第16話 変幻自在の白騎士
決闘騒ぎの翌日――。
疲れも程々に、俺は土曜の休日を潰して第二研究所へとやって来ていた。
呼び出された理由は当然、決闘騒ぎで使用した“アイオーン”の整備とデータ分析のため。
だが事態は予想外の方向へと動いてしまい――。
俺は白亜の戦闘装束を纏い、現在進行形でビル群の間で滞空中だった。
『じゃあ、市街地での戦闘シミュレーションを始めるわよー』
すると、通信越しの零華さんの指示に合わせ、巨大な蜘蛛――“ストレンジスパイダー”が目の前に出現する。
対する俺が“アイオーン”を纏っている以上、何をするのかについては説明の必要もないだろう。
しかし予定になかった訓練とはいえ、データ採取のために機体を託されているのだから、ここまでは驚くほどのことじゃない。
ただしこの戦いが、予想外のものとなった最大の理由は――。
「■■■■■――!!!!」
「……本当にメイン武器無しで、コイツとやり合うのか!?」
巨大蜘蛛の口から粘液のような糸塊が射出され、寸前のところで身体を捻りながら回避。怪獣映画のような状況に、思わず言葉が漏れてしまう。
だが今の言葉こそが、この戦いの根幹となる部分だった。
“白亜の剣”。
“白亜の銃”。
そしてついさっきまで“アイオーン”を解析していた零華さんが搭載したらしい、新たな武装――。
言うなれば、“アイオーン”本来の武器群ではあるが、今回の戦いでは使用を禁止されている。
なぜなら――。
『“アイオーン”の調整に夢中になっていた所為で、武装採用競技会のことを忘れていたんだからしょうがないでしょう? 使用感とか、色々感想よろしく頼むわよー!』
「はいはい。それを言われちゃ、こっちの立つ瀬がないな」
そう、この戦いの意味は、通信越しの零華さんが言う通りであり、近い内に開かれるらしい武装プレゼン大会にて、第二研究所から何を出すのか。
それを見極めるためのものだ。
そして当日、企業同士の競争を勝ち抜いて見事採用されれば、その武装が騎士団に配備されるようになるらしい。
すると、特許なら使用料やらで、まとまった報酬が手に入る。
だから逃す手はないわけだが、今回の“アイオーン”関係で零華さんの手を煩わせてしまった。
これはその清算というか、恩返し。
土曜の休日が潰れるぐらいは安いものだ。
「■■■――!!」
「まあ楽しみながらやらせてもらおうか!」
巨大蜘蛛の脚が槍のように突き出され、またも寸前のところで攻撃を回避する。
更に回避動作と並行しながら、何も考えずに最初の武装を呼び出した。
「はい……?」
しかし俺の手に収まったのは、所謂ピコピコハンマー。
果たしてこれは武装なのだろうか。
その上、高速で突き立てられる槍脚に加え、糸をばら撒くという遠距離攻撃手段を持つ相手に対しては、あまりに相性が悪い。
はっきり言って、使い物にならない。
「■■、■■■――!!!!」
何より、思わぬ武装に呆然としてしまったせいで、不意を突かれる形となってしまい――。
「ちっ……!?」
俺の身体が横にブレる。
直後、グンッ――と、身体全体を引っ張られる感覚を味わいながら、ビルの壁面へと着地した。
その後も突き出された脚が狙いを変え、何度も俺を狙う。
だがその度にビルや道路などを起点にして、異質な立体機動を取りながら攻撃を躱していく。
これはピコピコハンマーを引っ込め、新たな武装を呼び出したが故の結果だった。
「“アンカーアイゼン”か……。これは使えるな」
両手首に呼び出した発生器から生成される、魔力鋼糸。
更にその先端には、鋭利な楔が接合されている。
よって、俺の現状を簡単に表すのなら、魔導騎士版の鋼糸アクション。
己の飛行推進力に加え、魔力放出装置で自在に方向を変えられる楔鋼糸を使って、市街地を駆け抜けているわけだ。
発生も早いし、手も塞がらない。
不意も突けるし、使える用途も多い。
武器の性質上、直接的な火力には繋がらないが、二つ目にしてかなり良い感じの武器だと断言出来る代物だった。
というか、さっきのお遊びハンマーとの振れ幅からして、倉庫にある武装を片っ端から放り込まれた疑惑が出て来たな。
「しかし、逃げ回っていても倒せない。火力の有りそうな武器は……」
「■■■、■■■――!!」
「こいつかッ!」
俺は大型ガトリングを呼び出し、飛んできた糸の塊を消失させる勢いで魔力弾の雨を降らせていく。
更に糸の塊を突き抜けた魔力弾が巨大蜘蛛へと炸裂し、それなりのダメージが通り続けているようだ。
“マジックバレット”乱れ撃ちだったか。
機動力が著しく落ちるデメリットがあるとはいえ、この弾数は魔弾の剣士も涙目だな。
とはいえ――。
「固定砲台ならいいが、通常戦闘で使うにはまだ厳しそうだ。燃費も悪いし、照準もブレる。弾をばら撒いている以上、仕方ないかもしれないが……」
魔導騎士の強みは、戦闘機以上の攻撃力、小回り、防御力を併せ持つというところにある。
だが逆を言えば、足が止まってしまうなら従来通りの兵器と何ら変わらない。現に展開しっぱなしだったアンカーを使って避けていなければ、とっくに蜘蛛の糸に捕まっていた。
ピコハンよりは大いに使い道もありそうだが、要改良――ってところか。
まあ零華さんが関わっている以上、他のところの似た装備よりは、かなり性能も上なのだろうが――。
『ふむふむ、拠点防衛専用装備って感じになっちゃいそうね。今回のコンセプトからは外れるか……。じゃあ次お願い』
「了解」
俺は大型ガトリングを引っ込め、忍者の苦無を思わせる短剣を展開。
指の間に挟み込み、左右三つずつ――六本を一気に放り投げる。
「■■■、■――!?」
短剣――“ダガーダーツ”は、アンカーと同様に術者の魔力で作動する推進装置が搭載された投擲用の武装だ。
よって、放り投げた勢いに推進力がプラスされたまま相手へと食い込み、内部で魔力爆散。ダメージを与えるわけだが、やはり武装自体が小さいだけあって火力不足は否めない。
なぜなら巨大竜種の硬質な鱗や、魔導騎士の“魔力障壁”で防げるレベルの代物でしかないからだ。
だがアンカーと同様、個人的には結構気に入った武装の一つだった。
そこからも“ダガーダーツ”のバリエーションだと言って、手裏剣やら長槍型を投げさせられたり、巨大なバズーカランチャーを撃たされたりと色々あったが、いよいよ大詰め――。
左手に小型マシンガン――“スケルツォーン”を手にした俺の前では、各所から鮮血を撒き散らした巨大蜘蛛が、ビルを壊しながらもたれ掛かっていた。
その上、八本あった脚の内の三本を喪失しているとあって、機動力も大幅に削がれている。
後は反撃に気を付けながら、一発デカいのを叩き込むだけだが――。
「■■■■、■■――!!!!」
「まだ動くか、でも……」
俺はアンカーを奴の近くのビルに突き立て、迫る糸の嵐を潜り抜ける。
それと同時、“スケルツォーン”からも魔力弾をばら撒き、動きの鈍った敵にダメージを蓄積させていく。
更にそのままマシンガンを引っ込め、再展開した追撃の“ダガーダーツ”を放り投げれば、見事命中。辺りが爆炎で包まれる。
当然、この程度で倒せるなんて思っていない。
最後を決めるのは――。
「やっぱり剣じゃないとな!」
呼び出したのは、身の丈ほどもある重斬刀――“アスカロン”。
第二研究所で開発中の武装の一つらしいが、これといったギミックはない。多分、材質とか、その辺が他より優れているんだろう。
つまり俺が考えるべきは、怯んでいる敵を叩き斬ることだけ。
「“エクシードフィアーズ”――」
蒼穹裂断。
巨大蜘蛛の胴体を断ち斬り、魔力の奔流へと叩き込む。
「――■、■■!?」
直後、巨大蜘蛛は全身が軋み上がる音を響かせながら、数本の足先だけを残して消失。
そしてシミュレーターが終了した。
「お疲れさまー! お姉さんの武器は、どんな感じだったかしら?」
「まあ、こんな感じ?」
そうして近づいてきた零華さんに対し、刀身が砕け散った重斬刀を見せつける。
あれだけ頑丈そうだった刀身が――なんて思っていると、当の零華さんは苦笑を浮かべていた。
「あらら、空白期間を取り戻すように、調子が戻って来ているみたいね。まあ普通は起こらない現象だから、今回の選考とは無関係ってことで……ね!」
見事に使い捨てではない手持ち武装を壊してしまったわけだが、当人は満足そうだった。
弁償と言われても困るし、これ以上の言及は避けておこう。
ちなみに俺は、“アンカーアイゼン”、“ダガーダーツ”、“アスカロン”の順でおすすめしたわけだが――。
次の武装採用競技会に持っていくのは、マシンガンの“スケルツォーン”になったそうだ。
理由は近接武装しかない“陽炎”のサブ武装として適しているから。
それと誰でも扱いやすいし、容量的に量産機にも詰め込めそうだから――とのことだ。
あれだけ頑張ったのに――。
とはいえ、少しでも零華さんの役に立ったのなら、十分すぎる結果だと言えるだろう。
働かざる者食うべからず――俺も期待に見合った結果を出さないとだしな。
ちなみにまだ“アイオーン”本体の調整やデータ取りがあるらしく、今日は帰れそうにない。
その上、もう一日休んだら決闘騒ぎが明けて、初めての学園生活が俺を待っている。しかも雪那曰く、少し大きな行事も動いているらしい。
何とも目の回る日々だ。
でも空白ばかりだった予定は、いつの間にかこうして埋まっている。
俺自身、そこまで悪い気分というわけじゃない。
充実した日々ってのも、案外悪くないのかもな。
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