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第24話 破片と化すプライド、襲来する脅威【side:土守】

 ◆ ◇ ◆



 合同訓練最終日の日程は、九名の学生を二分割しての戦闘シミュレーション。


 学生だけでどれだけ戦えるのか。

 実戦に近い状況で、これまでの訓練の成果を発揮できるのか。


 それを見極めるためのテストだ。


 編成は、第一小隊が土守陸夜と取り巻き二人、花咲伊吹と男子が一人で、合計五名。

 第二小隊は、天月烈火、神宮寺雪那、風破アリア、伊吹と組んでいた余りの男子で、合計四名というもの。

 小隊長はそれぞれ陸夜と雪那。

 つまりは学園の成績での選出であり、反論する者は誰もいない。


 そしてシミュレーターによって再現された市街地(しがいち)に押し寄せるのは、巨大蜻蛉(トンボ)――“スレイブメガロ”が四体。

 奥に控えるように“レギオンマンティスが二体。

 計六体の異次元獣(ディメンズビースト)だ。


 対するは、陸夜が率いる第一小隊であり――。


「さあ、行くぞ!!」


 陸夜は魔導杖(ロッド)形態の“オーファン”を振り下ろす。

 この最終演習では、固有(ワンオフ)機の使用が許されているとあって、かなりノリノリだった。


 更に他の四人も陣形を取り、一斉に“マジックバレット”を撃ち放つ。


 その狙いは、手前で滞空する“スレイブメガロ”。

 開幕炸裂でまずは数を減らしてしまおうという魂胆(こんたん)であるようだ。


「■■■■――!!」

「なにぃ、ッ!?」


 しかし羽音(はおと)が響いたかと思えば、全てが空を切ってしまう。

 大きさが増しても蜻蛉(トンボ)特有の高速制動(ホバリング)は健在であり、その機動力は脅威に値する。

 “異次元獣(ディメンズビースト)”の中では低級であろうとも、人間一人殺す程度なら容易なのだから――。


 巨大蜻蛉(トンボ)を懐に入れさせるわけにはいかない。

 その上、奥のマンティスも両鎌(りょうかま)を持ち上げて向かって来る。


 正しく、攻守交替。


「マズいッ!! 囲まれたら終わりだぞ!! 扇機動を取って一度離れた後、一挙集結! 陣形を取って、最大火力で連続攻撃を……!」


 作戦を潰された陸夜が焦りながら指示を出すが、事今回に関しては悪手だった。

 というより、それ以前の問題だ。


 なぜなら陸夜はプランが成功した時の事を細かに説明していた一方、失敗した場合の対処を伝えて――いや、一切考えてすらいなかったからだ。

 それは自分に対する絶対的な自信の表れであり、最悪のケースを想定する――という、指揮官としての基本を軽んじたことを意味している。


 これでは小隊の統制など取れるはずもなく――。


「ぐっ、ァ!?」

「このっ……!!」


 戸惑う小隊員に対し、巨大蜻蛉(トンボ)が肉薄する。

 陸夜の指示は退避してからの再集結ではあったが、状況的に迎撃しないわけにもいかない。

 結果、困惑した小隊員は戦うでもなく、逃げるでもなく、中途半端な対処しか出来なくなってしまったのだ。


「花咲は敵を引きつけ過ぎだ! そっちは弾幕が薄いし……って、馬鹿者!? 敵を尻に付けながら逃げ回る奴があるか!?」


 焦りは更なる焦りを呼び、思考停止(フリーズ)しかけている陸夜の表情からも余裕が消えていく。

 完全にパニック状態だ。


「く、くそっ!? こんなはずでは……」


 確かに体勢を立て直しながら反撃手段を整える――という、陸夜の指示自体は間違っていない。

 だがそれは戦っているのが、きちんと訓練を積んだ魔導騎士であればの話だ。


 半人前の生徒。

 初めて組んだ小隊に加え、慣れない場所での戦闘。

 能力が足りないことなど、最初から分かり切っている。


 ならば、あれもこれもとは言わず、反射的に単純な指示を叫ぶだけで良かったのだ。

 早い話が出来ないことを無理やりやらせようとして、指揮系統がズタズタになってしまったということ。


「このッ! 僕たちだって、“流斬連撃陣りゅうざんれんげきじん”を――!?」


 だが陸夜は完璧を求めてしまった。

 自身たちが演習カリキュラムで辿(たど)り着けなかった技術と知識をふんだんに組み込み、机上の空論(・・・・・)とも(しょう)せる作戦を実行してしまったのだ。


 過ぎたるは猶及(およ)ばざるが(ごと)し。

 気づけば戦線は総崩れと化していた。


「くそっ!? こうなれば、僕が突破口を……!! “マジックバレット”、乱れ撃ち!!」


 一方の陸夜は、このままではどうにもならないとばかりに指揮を放棄(・・・・・)

 単身で“レギオンマンティス”に挑みかかるが、一〇を超える連弾でも外骨格を撃ち抜くことは出来ない。


「■■■■――!!」


 直後、理外の方向から死の鎌が振り降ろされる。

 それは二体目の“スレイブマンティス”。


「な――にッ!? 二対一など……この、卑怯者(ひきょうもの)めっ!」


 対する陸夜は、自慢の魔弾を弾かれて驚愕。

 “オーファン”を魔導杖(ロッド)から細剣(レイピア)に移行させて応戦するが、挟み撃ちから脱出することが出来ない。


 一方の小隊メンバーも変わらず戦闘を続けてはいるものの、動揺のあまり動きが硬くなっている。

 各個撃破されるのは、時間の問題だった。


「くそぉ! くそぉぉ!! くそぉぉぉ!?!?」


 陸夜は細剣(レイピア)を必死に振り回すが、二対一で歯が立たない。淡々と追い詰められていく。

 最早打つ手無し――完全なまでに詰み(チェックメイト)であった。


「くそぉおおおおぉぉっっ!!!!!!」


 名門・土守の名に()けて負けるわけにはいかない。

 この戦いを見て、拍子(ひょうし)抜けだと落胆(らくたん)している騎士団員たちを見返さなければ。

 散々見下してきたのだから、自分より下の生徒に優れたところを見せつけなければ――。


 己のプライドに賭けて――。


「な、なにィ!?」


 だが渾身(こんしん)の一突きは、マンティスの鎌で弾き返されてしまう。

 焦りが刃を鈍らせ、威力と速度が弱まっていたのだ。


 加えて、この驚愕は攻撃が防がれたことに対してだけではない。


「ふっ、ふざけるなぁああああっっっ!!!!!!」


 今現状、戦っている自分たちが最も注目されていなければおかしい。

 実際、騎士団員、学生たちも思惑(おもわく)はそれぞれであれ、自分たちを注視しているはず。


 その一方、烈火と雪那は並んで壁にもたれ掛かり、何かを話し込んでいた。


 ()(たた)えられることは、陸夜にとって呼吸と同じ。でも今は自分が心奪われた少女が、自分ではない誰かを優先している。

 その光景を見た瞬間、怒りが爆発。頭が真っ白になってしまう。


 確かに、時には怒りが力に変わることもある。

 しかし戦いの中で冷静さを失うことは、諸刃(もろは)の剣。


「あ、あぁっ……ァ、っ!?」


 動きの硬直を狙われ、陸夜の細剣(レイピア)が空へと弾かれた。


「■■■■――!!」

「ひっ……!?」


 無防備になった陸夜は両サイドから迫る鎌を前に、全身を震わせることしかできなかった。

 正しく絶体絶命。

 だが、けたたましい警報音(アラート)と共に“レギオンマンティス”が消えていく。


「な、なんだ……?」


 状況を理解できない陸夜の口から茫然(ぼうぜん)と言葉が漏れる。

 それは他の面々も同様であり、困惑しながら辺りを見回すが――。


「う、うわぁあああああっっ!?!?」


 次の瞬間、シミュレーターによって形作られた偽りの空が割れ、陸夜たちは爆炎に包まれた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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