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第56話 想いを貫く覚悟

 俺は模擬戦の途中で大破した“陽炎”を教員に引き渡した後、その足で第二研究所へと(おもむ)いていた。

 (たず)ね人は、当然――。


「ん? それで、いきなりどうしたの?」

「“魔導兵装(アルミュール)”について、ちょっと聞きたいんだけど……」

「あら……烈火から質問なんて珍しいわね。“アイオーン”のことかしら?」

「まあ、それも含めて……かな」


 アポなしの突撃となってしまったが、零華さんは快く受け入れてくれた。

 ただ所長室のソファーに腰かけた瞬間、いきなり引っ付かれたのは少々計算外ではあったが。


「近いんだけど……」

「スキンシップよ、スキンシップ! 何日も会えてなかったものねー」

「そうですか……」


 自宅(ウチ)に泊まれば、下着姿で室内徘徊(はいかい)なんて日常茶飯事。

 ただオフィシャルな場での外面は、それほど悪くはない。


 身内に甘く、警戒心は高い。

 ある意味、平常運転だな。いつもより少し圧が強い気もするけど。


「……で、何を聞きたいのかしら?」

「ああ、それなんだけど、“一柳グループ”って知ってるよな?」

「勿論ね。でもあんな会社(・・・・・)がどうしたの?」


 “魔導兵装(アルミュール)”に関して、この人より詳しい人間はいないと言ってもいい。

 モゴモゴしていても仕方ないので単刀直入に質問したわけだが、零華さんは急にご機嫌斜めになってしまった。


「業界での評判がどんな感じなのか気になったんだ。今一番有名な会社なのは、知ってるけど……」

「そうねぇ……確かに低価格高品質で評価は爆上がり中。でも、なーんか嫌な感じなのよね」

「話を聞いている限り、問題はなさそうだけど?」


 御曹司以外は――と内心で付け加える。


「簡単に言っちゃうと、どうも()せないのよねぇ。あの会社……」

「根拠は?」

「女の勘……かしら」

「はぁ……」


 いつもと違う零華さんの様子を受けてシリアス一直線だったものの、ぱっちりウインクと共に返って来た答えに肩透かしを食らってしまう。

 だが冗談交じりはそこまでだった。


「とはいえ、全く根拠がないわけじゃないわ。正直な話、あそこの会社のパーツって、費用対効果(ひようたいこうか)が良い意味でおかしいのよねぇ」

「安いのに性能が良すぎるってことか?」

「そうよ。勿論、良いことには違いないのだけど、低価格と高性能のつり合いに説明がつかないのよ。赤字を垂れ流すならまだしも、現在進行形で成り上がっている最中なわけだし」


 実際、魔導騎士のための武器を開発する――とはいっても、所詮(しょせん)は仕事であり、ビジネスだ。

 安く作って高く売ることが大原則であり、高コストの物を安く提供するのは、(もう)けが減る要因となってしまう。


 だが“一柳グループ”は市場のバランスを壊す勢いで低価格、高性能の商品を提供し、結果的に大躍進(だいやくしん)()げているわけだ。

 専門家である零華さんが断言したことからしても、凄いを通り越して異常――ということになるのだろう。


「ちなみにその安いパーツを使った“魔導兵装(アルミュール)”に、不良品が出やすいってことは?」

「“魔導兵装(アルミュール)”の不良品が市場に行き渡ることは、飛行機で事故に合う可能性よりも低いと思うわよ。よっぽど雑に扱ったり、メンテナンスをサボったりしていなければね」


 ここに関しては、俺も零華さんと同様の認識だった。


 本当に軽微な整備不良ならともかく、ここまでド派手な事件は学園始まって以来のことらしい。

 それも今日使った機体は学生たちに使い古され、日々完璧な整備が行き届いている物だということも受付スタッフに確認済み。

 よって、今回俺の身に降りかかった危険は、天文学レベルの可能性でしか起こり得ない事故ということになるわけだ。


 そして今や“陽炎”を構成するパーツの大部分を担うのは、“一柳グループ”。

 更には帰宅途中での騒動。


 これを無関係と言い切るには、少々出来過ぎている。

 とはいえ、ここまでの強硬策に出てくるとは――と思っている最中、零華さんが重苦しい嘆息を漏らした。


「それにあそこの会社のやり方、キライなのよね」

「随分と、らしくないな。理由はどうであれ、数字自体は上げてきているわけじゃないのか?」

「なんと言っても、営業に来る社員の態度が最悪だったのね。他のメーカーを扱き下ろしながら、如何(いか)に自分の会社が素晴らしいか……って、自慢話を延々と聞かされるの。こんなのが半年も続いているんだから、もう頭がおかしくなりそうよ」


 俺もつい最近似たような会話をした記憶がある。

 零華さんの発言に思わず苦笑を浮かべた。


第二研究所(ウチ)は量より質だから、大量発注はしない。それに値段が高いってことは、信頼を買っているという側面もあるの。だからさっさと、追い返そうとしたのね。そうしたら、最後に営業に来た社員がなんて言ったか分かる!?」

「い、いや……」

「“まさか御高名(ごこうめい)な、貴女ともあろう方が、我が社の素晴らしさに理解を示して頂けないとは……。しかし一度でも我が社の商品を使っていただければ、その考えが間違っていることが分かるはずです! “魔導兵装(アルミュール)”一機分のサンプルパーツを無償で差し上げますので、是非(ぜひ)その間違った考えを正すべきだ”……とか、キメ顔で言って来るのよ!?」


 ヒートアップする零華さんが語る内容に、ますますデジャヴを感じる。


 末端社員が何度も断られて、どうにもならない契約を成立させるために出てくる“一柳グループ”所属の人間。

 ある種、国の頭脳とも称するべき零華さんを持ち上げながらも、あくまで自分の方が上であるというスタンス。


 天下の第二研究所を相手にして、ここまで自分ルールを押し付けて来る相手への心当たりは一つしかない。

 そして同時に、もし“アイオーン”に連中のパーツが使われているのなら――と、最悪の状況が脳裏を過る。


「……で、契約は?」

「当然、お断りよ。後悔することになるとか何とか言ってたけど、さっさと追い出してやったわ!」

「なら、“アイオーンは”……」

「当然、あんな会社のパーツは全く使っていないわ。信頼のおける場所から取り寄せた上で、私がフルチューンした一点物だもの!」

「それに関しては、今聞けて心から良かったよ」


 零華さんの回答に、心底胸を撫で下ろした。


 “魔導兵装(アルミュール)”とは、魔導騎士にとって剣であり鎧でもある。

 よって、自分の“魔導兵装(アルミュール)”に信頼が置けなくなったら、いつも通り戦うことは出来ないということ。

 零華さんの慧眼(けいがん)に感謝するばかりだな。


 そして俺を狙う者、狙われる理由にも心当たりがある。


 後はどうやって証拠を掴んで、立証するのか。

 そういう問題になって来るはず。


 だが標的(ターゲット)は明らかに俺一人であるはずだが、今回の一件では周りの連中までもが巻き込まれた。

 雪那だけは安全圏であるにせよ、今後は俺と親しい人間に対して連中の手が伸びるという可能性も十分にある。

 全く別件だったとはいえ、少なくとも零華さんと奴の間には面識があるわけだしな。


 もうタイムリミットがどうとか言っている場合じゃない。

 今は連中を何とかすることが最優先――。


「――烈火」

「……ああ、悪い。聞きたいことは、それだけだから」


 直後、零華さんの声で現実に引き戻される。


 ひとまず必要な情報は得られた。

 今日はデータ採りもないはずだし、零華さんも忙しい時間を割いてくれている


 だからこそ、一刻も早く動き出すべくソファーから立ち上がったのだが――。


「貴方が何をやろうとしていて、何を想っているのか。それは()えて聞きません。でも烈火が心から望むのなら……周りの迷惑だとか、私のことだとか、そんな事情なんて気にせずに思いっきりやりなさい」


 俺は視線を向けて来る零華さんを見て、大きく目を見開いた。

 彼女が浮かべていたのは、温かく穏やかな微笑。


「迷惑なんて思わないし、失敗したっていい。でも自罰的になって、烈火が遠慮する必要はない」


 少なくとも今回の一件、この人は俺が何か行動を起こそうとしていることを察しているのだろう。

 だがその上で内容を問いただすでもなく、協力を願い出るわけでもなく、ただ俺を信じて任せる――と、そう言ってくれている。


「でも覚悟を決めたのなら、最後まで貫きなさい。それだけの力は持っているのだから、後は心で決めるだけよ」


 無償の愛と確かな信頼。

 慈愛に溢れる眼差しはどこかこそばゆいが、それこそが掛け替えのないものであると痛感させられた瞬間だった。


 これはもう、巻き込まれた恋愛トラブルなんかじゃない。

 己の信念と矜持(きょうじ)()けた戦いとなった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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では次話以降も読んでくださると嬉しいです!

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