第28話 竜騎兵《ドラグーン》
「アレは……?」
天空から地上を見下ろす裁定者。
異次元より現れる人間に酷似した存在。
そしてこの世界で生きる者たちにとって、恐怖と混沌の象徴。
ヒト型の“異次元獣”――“竜騎兵”。
俺たちと同じ言葉を発するあの連中は、最上級“異次元獣”と認定され、未だ撃墜例すら皆無とされている。
言うなれば、人類にとって最大の敵だ。
「さて、我々が出張ったからには……」
現れた“竜騎兵”は右手に戦斧を出現させ、突如先端を下に向ける。
身に纏う戦闘装束に武装の展開。
その武装に収束されていく、魔力。
奴の姿は“魔導兵装”を纏った魔導騎士と瓜二つ。
何とも異様な光景だった。
「この戦が終局へと導かれるということだ!」
「撃たせるものかッ!」
魔力砲撃が放たれようとした刹那――。
俺は蒼穹の砲撃を撃ち放つ。
「ちっ、この威力……!?」
“竜騎兵”は、咄嗟に身体を捩ると、攻撃の矛先を俺の砲撃へと向ける。
直後、互いの砲撃魔導が相殺し合い、周囲を衝撃が包み込む。
「なるほど、イレギュラーは貴様のようだな!」
「お前が……“竜騎兵”!?」
“竜騎兵”は自身の進軍を阻む相手を――。
俺は眼前に佇む最大の脅威を認識する。
こいつを下にやれば、こちらの戦線は一気に瓦解する。
何としても、ここで食い止めなければ――。
「■■■■■■――!!!!」
「ちっ……!?」
一方、俺の背後で竜が吼える。
身体の各所に傷が付き、胸から鮮血を散らしていても未だ脅威には変わりない。
“竜騎兵”と巨大竜種。
二対一ってのは、中々に骨が折れる話だ。
「改めて……この群竜をここまで追い詰めるとはな」
“竜騎兵”は全身から闘気を漲らせ、再び右手の戦斧に魔力を収束させていく。
それと同時、巨大竜種の口元にも魔力が蓄積され始めた。
絶体絶命という他ないが、こちらにはまだ――。
「切り抜ける……!」
「ほう、二刀で……」
対する俺も二本目の“白亜の剣”を出現させた。
更に携えた双剣に魔力を纏わせる。
ここから先は、久々の全力戦闘。
それぞれの闘気が膨れ上がり、戦いの天空にて激突――。
「■■、■■■■――!?!?」
その瞬間、臨戦態勢を取っていた竜種の右翼が凍結。
意識外から攻撃を受けた影響で息吹の発射体勢が崩れ、竜騎兵との挟み撃ちに乱れが生じていた。
「私も混ぜて貰おうか」
「雪那……!?」
俺の眼前に現れたのは、白銀の戦闘装束を纏った幼馴染。
その手には、ハルバード――“白銀の槍斧”が収まっている。
「ここは危険だ! みんなと一緒に……!?」
「自分の身ぐらいは自分で守れる。それに烈火が“竜騎兵”の相手をするのなら、他を引き受ける者が必要なはずだ」
俺に向けられる鋭い眼光。
反論は効かない――と、断固たる意志を感じる。
「相変わらず、頑固な奴だな」
こうなってしまったら梃子でも動かない。
それは俺が一番分かっている。
ここ数年、肩を並べて戦ったことはないが、後は雪那の力量を信頼するしかない。
とはいえ、無策で突っ込んで来るような奴じゃないし、その辺りの心配は不要だと思いたいところだが――。
そうして俺たちは背中合わせとなり、武器を構える。
「それより危険なのは烈火の方だ。恐らく、あちらは……」
「ああ、何とかするさ」
“竜騎兵”。
人類にとって最大の脅威でありながら、分かっていることはあまりにも少ない。
ただ一つだけ、はっきりと断言できることは――。
「今世との別れは済んだか? 我が名は、クロード・ガルツァ。神聖なる帝国の先槍也。さあ、我が愛機――“レオニス”の錆となるがいい!」
そう、“竜騎兵”は強い。
ただ純粋に、暴力的なまでに――。
「……やはり異次元獣は、人間と同様に明確な意思と社会性を持っている。本当にただの侵略者……なのか?」
敵意を剥き出しにするクロード・ガルツァと対照的に、俺の心は静けさを保ったままだった。
なぜ敵を前にして落ち着き払っているのかと言えば、過去の記憶が脳裏を過ったから――。
『――次に会う時までに貴方にお似合いな女性になりますから、ちゃんと私の事を捕まえて下さいね! 約束ですわよ!』
それは銀の髪と琥珀色の瞳を持った少女。
出会ったのは幼き日に一度きり。
今にしてみれば恥ずかしいことを言われた気もするが、当時はのほほんと受け取ってしまっていた。
そして今も記憶に灼き付いている異界の少女。
だが感傷に浸る時間などあるはずもなく――。
「征くぞ、偽りの世界を護りし騎士よ!!」
そんな俺を尻目に猛々しい戦斧を構えた“竜騎兵”が空を舞う。
雪那たちも戦いを始めている。
であれば――。
「理由はどうあれ、退くわけにはいかない。これ以上、何も失わない為にも……!」
俺は思考の渦から脱すると共に、心の撃鉄を叩き上げる。
眼下には多くの人間。
そして背後には、雪那がいる。
命に代えてでも護るべき存在が――。
直後、俺も二刀の“白亜の剣”を構え、天空を駆けた。
「打ち砕くッ!」
「斬り裂く!」
そして互いの剣戟が交錯する。
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