第43話 真・魔弾乱舞
単独行動を取っている俺は、林奥の研究施設をひた歩く。
眼前に広がるのは、薄暗い空間。
数階上まで吹き抜けている、広大なエントランスホール。
正に人の気配を感じさせない無人施設――。
「――ッ!?」
だが俺は静寂の中で弾かれる様に、その場から飛び退いた。
「これは……」
確かに襲撃には違いない。
でもさっきまで俺がいた辺りの床は、遠くから斬り裂かれたように抉れている。
それは細く鋭い攻撃痕。
斬撃や魔力弾ではこうはならないはず。
「新手か……!?」
直後、山吹色の魔力光が降り注ぐ。
ガトリング並みの速度で強襲して来る光の嵐には驚かざるを得ないが、両手に出現させた魔力剣で全てを叩き落して事なきを得た。
とはいえ、“首狩り悪魔”とは戦闘スタイルが違い過ぎる。
「ちっ、目打ちで散弾を叩き落してんじゃねーよ! テメェはホントに人間かぁ?」
薄暗い施設に響き渡るのは、女性の声。
床を鳴らす靴音が近づいて来ると共に、女性の姿が露になった。
すらりとした長身に、モデルもかくやという大人びた肢体。
その女性は僅かに差し込む薄い月光に照らされながら、悠然と歩いて来る。
「随分と退屈な仕事だったが、まさか契約終了寸前にこんな獲物が転がり込んでくるとはなぁ! ツイてるねぇ、アタシはよォ!!」
美女――と呼んで差し支えない容姿とは裏腹に荒々しい口調。
彼女を差し向けたのは、“首狩り悪魔”か、それとも別の存在なのか。
どちらにせよ、彼女の存在は、誰かがこの施設に守るべき価値があると認識しているという証明になる。
俺は改めて気を引き締めると共に、全身の神経を研ぎ澄ます。
「テメェが何者で、何でここにいんのかはどーでもいいわ。精々アタシを愉しませてくれよ!!」
直後、女性は指で自身の髪を弄ぶように巻きながら、片手間に大量の魔力弾を一挙に打ち放った。
「ほらほら、ちゃんと逃げねぇと全身穴だらけになんぞぉ!!!!」
サディスティックな笑い声と共に降り注ぐ魔力弾の嵐。
対する俺は、迫る魔力弾を極力回避しつつ、直撃コースの物は両手の魔力剣で斬り落していく。
「土守も涙目だな……これはっ!?」
「やるじゃねぇか! 女みてぇな面しやがってよぉ!!」
魔力弾の生成速度と弾速、広い射角に正確な照準。
当然ながら、一発の破壊力も凄まじい。
はっきり言って、自称・魔弾の剣士の超完全上位互換。
その上、女性の周囲には、更に山吹色の魔力弾が大量に形成されていく。
「出血大サービスだ。受け取りなぁ――ッ!!」
全弾発射。
直後、三〇を超える魔力弾が、光条と化して迫り来る。
「オラオラァ!! 好みの焼き加減はレアかぁ? ミディアムか!?」
山吹色の光が瞬く度にけたたましい炸裂音が響き渡り、柱が、壁が、その形状を失っていく。
さっきまでの連撃が小波と思えてしまうほどの苛烈さだ。
正しく、光の嵐を撒き散らす人間砲台。
とはいえ、俺もここで退くわけにはいかない
「――ったくよぉ。壁走ったり、柱を飛び渡ったり、テメェは曲芸師か!?」
「残念、ただの好青年だ!」
「はっ! 笑わせんじぇねぇよ!」
エントランスの中心で佇む女性は、色素の薄いブロンドをかき上げると、気だるそうなに両腕を突き出す。
直後、俺が放り投げた蒼い魔力剣と山吹色の光条が激突し、光を散らしながら相殺し合う。
これでようやく、戦場と化したエントランスに僅かばかりの静寂が訪れる。
「ただの小市民なのは本当なんだがな」
今の俺はキャップと伊達眼鏡こそ失っているが、目立った外傷はなく健在。
とはいえ、悪辣な口調とは裏腹に、やはりこの女性は強い。
土守どころか、騎士団員よりも遥かに――。
だがどうして、これだけ力のある魔導騎士が、こんなところを守って戦うのか。
他にも現状は分からないことだらけだ。
でもたった一つだけ確かなことがある。
それはこの女性が、“首狩り悪魔”を捜索しながら片手間に対処できる相手ではないということだけ。
今はそれが最優先事項だろう。
この分では、ディオネの方もどうなっていることか――。
「――ったく、このままじゃ埒が明かねぇしな」
「――これ以上、時間を取られるわけにはいかない」
俺たちは膠着している戦況を打破するべく、図ったように行動を起こす。
「侵入者をブチ転がしてボーナスゲットといくか! “デルカリオン”――!」
「悪いが、そういうわけにもいかないんでな。“アイオーン”――!」
そして二つの光の瞬きと共に、己が魔導の鎧を顕現させる。
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