第49話 煉獄の炎
「■、■■■■……!!」
露わになった素顔。
縦長に割れた瞳孔は爬虫類を思わせ、顎より下に突き出るほど伸びた牙も異質極まりない。
それに爪、尻尾、鱗――。
加えて、何より目を引くのは、その要所に機械が用いられているということ――。
とても人間とは思えない異形の姿だった。
「アタシらに依頼が来た時点で、碌でもないとは思ってたが……まさかこんなもんを守らされていたとはな」
萌神たち“サルベージ”は、非合法な依頼を請け負って報酬を得る小規模組織とのことだ。
よって、この研究所が合法でないことは明白だった。
しかし萌神もこういう世界に身を置いている以上、それなりに凄惨な光景を見てきたはず。
だがそんな彼女からしても“首狩り悪魔”の有様は、異常足り得るものだったようだ。
「あ、ア■、あa、ahァ■■■……ア■ぁahァ■■――ッッ!?!?」
直後、奴の様子が豹変する。
両腕を喪ったことより、もっと別の何かで苦しんでいるかのように――。
「まさか、自分自身の魔力を制御出来なくなっている、のか……?」
目の前で魔力の暴風が吹き荒ぶ。
それは自身が内包する魔力を抑えきれなくなったが故の暴走――。
だが本来なら、起こりえない現象でもあった。
当然の話だが、生物は自身が持つ以上の魔力を行使することは出来ない。
恐らくそれに例外はない――はずだったのだが。
「野郎完全に暴走してやがる! 逃げねぇとヤバいぞ! このままボサッとしてたら、アタシらまで……!」
「ああ……塵も残らないだろうな」
「■■……■■■――!!!!」
“首狩り悪魔”の身体に罅が入り、許容量を超えた魔力が全身から漏れ出す。
そんな風に収束して膨れ上がる魔力は、優に数十人の魔導騎士すら超える量だった。
そしてもう間もなく、この魔力は暴発する。
確かに自分たちの生存を優先するのなら、萌神の言う通りにすぐ脱出すべきなのだろう。
“専用機”を持つ俺たちなら、それほど難しい話でもない。
それにディオネの力に関しては未だ測り切れていない部分もあるが、取り立てて心配する必要もないはず。それに最悪、俺が抱えて飛べばいい。
だが暴発寸前の超巨大爆弾と化した“首狩り悪魔”が限界を迎えれば、半径数キロ単位で辺り一帯は焦土と化す。
それに火災などの二次災害が発生すれば、一体どれだけの犠牲者が出るのか。
「そうは言っても、もうどうしようもねぇぞ!? アタシらは爆弾解体員じゃねぇんだからな!」
萌神の意見は、依然として正しい。
実際、今の俺たちには、“首狩り悪魔”を倒すことは出来ても、暴走を鎮める術はないのだから。
しかも攻撃した瞬間に即起爆。
移動も不可能。
もう手の打ちようがない。
それでも――。
「悪いが、これ以上は付き合えねぇ、ぞ……って、一体何を……!?」
一歩、また一歩と黒影に近づいていく。
いくら萌神でも、この状況では不用意に手が出せない。
結果、俺は自分の意志で、絶叫する黒影の前に立ち塞がった。
既に肉体の崩壊が限界に達しつつあるのだろう。
全身の罅から魔力を放つ存在の目の前に――。
「……どうしてこんな姿でもがき苦しんでいるのかは、俺には分からない。自業自得の結果なのかもしれないし、人道外れた何かに巻き込まれただけなのかもしれない。でも俺には、お前を救うことは出来ない。だから……っ!」
手にした剣に炎を灯す。
それは俺の怒りであり、覚悟。
そして本当の切り札。
「……烈火!? 待っ……ッ!?」
「……んだよ! この、魔力は……ッ!?」
二人の動揺も当然。
この魔力変換は、万物も概念も等しく灼き尽くすのだから。
振り上げられた“白亜の剣”。
その刀身が纏うは――。
「黒い、炎――ッ!?」
そう、紅蓮ではなく、漆黒の炎。
「舞え、黒炎――ッ!」
俺は迷うことなく、黒炎を纏った刃を振り下ろす。
「■■■、■――!?」
白亜の黒閃。
一閃をその身に受けた“首狩り悪魔”は黒炎に包まれ、灰塵に帰すように消し飛んでいた。
――ア、リガ、トウ。
結果的に介錯を引き受けた俺の目を見ながら、何かから解放されるかのように――。
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