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第160話 凶乱の前の静けさ

 ――二週間後。


 進級早々の模擬戦。随分と派手なスタートを切ることになってしまったわけだが、むしろ周囲には良い影響を与える結果をもたらしていた。

 言ってしまえば、最初から一気にかますことになった所為(せい)で、進級特有のぎこちなさが抜けていく段階を色々とすっ飛ばしてしまったのだろう。

 実際問題、既に生徒の多くが、新しいクラスで過ごす毎日を当たり前の日常だと認識し始めているのだから――。


「しかし毎日フルで授業に出るのは、肩がこるな。実技でもやたらと前に出させられるし……」

「それが普通なのだ。ましてや私たちは固有(ワンオフ)機持ち。他の模範となって然るべきであり、去年までが堕落しすぎだったと自省するしかない」

「アハハ……Fクラスって意味だと、私も耳が痛すぎる話だなぁ」

「朔乃も烈火も一番下から一番上にジャンプして来たばっかりだし、ちょっとくらいはね。それに神宮寺さんから見たら、全員堕落どころじゃないんじゃない?」


 俺と雪那、風破と朔乃。

 時折、花咲や祇園、他にも駐屯地訪問で顔を合わせた連中が加わったりはするが、基本的には、この四人で過ごすのがメインとなっている。

 まあここまでは計算通りではあったが、成績順でクラス分けされている以上、どうしても元Fクラスという境遇が周りとの軋轢(あつれき)やノイズになるだろうことは想像に難くなかった。

 だが俺や朔乃はどうなることやら――という、最大の懸念事項があっさり解消してしまったことは、良い意味で計算外。

 俺たちは意外にも、好意的にクラスに受け入れられているらしい。


 恐らく、模擬戦からの流れで皆の憧れである鳳城先生と戯れていたことにより、変な形で一目置かれることになってしまったことがまず一つ。

 その上、固有(ワンオフ)機持ちであり、第二研究所の所属。

 ついこの間のタッグマッチを含め、実技授業の度に連中を打ちのめしていたこと。


 対抗戦辺りから連中の心境に変化があったのかについては定かじゃないが、少なくとも以前の様な差別や偏見の感情を向けられたことはない。

 思ったよりも過ごしやすくなって、何よりだが――。


「月谷に関してはその通りだが、烈火は話が別だ。学園外の(・・・・)用事(・・)にかまけることは、教員側も考慮してくれないのだぞ?」


 ただ一番の理由が、孤高の存在だった雪那と距離を詰められるから――という下心が透けて見えているのは、何とも言えない話だ。

 現に雪那のアドレスだとか、家の場所だとかを細かく聞かれる機会も多々あった。


 しかし雪那はともかく、俺本人に個人情報を聞いて来る女子生徒は、一体何がしたいのやら。

 不機嫌そうな雪那が来て、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げていくまでがワンセットだし、結局理由を尋ねるまでには至っていない。


 そして新年度が始まったことによる、もう一つの大きな変化は――。


「てか、天月がFクラスとかどういう状況だったんだ? 固有(ワンオフ)機を持ってるのは置いといても、魔導の腕前は俺たちより全然上だぞ?」


 我が物顔でしれっと自分の机に座っている、伊佐涼斗の存在。

 別に短期間に親友になったとかそういうわけじゃないが、例の模擬戦を経てこうして話に加わって来る機会が増えていた。


 とはいえ、雪那や風破の境遇を思えば、初見の相手に何らかの警戒心を持つことは当然の処世術。

 つまり、そんな二人が警戒すらしていない辺り、多分コイツは自分の感情のままに動く底抜けのバカだということだ。少なくとも、傲慢なエリートには程遠い。


「色々と込み入った事情があったんだよ。あまり詮索(せんさく)してくれるな」

「そか、ならしょうがねぇな! ンな事より、天月の周りには美人が多すぎじゃね? 全員フリーなら、一人ぐらい紹介してくれよォ!」


 しかしこういうところでパッと話を切り替えてくる気遣いから察するに、救いようのないバカというわけではない。

 良い意味で明るいというか、愛嬌(あいきょう)があるというか。

 しかもそれが発揮されるのは、俺たち以外に対しても同じだった。


「当学園は不純異性交遊を推奨していない」

「へぶっうう!?」

「それと机に座るな」

「あひんっ!?」


 現に帰りのホームルームのために、教室へ戻って来た鳳城先生によるチョーク投擲。

 伊佐の頭は白煙が上がっている。


 だがそんな光景を皆が呆れながら笑顔を向ける空間は、すっかりお馴染みのものとなりつつあった。時代錯誤なじゃれ合いではあるが、これが一つのエンターテイメントになっている辺り、奴の特性は天性のものなのだろう。


 しかし、あのチョーク直撃は絶妙に痛くないらしいが、どういう力加減をしているのか。

 鳳城先生の主武装は、剣だと聞いているが――。


「いやぁ、二人ともスーツの一部分だけがパンパン……ほぶうううゥうっ!?」


 まあ後を追ってきたヴィクトリアさんを含め、教師二人の胸元を見て鼻の下を五倍くらいに伸ばした奴への一撃だけは、そこそこ本気だったのかもしれないがな。


 今こうして目の前に広がるのは、温かな空間。

 戦って壊す事しか出来ない俺の魔導ではあるが、こういう奴らが笑顔で過ごせる世界を護るための役には立つはず。

 そう、刃を振るう理由は、過去との決着だけじゃない。せめて手の届く範囲ぐらいは護らなければ――と、首元の愛機(アイオーン)に手を添えた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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