第35話 睨み合う少女たち
ともかく玄関で睨み合っていても何も始まらないと、なし崩し的にディオネ――と名乗った少女を含めて、家に迎え入れることになってしまった。
まあ何かあったとしても、俺と雪那がいればとりあえずは抑え込める。彼女が強大な魔力を有している以上、変に刺激する方が危険極まりない。
結果、俺たちはディオネが作ったという夕食に舌鼓を打っている。
食材を無駄にするのも忍びないし、何より――。
「……美味いな」
「む、これは……!?」
俺と雪那はナイフとフォークを手に目を見開く。
食卓に広がるのは、どこの高級レストランかと見紛うほどの品々だった。
「ふふっ、お口に合ったのでしたら嬉しいですわ」
「いや、どの料理もタダで作ってもらっていいクオリティじゃないぞ」
俺が述べたのは、心からの賛辞。
ディオネは頬を染めて照れているが、こんな物をお出しされたのだから素直に感心するしかない。
ちなみだが、今の彼女はちゃんと私服の上からエプロンを付けている。
まあここに至るまでにもちょっとしたトラブルがあったりもしたが、今は割愛しよう。
しかし、なぜ雪那はディオネに服を着させるのではなく、自分も制服に手をかけていたのだろうか――。
常識人に暴走されるのが一番困ると、身に染みて分かった瞬間だった。
「貴方が望むのでしたら、これからは私が作って差し上げますわよ?」
そうしてさっきまでの奮闘を一人思い返していると、目の前の客人から何とも言えない視線を向けられる。
不法侵入者で異国の美少女なのに、家に馴染みすぎでは――と、苦笑することしか出来ない。
一方、隣に座っている雪那が俺より先に答えを返してしまった。
「食事中に不作法だぞ。礼儀も知らないのか?」
「あら、神宮寺さん。部外者は引っ込んでいて下さいますか? それともおかわりをご所望ですの?」
「誰が部外者だ! 生憎とそんなに食い意地は張っていない!」
二人の目尻が吊り上がる。
「その割には、随分食が進んでいるようですけれど? 気に入っていただけて嬉しいですわ」
「確かに味は認めるが、今私が聞いているのはそういうことでは……」
「そうですわよね。烈火が! 毎日! 私の愛情がこもった料理を食べたいと言ってくれたのですから……!」
あれ、そんなことを言った覚えは――。
「表現を誇張するな。烈火は味が良いといっただけだ!」
そうそう――と雪那に同意したい傍ら、再び二人が睨み合う。
和やかな夕食が鳴りを潜め、試合開始のゴングが打ち鳴らされた。
「ですが、私の料理を気に入っていただけたことには、違いないでしょう? それとも私以上の物を、烈火に振舞うことが出来るのかしら?」
雪那は自信に満ち溢れた表情で口元を吊り上げるディオネに対し、苦虫を噛み潰したように顔を顰める。
とはいえ、直接振舞われたことはないが、雪那の料理の腕前も相当のものであるはず。
何せ、雪那は習い事や稽古での資格や免許を大量に持っている超一流の名家令嬢だ。
料理をする必要がないのは当然かもしれないが、料理自体が出来ないというのはあり得ない。
しかしディオネの料理の腕前は、それを上回るのだろう。
いや、上手く料理を作れる――というより、料理という行動自体に慣れているというべきか。
この辺りは、意味合いで察して欲しい。
「ぐ……ッ!」
言い返せずに悔しそうに睨みを利かせる雪那。
銀色の髪をかき上げて、勝ち誇ったように笑みを浮かべるディオネ。
よく分からないが、とりあえず一段落――かと思いきや、思わぬアクシデントが二人を襲う。
「きゃっ!?」
二人は炸裂音と共に襲って来たであろう冷たい感触に、可愛らしく悲鳴を上げた。
凍気と紫電。
感情の昂りと共に無意識に発してしまった魔力の影響でグラスが割れ、中の液体が身体に降りかかってしまったわけだ。
「す、すまない。拭く物を貰えないだろうか?」
「私としたことが、すぐに片づけますわね」
ハッとした表情を浮かべた両者は、直ぐに割れたグラスの対処に当たる。
しかもさっきまでバチバチだった割に、動き出しは全く同じ。顔に似合わずオロオロしている二人に対して、少しだけ笑ってしまった。
どうせ来ない客人用の安物グラスなのに――。
「いや、片付けは俺がやろう。それよりも、その格好を何とかしてくれ。風呂場は好きに使ってくれていいから」
とはいえ、今の二人には可及的速やかに、片付けよりも優先して貰わなければならないことがある。
それでも自分たちが片付けると言い張ってはいたが、程なくして俺が目線を合わせない意味を理解したのだろう。
雪那とディオネの頬が赤らむ。
そう、お茶が降りかかった二人の服は、水分を含んで白い肌に張り付いてしまっている。
つまり豊かな曲線を描く胸元と、雪那の蒼色、ディオネの黒色の下着が透けてしまっているわけだ。
だが二階堂の一件で共に肩を並べたこと。
上手い料理を振舞って貰ったこと。
それに雪那が、俺以外の同年代相手にムキになるという珍しい光景も見られた。
悪気の無い女子相手にキレるほど、癇癪持ちじゃない――と思っての入浴発言だったわけだが、冷静に考えたらこれはこれでヤバい気がする。
なぜなら、ここは俺の家。
つまり超級の美少女二人が、男一人暮らしの家で入浴することになったわけで――。
しかし風邪を引かれても困るし、こればかりは耐えるしかない。
ある意味、“竜騎兵”と戦う以上の試練だった。
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