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第22話 無防備な氷姫

 鳳城先生は別の駐屯地(ちゅうとんち)に向かうため、ここで離脱。

 そうして引率の立場を預かった騎士団の人と一通りの挨拶を終えた後――。


 いよいよ、ミツルギ学園と天命騎士団の合同演習が始まった。


 初日は基礎訓練。

 思ったより地味な内容に内心落胆していた学生一同ではあったが、工程の途中であるにもかかわらず、既に立ち上がることすら困難な状況へと陥っていた。


「はぁ、はぁっ!? も、もう限界……」


 風破は彼女らしくない、のっぺりとした動きで上体を起こし、深い溜息(ため)を漏らす。

 だが見るからにしんどそうな風破でも、かなりマシな部類であり――。


「はぁっ!? あ、はぁァっ!? この、僕が……!?」

「……ぁ、っ!? やばっ……」


 土守の隣にいる取り巻きは真っ青な顔をしており、転びかけながらトイレに駆け込む。中でどうなっているのかについては想像したくもない。

 更にその後も代わる代わる、生徒たちがトイレへと転がり込む。

 正しく地獄絵図だ。


 その一方――。


「……流石に学園の授業とは比べ物にならんな」


 雪那はジャージの前を開け、身体にこもった熱を逃がすように体操着の(えり)(つか)んでパタパタと(あお)いでいる。多少息が上がってこそいるが、それほど疲労した様子もない。

 でも問題はそこじゃない。


「――ったく、何をやってるんだお前は」

「あうっ!? れ、烈火こそ、いきなり何をする!?」

「そういうとこ、相変わらずだよな……って」

「詳しい説明を要求したいのだが?」


 俺は一息ついている雪那の額を、人差し指と中指で軽く小突いた。

 まあ小突いたとは言っても、実質触れただけ。痛みもなければ衝撃もないはずだが、当の雪那は憤慨(ふんがい)した様子で詰め寄って来る。


「だから、そういうところなんだよ」


 今の雪那――というか俺たちは、上下ともに学園指定のジャージ姿。

 それも激しい運動の直後とあって、上着の前は全開状態だ。

 もちろん、それ自体は当然のことだろう。

 だが他の生徒はともかく、雪那がこの格好というのは周囲の注目を否応なく集めてしまうことになる。


 何故なら、訓練中ですら飛んで、走っていた雪那の胸元は、紳士(しんし)たちにとっての危険領域(デッドゾーン)。非常に目に毒な領域だ。

 その挙句、薄い体操着一枚で胸元を開けながら(あお)いでいればどうなるかなど、論ずるに値しない。

 実際問題、今の雪那の姿を受け、疲労困憊(ひろうこんぱい)の生徒どころか、男性団員まで鼻の下を伸ばしていたわけで――。


 故に今は割り込んだ俺が、周囲からの視線を身体で(さえぎ)っている。

 でももし雪那一人だったら、休憩時間の間中、劣情(れつじょう)を帯びた視線を長時間浴びせられていたはずだ。


 言ってしまえば、雪那には自分が美少女であるという自覚があまりにもなさ過ぎる。こういうところは、ちゃんと箱入り娘だということだ。

 昔からだけど――。


「な、なんだ、その呆れたような視線は……。とにかく、私の質問に答えてもらおう」


 それにこうやってムキになるところを含めて。


 しかし雪那サン、()ねながら上目遣いまでは身長的に仕方ないにしても、近づき過ぎて当っているというか、押し潰れているというか。

 ちょっとすれ違っていた数年で、とんでもないことになりすぎではないだろうか。


 というか、他の連中にもこんな距離感じゃないだろうな。

 いやこんなに親しみやすかったら、氷の女帝なんて呼ばれることもないか。


 ちなみに大変今更だが、今回の合同演習は全三日間で予定されている。最初ということもあり、生徒の体力を考えて短めの日程にされたらしい。

 まあそこら中に(しかばね)が転がっている辺りからして、正しい判断だったと言えるだろう。


 安全管理された環境の中で良い成績を取るための授業と、実戦を想定したハードな訓練は全く違う。

 現状を簡単に表すなら、学園のエリートでも濃密で過酷な訓練についていけなかった――ということになってしまう。

 明日からが本番らしいが、無事に完走出来るのやら。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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