表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/167

第33話 混沌の再会

「今回の合同演習については、私に一任されています。黙って生徒を集めて、一体何をやっているのですか? と聞いているのですが?」


 生徒指導室に現れた鳳城先生は、二階堂を(とが)めるように目を細めて言い放つ。

 すると、先までのイキり散らした態度が一転、受け答えがしどろもどろになっていく。


「そ、それは……」

「しかも生徒に対して恫喝(どうかつ)など……」

「ど、恫喝なんて人聞きの悪い。無謀(むぼう)な特攻をして現場を混乱させた生徒の指導をしていただけで……」

「混乱どころか、神宮寺と共に勲章を(・・・)授与された(・・・・・)天月に対し、私的な罰を与える行為が指導だと?」

「ほ、鳳城先生こそ、何を言っているんですか? Fクラスの生徒が勲章なんて……」

「ちゃんと報告書を確認したのですか? 勲章を与えられるのは、天月と神宮寺の二人。それぞれ“竜騎兵(ドラグーン)”、大型竜種の撃退に大きく貢献したのだから、何も不思議はないかと思いますが?」

「だ、だからFクラスが……」

「一年だろうがFクラスだろうが、結果を出した以上、それが全てです」

「う……ぎっ!?」

「ちょうど全員集まっていることですし、この場は私が引き継ぎます。二階堂先生はお引き取り願えますか?」

「ま、まだ、私の話は終わって……!」


 淡々と言葉を紡ぐ鳳城先生と、狼狽(うろた)える二階堂。

 端から見れば、(さと)す大人と叱られる子供。


 大柄な二階堂が論破されてどんどん小さくなっていく様は、中々に哀れだ。

 ましてや四〇歳を目前にしているらしいこの男からすれば、鳳城先生なんて新人と変わらない小娘なのに――。


「そもそも今回の一件に生徒指導部が関与する必要はない。完全な越権(えっけん)行為です。お引き取り下さい」

「く、くそっ!」


 完全アウェーな雰囲気にいたたまれなくなった二階堂が生徒指導室を飛び出していく。

 退出の際に開閉音をやかましく響かせたのは、奴のせめてもの反抗だったのだろう。

 教師にとって花形である魔導実技担当を外されながらも、未だその座にしがみ付いている。

 鳳城先生の指摘がクリーンヒットしたわけだ。


「というわけで、この場は私が引き継ぐことになったが……さっきまで二階堂先生が言っていたことは忘れてくれ。まあ機密保持関係以外は、特別伝えることもないのだがね。さて、分からないことや不安なことがあれば聞くが、何かあるか?」


 肩を(すく)めた鳳城先生は、俺たちを落ち着かせるように微笑を浮かべた。冷静沈着だったさっきまでとは打って変わって、穏やかな表情だ。

 生徒たちはクールビューティーで知られている女性教師の思わぬ茶目っ気に目を丸くしているが、無論いい方向に働いたのは言うまでもない。


 ギャップ萌えってやつだな。

 まあ土守の取り巻きがスリーサイズと彼氏遍歴(へんれき)を聞いて、しばかれていたのは、何とも言えない話ではあったが。


「あんな奴が……なぜ、あんな奴が……」


 ちなみに土守は何やら何かブツブツと呟いていたが、結局そのままだった。


 そうして本来の担当である鳳城先生による報告会兼カウンセリングは、誰かのようにアホみたいな説教をされることもなく終了した。

 しかし並んで帰り道を歩く俺と雪那も、今日ばかりは疲れた表情を浮かべざるを得なかった。


「とんでもないオッサンだったな。雪那のとこの担任が来てくれなきゃ、まだ終わってなかったぞ」

「ああ、鳳城先生には感謝だな」


 反論しても面倒だし、反論しなくても面倒だし、反撃すれば本当に懲罰処分になりかねないし――という状況に颯爽(さっそう)を駆けつけてくれた鳳城先生は、正しく女神。

 若くして責任ある立場に成り上がった理由が分かった瞬間だった。


「今日はさっさと帰ってダラダラしたいところだけど……というか、ホントにウチに来るのか?」

「そ、それは勲章の関係で、もう一度駐屯地に赴く際の打ち合わせと言うか……互いに恥をかかないように、落ち着いて話す機会が必要だと思ってだな」


 雪那の頬が、かぁーっと染まる。

 よく分からないが、何やら凄く必死だ。


「そ、それにしても、今は一人暮らしなのだろう? 家事やなんかはどうしているのだ?」

「まあ零華さんが時々来たりはするけど、食事以外はそれなりにこなしてるよ。一応は……」

「むっ……まさか、毎度外食などとは言わないだろうな?」


 雪那のキリっとした眼光が俺を射抜く。

 さっきまでの狼狽(うろた)えようとは打って変わって、どこか威圧感を感じさせる眼差しだった。


「流石に毎食じゃないぞ。まあ自炊するよりも外で食べたり、宅配してもらった方が手間もかからずに美味いのは事実だけど……」

「ほう……烈火は、そんな不健康な生活を送っているのか?」

「別にジャンキーな物や(あぶら)っこい料理ばっかりじゃないし、気にしなくても……」


 俺の食生活を聞いて、全身をわなわなと震わせる雪那。

 前髪で顔が隠れているところが、彼女の威圧感を増幅させていた。そりゃ節制してそうな超お嬢様と比べられたら、自堕落極まりないかもしれないが――。


 そうこうしている内、何とか自分の家に辿り着く。

 思わず胸を撫で下ろしたのはここだけの話だ。


 ともかく、さっさと話題を変えようと、薄く頬を染めて落ち着きのない様子の雪那を引き連れながらドアを開錠(かいじょう)したのだが――。


「あ、はーい!」


 中から聞こえて来たのは若い女の声。

 明らかに零華さんとは違う。


 なら、するはずのないこの声は――。


 俺は思考を停止させながらも、瞬時に“アイオーン”を起動出来る姿勢を取った。風破と帰った時の連続殺人鬼(シリアルキラー)という可能性もあるしな。

 一方でそんな緊張を他所にリビングの戸が開き、何者かが玄関に駆けて来る。


「お待ちしておりましたわ!」


 臨戦状態に入った俺の眼前に現れたのは、一人の少女。


 長い銀色の髪と琥珀(こはく)色の瞳を持つその少女は、正に美少女と言って差し支えなく――。

 何故か、裸エプロン装備というとんでもない格好で現れた。


「は――?」


 当然、俺は驚愕と共に固まってしまう。


「な、なななな――ッ!?」


 雪那も口をパクパクとさせて呆然としている。


「あら?」


 そして不思議そうに首を傾げている銀髪の美少女。

 これ以上ない混沌(カオス)と共に、その場の空気が凍り付いた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


「面白そう!」

「続きが気になる!」


と少しでも思っていただけましたら、

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を→【★★★★★】にしてポイントを入れてくださると嬉しいです!


その応援がモチベーションとなりますので、ぜひよろしくお願いいたします。

では次話以降も読んでくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ