第39話 忍び寄る狂気
俺とディオネが放課後の街を歩き、目的地に到着するのにそれほど時間はかからなかった。
「ここが、例の事件現場なのですね?」
「ああ、最近起きた惨殺事件のな」
目の前にあるのは、俺と風破が下校途中に通りかかった一軒の民家。
周囲には立ち入り禁止のテープが貼り巡らされており、未だ人の出入りができない状況にあるようだった。
「こんな市街地で……だから街にも活気がないのですね」
「次に襲われるのは、自分かもしれないからな。気が気じゃないんだろう」
ディオネは悲しげに言った。
学園の若者たちは面白半分とはいえ、街の人々はここ数週間どこか怯えたように過ごしている。
多分、そんな違和感が悪い形で解決した所為だろう。
「まあ、状況が悪い方に向かってるってものあるんだろうけど……」
「どういうことですの?」
「今朝の事だ。“首狩り悪魔”と同じ犯行手段の殺人事件が、クオン皇国以外でも起きたらしい。それも五ヵ国も同時に……」
「……という事は、犯人は複数いると?」
「犯行時間、場所から考えるに恐らくは……。互いが協力関係にあるのか、本物はクオン皇国の一人だけで他は模倣犯という線もあるし、逆のパターンもある。どっちにしろ、物騒な世の中になったわけだ」
事件から日数が経過した今も、警察が出入りしている殺害現場。
視線を向ける、俺たちの表情は硬い。
例の連続殺人鬼に協力者がいる、もしくは組織的に動いている――という可能性が高まったのだから致し方ないだろう。
加えて最悪のケースは、“首狩り悪魔”に憧れを抱いた者が、奴を信仰するような形で犯行を模倣ないし、世間を騒がせるために愉快犯的な行動に出たという場合だ。
万が一、“首狩り悪魔”が神格化でもされて犯人が多人数になるようなら、今後すべての人間が容疑者となりえる。
その上、今後は“異次元獣”侵攻の対処に当たる人員に警察が駆り出される可能性もあるのだから、本体の割り出しが更に困難になってしまうことだろう。
内側の問題で国が瓦解するなんて、笑い話にもならない。
とはいえ――。
「警察がうろついている以上、俺たちに出来ることはなさそうだ。街の人々に倣ってじゃないが……必要以上に出歩くのも良くないし、今日は戻った方が良い」
「そうですわね。また出直すことにします。今日はありがとうございました」
「いや、本当についてきただけだ。それより、念のために送って……いや、なんだ? この騒がしさは……」
キナ臭い事件ではあるが、学生の探偵ごっこはここまでだろう。
後は本職に任せておけば――と、ディオネを事件現場から引き離そうとしたのだが――。
「民家に押し入った“首狩り悪魔”が現在逃走中……だとォ!? しかも止めようとした隊員が、既に三人も犠牲に……ッ!?」
隊員の怒号を受けて、その場の空気が張り詰めるのを感じた。
「本部から“魔導兵装”の使用許可が下りた! 兵装展開の後、我々も直ちに急行する!!」
「はっ!!」
「総員、魔導兵装展開ッ!」
そうして男たちは血を吐く様な怒号と共に“陽炎”を起動。
穏やかな放課後の日常が一気に非日常へと塗り替えられていく。
「我々の目的は、逃走中の殺人犯の捕縛だが、状況次第では殺害も許可されている! 警察の威信に懸け、何としてもこの狂った殺人劇を終わらせろ! 殉職した者たちと被害者の無念を晴らすんだ!!」
「了解ッ!!」
「総員、出動!!」
五人の警察小隊は、威勢の良い声と共に魔力光の軌跡を残して飛び立っていく。
「ちっ、これじゃどこにいても危険は同じ……って、おいッ!?」
更なる猟奇殺人。
もう無関係ではいられないかもしれない――と思っていた傍ら、目の前で銀色の髪が舞った。
「……ったく、大した行動力だが、危険すぎる」
魔力で身体能力を強化したのだろう。
ディオネは警察の後を追っていく。
しかし、このままディオネを一人にしたら、ここまで付いてきた意味がなくなってしまう。
彼女が何者であるのかについても――。
俺は自らの意志で、更なる非日常へと飛び込んだ。
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