮かべた烈火たちの声が飛ぶ。


「ふぇ……へぶぅっ!?!?」


 直後、呆けた少女を尻目に景気の良い破裂音が響く。

 集中を欠いたことで制御に割いていたリソースが消失し、魔力弾が暴発してしまったのだ。


「……あう、ぅううっ!?」


 風で黒煙が舞う。

 全身(すす)塗れで半泣きになった少女の姿が(あらわ)わになる。


 一応、暴発したとはいえ、“魔導兵装(アルミュール)”無しで子供が作った魔力弾。

 それも威力ではなく長時間の維持にリソースを全振りしたものであったため、大した被害もなく全くの無傷であった。


「大丈夫なのか、お前のとこのメイド」

「人柄には好感が持てるし、一緒にいて苦に思うことはない、が……」


 無論、烈火たちが渋い表情を浮かべていたのは、言うまでもない。

 雪那と結愛の関係が良好であるのだとしても――。


「その割には、砂糖と塩を間違えたり、平地で転んで紅茶をぶちまけるようなミスはよく見るけど?」

「……」


 雪那は、ばつが悪くなってそっぽを向く。

 残念ながら、仲が良いのと優秀であるのか――ということは、相互関係ではないようだ。


「ふ、ふぇー!!」


 一方の結愛は大きな瞳に涙を溜めながら、二人の下に肩を落として戻って来る。


「絶滅危惧種のドジっ娘駄メイドは、伊達(だて)じゃないな」

「少々落ち着きがないが、あれで良いところはあるのだぞ」


 雪那は見事にやらかした結愛の頭を、よしよし――と撫でて慰めた。テストの規定時間自体はクリアしているため、烈火も特にイジることなく静観しているようだ。


 そして愉快な光景を前に顔を見合わせた烈火と雪那は、小さく笑みを浮かべ合っていた。

 これが彼らにとっての日常。


 少なくとも今この時は、烈火も雪那も確かな幸せを感じていた。

 紛れもなく、楽しい日々だったのだ。


 半年後、彼と彼女に災厄が降りかかるまでは――。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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