第4話 天を舞う騎士
視線の先――。
鎧を纏いし、狂気の獣が疾走する。
このまま突っ込んで来る怪物を素通りさせてしまえば、また新たな惨劇が生まれることは確実。
だからこそ、俺は虚空から剣を掴み取り、思いのままに剣戟を奔らせる。
「■■■■■■――！？！？」
巨大な鎧牛がよろめく様に足を止める。
剣戟を叩き込んだ直後、狂獣の兜には大きな罅が入っていた。
「な、何が起きたんだ……！？」
学園警備隊の一人が驚愕の叫びを上げた。
それは周囲の気持ちを代弁するものなのかもしれないが、俺には彼らの疑問に答えている時間はない。
「ちっ……あまり長く持ちそうにないな」
なぜならこちらの刀身にも、既に罅が入っているから。
迫り来る突進を無理やり止めた結果は、見事な痛み分けだったということ。
それにいくら危機を脱したとはいえ、安心するにはまだ早い。
むしろここからが本番――。
「さて、どうするか……」
今の俺は、“飛行魔法”を発動して滞空中。
加えて、さっきまでの制服から大きく服装も変化している。具体的に表すのなら、他の学園警備隊と同じ物だ。
更に左手には、主兵装である片刃の剣――“夜叉”が収まっている。
まあさっきの一撃で既に壊れかけなのは、何とも言えない部分ではあるが――。
ともかく、己の魔力で戦闘装束を展開し、武器と魔法を用いて戦う。
これが魔導騎士の基本戦闘形態。
“魔導兵装”を起動した姿だ。
そして“魔導兵装”とは、魔導術式の発動補助・身を守る戦闘装束・武装の展開といった、魔力運用全般をサポートする機器を指す言葉。
つまり魔導騎士にとっては魔法の杖であり、直接戦うための武器であり、身を守る鎧でもあるわけだ。
ちなみにこの“陽炎”は、クオン皇国の主力“魔導兵装”とされている機体。
学園警備隊が持っている通り、ありふれた量産品だった。
「何をしているんだ！？ 早く逃げろ！！」
鎧牛が斧を振りかぶったところで、乱入した俺に気づいた一人が声を荒げる。
一通りの戦闘訓練を積んだ彼らでも、瀕死へ追い込まれる一撃。
もし万が一、攻撃を受けでもすれば、確実に俺は無残な肉塊と化してしまうことだろう。
「■■■■、■――！？！？」
しかし鎧牛の狂刃が振り下ろされることはない。
奴は顔の右側から噴煙を上げ、咆哮を響かせるのみ。
「……やっぱり直接ぶち込まないと決定打にはならないか」
何があったのかと言えば、俺は攻撃される瞬間に“夜叉”を振り抜き、鎧牛の顔面に飛ばした魔力斬撃を叩き込んでいた。
結果、奴が怯んだわけだ。
更にその間、俺はわざと視界が塞がっていない左側を通るようにして、鎧牛の後頭部側に回り込む。
「■、■■■■■――！！！！！！」
すると、怒りが収まらない様子の鎧牛は、すぐさま斧を振り抜く。
だが俺が飛行高度を上げたため、剣圧が大気を震わせるだけに留まった。
とはいえ、一撃避けた程度でどうにかなる状況じゃない。奴は怒り狂いながら、激しい追撃を仕掛けて来る。
そうして荒々しく振り回される斧を回避し続ける一方、俺は殺戮領域の中で胸を撫で下ろしていた。
「とりあえず注意を反らすことは出来たか。とはいえ、このままではジリ貧だな」
危険な状況で何を――と思うかもしれないが、まず俺自身に敵意を向けさせることが最優先。
それこそが、後ろの連中を守るという目的の第一歩になるのだから。
しかし戦況を支配出来ていても、どうやって奴を倒すのか――という根本的な部分が、何も解決していないというのが現状だった。
クオン皇国産“魔導兵装”――“陽炎”。
生産性・拡張性・汎用性の三拍子が揃った良機ではあるが、所詮は一般量産型。
強力な“異次元獣”を相手にするには、少々性能が不足している。
なにせ、俺の魔力出力に耐え切れず、たった一度の迎撃で刀身が砕けかかっているのだから――。
このまま攻撃を回避していても、相手を倒すことはできない。
その反面、また学園が攻撃される可能性を考えれば、ずっとこうしているわけにもいかない。
唯一、状況を打開する方法があるとすれば――。
「全力での攻撃は、一発が限度……」
俺は更に罅が広がった剣を一目見た後、斧の嵐を回避しながら仕掛ける機会を見計らう。
待つべき攻撃が来る、その時まで――。
「■■■■■■■――！！！！！！」
何度も攻撃を回避されてイラついたのか、ここで鎧牛は天高く斧を振り上げる。
放たれるのは、上段からの全力一閃。
それは奴にとって、必殺の一撃。
だが俺にとっても、待ち焦がれた一撃だった。
上段からの大振り、そこには必然的に一瞬の隙が生まれるのだから――。
「ここだ……！」
凄まじい勢いで迫り来る斧を限界まで引き付けると、ギリギリのところで急旋回。
必殺の一撃を回避しながら最高速度で飛翔し、鎧牛の眼前に躍り出た。
直後、上段に構えた剣に魔力を纏わせる。
奴はまだ一連の高速機動に反応出来ていないのだろう。
完全に無防備を晒しており、絶好の攻撃機会。
そして刀身に纏わせた魔力が奔流と化し、眩い光を煌めかせる。
「“エクシードフィア―ズ”――」
魔導術式の発動と共に斬撃を飛翔させ――ることなく、刃に力を宿したまま振り下ろす。
本来この魔導術式は巨大斬撃を放つものだが、今は壊れかけの刃で破壊力を引き出す必要がある。
つまり必要なのは、一瞬の破壊力。
よって、刀身への負荷が増そうとも、敢えて巨大斬撃としては撃ち放たない。
刀身が魔力奔流を纏った状態を維持して一気に斬り抜ける。
蒼穹裂断。
“サベージタウロス”の屈強な身体に致命傷を刻んだ瞬間、戦場の空が鮮血で彩られていく。
「■■■■■、■■――！？！？」
あれほどまでに暴れ狂っていた怪物ではあったが、最期は断末魔の叫びを上げながら、崩れ落ちるのみ。
その雄々しき巨体を地に横たわらせた。
「ギリギリセーフ……ってとこか」
俺は刀身が完全に砕け散った剣を一瞥した後、この手で討った“サベージタウロス”へと視線を向ける。
生命反応なし。
よって、状況終了。
ひとまずはこれで――。
「うそ、だ……？ あの化け物を倒しちまいやがった！？」
「ちょっ、ヤバすぎだろ！？ こんなの三年どころか、先生にだって……！？」
「途中から速すぎて全然見えなかったけど、とにかく凄い……！？ ねぇ、凄いのかな！？」
Fクラスが随分とやかましくなってきたな。
さっきまで顔色最悪だった割には元気なことだ。
まあこの後、教師や学園警備隊に囲まれて事情聴取だろうし、俺ももう少しだけ踏ん張らないとだが。
とはいえ――。
「雪那にああ言ったとはいえ、まさかこんな形でまた魔導の力を使うことになるとは……」
学園ではもうしばらく自由の利くFクラスでいるつもりだったが、思い切り目立ってしまったのは完全に計算外だった。
この戦いを経て、これからどんな変化が訪れるのだろうか。
少なくとも何も変わらず、今まで通り――ということはないはず。
だが覚悟を決めて走り出したのだから、どんなことがあっても足は止めない。
両親の死の真相。
守りたい人たちのために戦うこと。
今はそれだけを考えて、前に進む。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白そう！」
「続きが気になる！」
と少しでも思っていただけましたら、
広告の下にある【☆☆☆☆☆】を→【★★★★★】にしてポイントを入れてくださると嬉しいです！
その応援がモチベーションとなりますので、ぜひよろしくお願いいたします。
では次話以降も読んでくださると嬉しいです！
