第25話 天を衝く白騎士
衝撃と共に戦闘シミュレーターが強制解除される。
だが元に戻った周りは、まるで災害の跡地と化していた。
そんな中、唯一幸いだったのは、犠牲者が一人も出なかったことだろう。
「……無事だな?」
「あ、うん。ありがとう。烈火、神宮寺さん」
「さ、サンキュー」
「大事無くて何よりだ。しかしこれは一体……?」
俺と雪那が二重に展開した魔力障壁によって、第二小隊は無傷。影の薄い男子生徒を含めて――。
だが安堵の表情が浮かぶわけもなく、俺と雪那は厳しい表情で空を睨み付けた。
視線の先、遥か天空には異次元からの門が開いているのだから。
「嘘……だよね?」
「ちょっ、マジか!?」
“スレイブメガロ”、“レギオンマンティス”、“メイレムワイバーン”からなる大編隊。
それも当然、今度は全て本物。
実習ではない初実戦とあって、風破たちも空を見上げたまま絶句しているようだ。
「君たちは、他の生徒を連れて、後ろの駐屯地まで逃げなさい! 早くッ!!」
「わ、分かりました!」
「は、はいッ!」
その一方、女性団員はたった一言で風破の正気を取り戻させ、俺たちに第一小隊の介抱を命じて飛び立っていく。
流石は本職。
さっきまでの気さくな兄ちゃん、姉ちゃんを思わせる様子から一転して、完全に戦闘モードだ。
「大丈夫、花咲さん!?」
「う、うん……」
「ど、土守たちは……って、壁に埋まってる!? あ、足は動いてるから、生きてるんだよな?」
そして不幸中の幸いというべきか、第一小隊も全員無事。
直前まで“魔導兵装”を纏っていたことが、功を奏したようだ。
だが状況は悪くなる一方で――。
「――あ、れは……竜種?」
風破は顔面蒼白となり、震えながら声を漏らす。
出現したのは、群青色の鱗を生やした長い首。
優麗な雄々しき翼をもつ生物。
それは他の異次元獣とは、次元が違う怪物――竜種。
しかも“メイレムワイバーン”のような下級種ではなく、一〇〇人単位で対処に当たっても、討伐できる保証のない巨大種だった。
俺と雪那は、巨大竜種――“グロリアスドラゴン”を睨み付ける。
「状況は最悪だな」
「ああ、竜種が相手ではどれだけの犠牲が……って、よく考えたら、“シオン駐屯地”を攻め落とすには戦力が少なすぎないか? いくら巨大竜種がいるとはいえ……」
その一方、俺はこの襲撃に言いようのない違和感を覚えていた。
巨大竜種は確かに強いが、所詮は一頭。
駐屯地の騎士団が全員でかかれば、食い止めることは出来るはず。後は他からの援軍の到着まで耐えきれば、不利になるのはあちらの方だ。
それは他の“異次元獣”を含めても変わらない。
いくら人間からすれば自然災害と変わらない連中とはいえ、生き物である以上は個体ごとに意志を持っているはず。
わざわざ負ける戦いに特攻して来るものなのか――。
「奴らの狙い……。まさか!?」
「烈火っ!?」
――“アイオーン”、起動。
俺は白亜の戦闘装束を纏い、“白亜の拳銃”を手に空を駆ける。
「デカいのが来るぞっ! 総員退避ッ!」
「違う、奴の狙いは……!?」
真上からの不意打ちを受けた直後とあって、こちらの戦力は揃いきっていない。
つまり戦力が揃った後ならあちらの方が不利になるが、今この状況ではこちらが不利だ。
そして最初に撃ち込まれた攻撃の特性を考えれば、連中の狙いは見えて来る。
「■■■■■――!!!!」
巨竜の口が開かれ、中心に膨大なエネルギーが収束されていく。
――“竜の息吹”。
こちらが体勢を立て直す前に超火力で灼き払われれば、完全に手遅れになってしまう。
なにせ、駐屯地の施設には、まだ多くの団員が残っている。そこを破壊されれば、戦うことすらなく大量の戦力を失うことになるのだから――。
そうなれば、混乱と焦燥で戦線は崩壊。
他からの援軍が来る頃には、この駐屯地は消滅しており、連中は逃げ帰っている。
正に電撃作戦。
「間に合うか……!?」
今も空を駆ける俺は、“白亜の拳銃”の形態を切り替える。
銃身が迫り出し、本体に走っている蒼い線が光を帯びる。
拳銃から大型砲塔へ。
――“白亜の拳銃・高出力砲撃形態”。
「これでっ!」
――“テスタメント・レイ”。
蒼穹の砲撃魔導が唸りを上げる。
「■■、■■■■■■■――!!!!!!」
直後、絶望を告げる竜の息吹が放たれた。
だが灼き尽くされたのは、無力な人間ではなく――。
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