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第34話 修羅場回避大作戦

 ガチャリという扉の閉まる音が天月家(ウチ)の玄関先に響き渡る。


 Fクラス所属ながら固有(ワンオフ)機持ちの俺

 ミツルギ学園一の超絶(スーパー)女子高生。

 裸エプロン装備の謎美少女。


 三人の若者は、互いが互いに呆然としながら立ち尽くしている。


 だが俺の記憶が確かなら、現在交際している女性はいない。

 確かに零華さんがフラッと来て半裸で(くつろ)いでいたりすることもあるが、この少女には見覚えがない。

 それなら、リビングから(ただよ)って来る(こうば)しい香りと、謎の少女は一体――。


 “竜騎兵(ドラグーン)”との死闘でも冷静に回り続けた思考回路は、固まった表情の裏で機能を停止してしまっていた。

 そんな最中、少女たち(・・・・)(まと)ったドス黒いオーラによって、凍り付いていた雰囲気が消し飛ばされることになる。


「烈火、少し聞きたいことがあるのだが……」

「早速で申し訳ないのですけれど……」


 静寂(せいじゃく)を破るのは、凛とした声音と鈴のような声音。


「――この女、誰?」


 少女たちは同時に、その言葉を口にした。

 語尾の――なのだ、ですの、という差はあれど、本当に全く同タイミングで――。


 凄まじい殺気だ。

 ある意味、“竜騎兵(ドラグーン)”にも匹敵する。


 だが冷や汗を流す俺を尻目に、二人の少女の間で火花が散った気がした。


「……で、彼女は一体誰なのだ? 烈火とはどういう関係なのだ?」


 雪那は小首を傾げて、疑問を(てい)する。

 超がつく美少女であろう彼女の無防備な仕草は、普段とのギャップも相まって凄まじい破壊力だ。


 当然、ハイライトの消えた瞳を向けられていなければの話だが。


 でもそれを聞きたいのは俺も同じ。

 見覚えのない少女があられもない姿で、自宅に上がり込んでいることに動揺していないわけがないのだから。


「あら、関係だなんて……」


 銀髪の少女は薄く頬を染めると、いじらしく両手の指を合わせながら、チラチラとこっちを見て来る。


 関係も何も初対面のはず。

 いや、まさか――。


「君、は……あの時の……?」


 新緑(しんりょく)(ひし)めく木々の森。

 空の色を写し取ったかのように青く透き通る湖。


 そして日の光で(きら)めく銀色の長髪。

 特徴的な琥珀の瞳。


 呆気に取られながら茫然と言い放つ。


「はい! 覚えていてくださいましたね。天月烈火さん」


 困惑する俺とは対照的に、当の少女は花が咲いたような微笑みを浮かべていた。


「なッ!? どういうことだ!?」

「い、いや……初等部に入ってちょっとした後に、一回だけ会ったことがあると思うんだが……」


 一方の雪那は、愕然とした表情を浮かべながら取り乱している。

 とはいえ、この少女とは本当にそれだけだ。

 別に目の端に涙を溜めながら問い詰められるほどのことでは――。


 いやこの状況なら、幼馴染が一人暮らしをいいことに女子を家に連れ込んでいるばかりか、裸エプロン姿プレイ――と思ってしまう方が、自然なのかもしれない。

 何とか誤解を――。


「ええ、そうですわね。その節はお世話になりました。とても大切な約束も交わしましたし、私にとっても素晴らしい時間でしたわ」


 一方、当の少女は、得意げな表情で頬を染めている。


 謎の少女よ、それは完全に逆効果だ。

 追い打ちどころか、傷口に塩を塗り込まれているようなものだった。


「ほう……約束……それは興味深いな。なぁ、烈火?」


 雪那は満面の笑みを浮かべながら、こちらを見て来る。

 誰もが見惚れるほどの美しい微笑だが、欠片も目が笑っていない。


 人並外れた美人だけあって、こういう時の迫力が凄まじいものがあるな。


 とはいえ、“約束”とやらに心当たりがない。


 自分で言うのもアレだが、俺の人生は若いなりに波乱万丈だった。

 それでも銀髪の少女との出会い自体は、今でも記憶に残っている。


 だが逆に彼女が言う“約束”とやらに関しては、記憶から吹き飛んでしまっていた。

 唯一覚えている恥ずかしいやり取りがそれ――なんて、ことはないだろうし。


「目を、逸らすな! まさか何か(やま)しいことがあるのか!?」


 すると、そんな俺の反応を、後ろめたい何かを隠すためのものと受け取ったのだろう。

 雪那は更に威圧感を増しながら、詰め寄って来る。

 色々当たって押し潰れているわけだが、今は気にする余裕も――。


 それに忘れてる――なんて言ったらあの子も怒るだろうし、本当に答えようがない。だがこういう時は、答えが遅れるほど状況が悪くなっていくものだ。


 何も悪いことをしていないはずなのに、完全に負のスパイラルにハマっている。


 しかしここで渦中の少女が声をかけて来た。

 何となくムッとして面白くなさそうな表情は、出迎えの満面の笑みとは酷く対照的だ。


「あ、コホンッ! 烈火(・・)、そちらの女性は何方(どなた)ですの? それと少し距離が近すぎませんこと?」


 銀髪の少女が不機嫌そうに睨み付ける先には、雪那がいる。

 反面、それは雪那も同様であり――。


「私は、神宮寺雪那。烈火とは同じ学園に通う同級生。そして唯一無二(・・・・)の幼馴染だ」

「幼馴染……そう、ただの(・・・)幼馴染! なのですね?」

「そちらは私より(・・・)も遅い(・・)時期に、一度だけ(・・・・)! 会ったことがあるだけなのだろう?」


 互いに微笑を向け合う美少女二人。

 言葉のボディーブローで殴り合っていなければ、男子にとっては至高の空間だったはずだったのかもしれない。


「ああ、申し遅れました。私はディオネ・フォルセティ。一応よろしくと言っておきますわね。神宮寺さん」

「一応、こちらこそと言っておこうか。フォルセティ」


 互いに美人故の同族嫌悪なのだろうか。

 この少女のことを尋ね終わる前に、俺の胃が限界を迎えてしまいそうだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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