第155話 本来の在り方
「ア、ごめーん、変な方に飛んでっちゃってェ!」
「子供のボール遊びじゃないんだがな」
流れ弾の原因は、これまた巨大なスナイパーライフルを手にした女子生徒。色んな意味で因縁があり、この春からクラスメイトとなった根本京子だった。
ただひらひらと手を振りながら悪びれる様子もない辺り、完全にわざと撃って来たらしい。大方、年度末試験の結果に納得がいっていないのだろう。
まあ、仮にも総本山にいるこっちからしてみれば、井の中の蛙大海を知らず――と、スカッとした結果に終わったが、逆からしたらたまったもんじゃないはず。
というより、腐敗した総本山に不遇な扱いを受けていた実力者が殴り込んで来る――なんて、絶好の勝ちフラグ。誰もが目指せ学園制覇からの成り上がりストーリーを胸に抱いて、例の試験を受けたはずだ。
それが貸出機相手に一対一で完敗。
固有機持ちを一ヵ所に集めたかったが故の措置でAクラスにはなれたものの、連中の野心が打ち砕かれたことは想像に難くない。
挙句、親の威光も役に立たなくなり、鳳城先生にも逆らえなくなってしまった。
言ってしまえば、こんなはずじゃなかった。
多分そういうことなのだろう。同情の余地は微塵もないが。
「スコア無しでもいいレベルのノーコンだな。とても褒められたもんじゃない」
「あァ!? 謝ってんでしょうが!」
「加害者のセリフじゃないし、化けの皮が剥がれるのも早すぎだ」
現に口から突いて出た言葉も悪質極まりないものだった。
恐らく、この間の憂さ晴らし兼、外した一撃を的に当てても風破のスコアを下回るが故の八つ当たりというところだろう。
だがいくら“魔導兵装”を纏っているとしても、無防備なところを襲撃されたのなら怪我は免れない。
「誰にだって不注意はあるんだから仕方ないわよねぇ!?」
不注意を装って相手を蹴落とす。
とんだスクールカーストだな。
何より、雪那にディオネ、萌神やAE校の代表生徒。
最近は同年代の中でも頂点に位置する連中と接していた所為で麻痺していたが、普通の学生はこんなもんだったと悪い意味で思い出させてくれた。
ただそんな行動が許されるのかは別問題であり、現に俺が刃を向けるまでもないらしい。
「そうか、不注意なら仕方ないが……次同じようなミスをした場合、このクラスから出て行ってもらうことになる」
「ハァ!? 誰に物を……」
「担任教師として生徒に注意をした。何か問題があるのか?」
「ひィっ!?」
悲鳴を上げる根元の背後では、白ジャージ姿の鳳城先生が仁王立ち。
その隣では、黒ジャージを身に着けたヴィクトリアさんが頬を引きつらせている。
鳳城先生の威圧感に怯んでいるのか。
AE校と比べてミツルギのレベルの低さに驚愕しているのか。
恐らくは両者だな。
「まだ諸君らには説明していなかったが、今年度からは年度内でもクラスの変動が発生する校則が試行された。その基準は試験の成績であり、日々の立ち振る舞い。つまり相応しくない者は、どんどん下に落ちることになる。這い上がれるのかは、己次第だな」
続く形で紡がれるのは衝撃的な言葉。
当然、増長した根本の心をへし折るだけに留まらず、クラス中に驚愕が波及していくことになる。
「い、いや……いくら何でも厳し過ぎなんじゃ……」
「てか、こんなん横暴だろ。恐怖政治っつーか、独裁……」
「戦場に出る可能性がある以上、相応しい能力を身に着けさせた上で学園から送り出す。それが本来の在り方だ。プライベートな時間は好きにすればいいが、学園拘束中の反論は一切聞かん」
一刀両断。
正論で上から押し潰された以上、ぐうの音も出ないらしい。
しかしこれでは、もうFクラスもAクラスもあったもんじゃない。
言ってしまえば、Fクラスの待遇改善どころか、全体の競争が加速しているわけだからな。
だからこそ、雪那以外が浮かべている、こんなはずじゃなかった――という感情も分からなくはない。
まあ世界がこんなはずじゃない理不尽で構成されている以上、一歩速く現実を思い知らされたとも取れるのかもしれないが。
いや、ここまでやらないと変わらないとでも思われているのかもしれない。
何とも情けない限りだな。
「では次の授業は、実戦的を想定した模擬戦とする。とはいえ、私も鬼ではない。このまま因縁を持たれてギスギスされても叶わんし、まずはお前たちで決着を付けるといい」
いや鬼だな――というのが素直な感想。
何せ、俺と根本で模擬戦をやってみろと言っているのだから。
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