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第162話 変わったもの、変わらないもの

 人々の営み。

 その楽しげな声は、以前この遊園地に来た時より鮮明に聞こえる気がする。それは多分、俺たち自身の心境にも、色んな変化があったことを意味しているのだろう。

 とはいえ――。


「三人とも元気で結構だが……少々はしゃぎすぎではないか?」

「それに関しては同感だけど、これが普通ってやつなんじゃないのか? 遊園地を楽しむって意味なら、多分あっちの方が正常だ」


 本日三回目のジェットコースターへ向かう班員の背中を見ながら、俺と雪那は嘆息を漏らしていた。


 今繰り広げられているのは、課外授業という名の楽しい遠足。

 生徒は数名ごとに分かれて班行動を取り、教員は施設内を周回しながら監視という名の息抜き。つまりは本当にただの遠足。

 こればかりは魔導もクソもない。実に平々凡々なカリキュラムと言えるだろう。

 それなら当然、普段から親しいというか揉め事にならない生徒同士が班を構成することになるのも自明の理。


 よって、雪那、風破、朔乃に加え、何故か伊佐も合わせての班行動で各地を回っているわけだ。いや正確には、既に班員のテンションに付いていけなくなっているのが現状と言うべきか。


「まあ朔乃は脱Fクラス、風破も色々あったし、もう一人のバカは平常運転。こんなもんだろう」

「かもしれんな。それに程度の差はあれ、私たちも似たようなものか……」


 “サベージタウロス”の学園襲撃に始まり、この数ヵ月――本当に色んな変化があった。それが良いことなのか、悪いことだったのかを一言で表すことは出来ない。


 得たものもあれば、失ったものもある。

 新しく紡いだ絆もあれば、取りこぼしてしまった命もある。


 最高で、最良で、最善で、最悪。

 様々な想いが入り混じった日常の営みを正誤で表すこと自体、そもそも不可能だということだ。


「しかし先ほどから視線が(わずら)わしいな。私の顔に何か付いているのだろうか?」


 いや、多分見惚れてるだけだと思いますけど――と、内心苦笑する。

 というのも、魔導を有無における対立。昨今の緊迫した情勢を加味した結果、一般人の気持ちを煽らぬようにと、今日の俺たちは制服ではなく私服姿。


 何より、一見すれば堅物委員長タイプの雪那ではあるが、私服に関しては意外と身体のラインや肌が結構出る格好を好んでいるらしい。

 神宮寺お付きのスタイリストが仕立てたのか、ドジっ娘メイドの影響なのか、それとも当人のセンスなのかは分からないが、ともかく自然体で佇んでいるだけで周りからの視線を一手に集めてしまうというわけだ。それこそブラックホールの如く。

 まあ雪那の場合、服装云々の次元じゃないのかもしれないが。


「む、そういえば、あの屋台……」


 そんな周囲の動揺など露知らず、雪那は可愛らしく小首を傾げた。視線の先にあるのは、少しばかり見慣れた景色の中に佇む異質な物体。

 別にそれ自体はなんてことはない。遊園地の景観にも馴染んでいる。だが俺たちからしてみれば、その屋台は少しばかり異質だった。


「ああ、前とは別物だ。流行の変化も大概ってことだな」

「ふむ、分からんものだな。あれだけ盛り上がっていたというのに……」


 その桃色の屋台は、以前の時は水色だったはず。何せ店名と装飾以外は、以前の形状と何ら変わりないのだから、見間違えるはずもない。

 つまり以前のジュース屋が潰れ、別の店舗として生まれ変わっていることを意味している。


 その一方、流行が過ぎ去ってもスタッフが営業している以上、従業員には変化はないらしい。

 以前、雪那が胸にジュースを乗せる元凶となった女性店員は、何故かこっちを見ながらサムズアップしていた。

 よく俺たちのことを覚えていたな――とか、ファンシーな世界で夢を押し売りするならあれぐらいのバイタリティーが必要なのか――とか、色々と思ったことはあるが、やっぱりイラつく顔だ。


 そしてこの場所に来たことでの再会には、もう一つ大きなものがあった。


「あん?」


 それは以前来た時にニアミスしていたらしい“サルベージ”と顔を合わせたこと。

 現に萌神は、俺を見てキョトンとした表情を浮かべている。そして隣に佇む雪那を見て、怪訝そうに目を細めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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