第38話 首狩り悪魔《グリムリーパー》
意外な再会と共に受勲式を終えた翌日――。
それはここ数週間の嵐のような毎日からは想像もつかないほど、穏やかに過ぎ去った一日だった。
そう、誰かに絡まれることもなく、何かの行事があるわけでもなく、第二研究所に行く必要もない。
俺にとっては、本当に久々の学生ライフだったのだが――。
「あら、お帰りなさいませ。烈火」
「ディオネ・フォルセティ……」
クラスメートの朔乃と別れ、自宅の前で佇む銀色の髪をした少女に会うまでは――。
「今日は、烈火に聞きたいことがあって来ましたの」
「聞きたいこと?」
「はい。最近、何か変わった事はございませんでしたか? 例えば、何か事件があったとか……」
俺はここしばらくの出来事を思い返す。
変わったことと言われて真っ先に思い付くのは、“サベージタウロス”による学園襲撃事件。
更に“竜騎兵”による駐屯地侵攻。
だが詳細は伏せられていても、“異次元獣”の襲撃があったという事実自体は公表されている。
今や誰もが知る情報であり、差し当たって珍しくもないだろう。
「……すまない。特に思いつくようなことは……」
「そう、ですか……」
心なしか元気のなくなったディオネを前に、居心地の悪さを感じてしまう。
とはいえ、他に思い当たる変わったことと言えば、絡まれて模擬戦をするせいで訓練施設のお姉さんに顔と名前を覚えられたぐらいだ。
何とかしてやりたくはあるが、こればかりはどうしようもない。
「いや……後は事件、っていうなら……」
「何かあるんですの?」
「ああ、と言っても事後というか、俺も詳しくはないが……」
「何でも構いませんのよ。知っていることがあれば、是非!」
そうだ。
“事件”というなら、一つだけ――。
「“首狩り悪魔”……って、言葉に聞き覚えはあるか?」
俺が導き出したのは、恐らく他国出身でこの辺りに来たばかりであろう、ディオネが知り得ていない可能性のある情報。
かつて俺と風破が遭遇した事件についてだ。
「“首狩り悪魔”……ですか?」
「ああ、クオン皇国の各地で事件を起こしている、連続猟奇殺人鬼だ。その手法は、家に押し入って一家を惨殺。なぜか頭部だけを根こそぎ持ち去っていく……とびっきり悪趣味な奴だ」
「被害者の頭を……? それで、その犯人は……」
「まだ捕まってない。絶賛逃走中だ。この周辺に居ないとも限らないし、家の防犯の見直しはしておいた方が良いかもな」
喜ぶべきかはともかく、想定通りディオネは知り得ていない情報だったようだ。
何かを考え込むように話に食いついて来る。
「その事件、この辺りでも起きたのですか?」
「ああ、そうだ」
「では……もし迷惑でなければ、事件現場を教えていただきたいのですけれど……。構いませんか?」
ディオネは上目使いで可愛らしく小首を傾げる。
予想以上の食いつきに面食らった――というのが正直なところだ。
とはいえ、この物騒な中、女子を一人にはさせられない。
「分かった。この辺りの地理に詳しくなさそうだし、俺も行こう」
「いきなりのお願いですけれど、良いのですか? 私としては心強いですが……」
「これから予定もないし、俺も少し興味あるしな」
結果、俺は場所を教えるだけでなく、同行することにした。
そもそも彼女には聞きたいことが山ほどあるし、可能性は低いとはいえ、本当に事件に巻き込まれる可能性もゼロじゃない。
それに自分が関わった人間に何かあったら、夢見が悪いしな。
「烈火……ありがとうございます」
「礼を言われることじゃない。悪いが着替えだけは済ませて来るから、玄関で待っていてくれ」
「はい!」
こうして穏やかな一日から一転、俺は異邦の少女との放課後散策に乗り出すことになった。
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