第46話 サルベージ【side:ディオネ】
◆ ◇ ◆
正面エントランスホールで激しい戦いが繰り広げられているのと同時刻――。
裏口から侵入したディオネの前にも、守護者が立ち塞がっていた。
「そこのおねーさん。迷い込んで来たのが運の尽きね!」
「ああ、女相手ってのはやりづらいが、来ちまったもんはしょうがねぇ。悪く思うなよ!」
オレンジのニット帽が特徴的な少女は、意気揚々と人差し指をディオネに向ける。
もう一人、茶髪の不良少年は居心地悪げに溜息を漏らした。
対するディオネは我関せずであり――。
「あら、こんなところで、お子様が何をなさっているのかしら?」
「それはこっちの台詞なんですけどぉ! ともかく、侵入者のアンタを排除すれば、クライアントから特別ボーナスが出るし、飛んで火にいるサマーインセクトってことよ! 今冬だけど!」
「おい、呉羽! あんまり派手にやって周りを壊すと萌神に怒られちまうぞ!」
「うっさい! ヘッポコが口を出さないで!」
少女――菱谷呉羽は、不良少年――日並朝芽を怒鳴りつける。
小柄な呉羽に対し、長身の朝芽。
二人のやり取りは、どこか兄妹喧嘩を連想させるものだった。
「あらあら、頼もしいですわね。でも今は貴方たちと遊んでいる時間はありませんの。道を開けて下さいますか?」
「はん! 寝言はスリーピーね!」
“首狩り悪魔”の追跡を優先したいディオネ。
進路を塞ぎたい二人。
意見は完全に平行線。
更に呉羽の手には、“魔導兵装”の武装であろう“ククリナイフ”が握られている。
「アタシら“サルベージ”に、立て付いた時点で……地獄行き確定なんだから!」
そしてディオネの迎撃態勢が整う前に、体勢低く肉薄。ククリナイフを差し向けるが――。
「嘘っしょ!?」
次の瞬間、得物を上から押さえつけられる感覚に目を丸くしてしまう。
開幕を悟らせない初見殺し。
小柄な体格を活かした死角からの奇襲攻撃。
それは呉羽にとって必勝パターンの一つだった。
だからこそ、容易く対処されたことを信じられないでいるのだ。
「仮にもレディーがいきなり突っ込んでくるなんて、お行儀がなっていませんわね」
「うにゃぁッ!?」
一方のディオネは、なんと突き出されたククリナイフを上から踏み付けるように受け止めていた。
無論、彼女の靴底が魔力を纏っていることは、説明の必要もないだろう。
「ふふっ、がーんばれ、がーんばれ、ですわ!」
当のディオネは、グリグリと靴底を動かしながらナイフを踏みしめていく。
「ぐにゅうう!!!!」
対する呉羽は顔を真っ赤にしながら力を込めるが、肝心の得物はビクとも動かない。
いやむしろ、自身に向けて押し返されてすらいた。
「こ、このぉぉ!! さ、さっさと足をどけなさいよ!?」
「い、や、ですわ!」
「鬼、悪魔! ひ、日並! 突っ立ってないで、助けなさいよ!」
押してもダメ、今引き戻せばディオネのヒールで串刺しにされるとあって、どうにもならない。
目尻に涙を浮かべる呉羽は、周囲にいる仲間に援護を要請したが――。
「……へっ!?」
「あら?」
鮮血が――舞う――。
「ぐはァっ……!?」
「ひ、日並ィ!? 一体何、が……!?」
なんと朝芽は、突如として血を吹き出し、通路に倒れ込んだのだ。
靴底とナイフで押し合っている二人の声が重なる。
「く、黒……それもスケス……」
「……さ、最っ低ッ!」
だが程なくすると、呉羽の視線が道端のゴミを見下ろすかのようなものへと変化した。
「て、敵のパンツを見たくらいで、鼻血吹き出して倒れてんじゃないわよぉぉ!!!!」
直後、呉羽の絶叫が通路中に響き渡る。
小柄とはいえ、呉羽も中高生には変わりない。
対するディオネは、丈の短いスカートでそんな彼女を踏もうとしている。
呉羽の背後にいる朝芽が何を見てしまったのかについては、論ずる余地もない。
「だ、大体! なんだってアンタもそんなアダルトなパンツ穿いて、こんなとこに侵入して来てんのよォ!?」
呉羽は顔を真っ赤にしながら、ディオネを怒鳴りつける。
現在の彼女の位置からも、ディオネのスカートの中が丸見え。パンチラどころの話ではない。
さっきまでは必死だったため、気付かなかっただけだ。
「意中の殿方と過ごすのですから、何があっても良い様に……と気合を入れていたまでのこと。こうなってしまったのは計算外ですから、後で烈火に上書きして貰わないといけませんわね」
「は、にゃ!? う、上書きって!?」
「あらあら、歳の割におませさんですわねぇ」
何かを想像して頬を赤らめるディオネと、顔から蒸気が吹き出している呉羽。
会話だけを聞けば、年頃の少女らしいとも言えるのかもしれない。
会話だけを聞いていれば――。
「も、もう許さないわよ! 全開でやってやるんだか……らぁ……」
奇襲は失敗。
味方も思わぬ方法で撃破されてしまって大ピンチ。
とうとう自身の“魔導兵装”を展開しようとした呉羽ではあったが、全身に走った衝撃を受けてふらつきながら崩れ落ちてしまう。
「ちゃんとお相手できずに申し訳ありませんね」
「は、にゃ……」
魔導高圧電流銃。
ディオネは呉羽が“魔導兵装”に意識を割いた隙を狙い、微弱な電流を流して意識を奪ったのだ。
よって、この場は無血撃破。
約一名が大量の鼻血を吹き出している事実に目を瞑れば――。
だが決着がついたと思われた直後、通路中に破裂音が響き渡り、大穴が空いた天井から一人の少女が舞い降りる。
「正面入口のドンパチが物騒過ぎたので、引き返して来たわけですが……まさかの正解だったようですね」
少女は白黒のフード付きパーカーを羽織っている。
それは一部女子の間で人気のファンシーキャラクター“オル子”をモチーフとした物であり、上半身だけシャチの着ぐるみを着ているようにも見えるものだった。
「随分と可愛らしいお出迎えですこと……。ですが、その口ぶりでは烈火の方も面倒なことになっているようですわね。どうやら合流した方が……」
「……年上だからって、あまり嘗めない方がいい。そこの二人より、マジで強いですから」
「あまり遊んでいる時間はないのですけれど……」
睨みを利かせる少女。
困ったように肩を竦めるディオネ。
二人の少女は、相手を見据えると同時に地を蹴り飛ばした。
しかし数分後――。
この少女は、眠るように床に横たわることになる。
原因は呉羽と同様、ディオネの魔導高圧電流銃によるもの
戦いではなく、突破に全振りしたことで、ディオネの初見殺しが炸裂した形となった。
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