第150話 春が来る
工場潜入から一週間――。
今は春真っ盛りであり、誰もが新たな年度に期待と不安を巡らせる季節。
だが本来なら盛り上がるべき話題は置き去りにされてしまい、世間では日夜様々な議論が交わされている。
それは天月家のリビングで何気なく点灯しているテレビの中でも同様であり――。
「さて、今度はどんな無茶をしたのだ?」
「何の話……」
「目を逸らすな!」
俺はソファーの隣に腰かけている雪那から睨みを利かされていた。
世間を騒がせている話題については論ずるまでもないだろうが、こうも断言されると胸に来るものがあるな。
いや、ある意味では、信頼されているからこそなのかもしれないが。
まあ施設の保存・解析を神宮寺家に頼った以上、一般人より深い情報を知っているから――という意味合いも含まれているのだろう。
だから“KEINERAGE”の一件について、刺々しく言及されているわけだ。
「それにしても、あの時の変な人たちがこんな状況だったなんて……」
「危険思想に取り憑かれた武装集団。それも一般人が暴徒と化した挙句、魔導使いとの抗争も勃発。中には襲撃された者もいる。国の根幹に関わりかねない一大事であることは間違いないでしょう。その計画が何者かによって、火種の内に阻止されたことは驚嘆に値する大きな一手だが……」
「やっぱりそういうことなのかなぁ?」
雪那とヴィクトリアさんは、二人仲良く頬をくっ付けながら顔を覗き込んでくる。大変麗しい顔で視界を占拠されるが、責められているとあってあまり嬉しい事態じゃない。
とはいえ、施設に踏み込んだことより、俺が一人で行動したことを責めてくる辺り、この二人も大概アグレッシブ過ぎるな。
こうなった原因は、俺にあるのかもしれないが。
「結果良ければってことで、納得しておいてくれ」
「物は言い様だな」
「でも烈火君が無事で、アリアちゃんの家庭問題も一段落。当面の間はアザレア園への支援打ち切りの心配もなくなったんだから、事実と言えば間違いないんだけど……」
今回の一件――。
同情の余地がないとは言わないが、元を辿れば力を持たない弱者の僻みが根幹にあったことは事実。
国防と魔導騎士育成に全精力を割いていたが故の歪みとでも称する事象なのだろう。
しかし、そうしていなければ、今頃皇国そのものが滅んでいたことは想像に難くない。だからこそ、互いに不満を抱き合いながらも、各々の役割を全うしながらの日常生活が続いていたはず。
つまり全ての原因は、外部からそのバランスを引っ掻き回した連中にあるということ。
それに一柳との時と同様、自らが手を下すこともなく、他者を手足のように操るやり方は厄介極まりない。
反吐が出るな、全く――。
ちなみにあの後も色々と調べてはみたが、連中の正体に関する有力な情報は得られなかった。
ただ先日の戦闘中に採取しておいた“首狩り悪魔”の生体情報や施設内部の構造など、使いようによっては武器になり得そうな情報は手に入っている。
後はプロの解析次第だ。
まあなんにせよ、真の意味で倒すべき敵が明確になっただけでも、大きな前進と捉えるべきだろう。
闇に翻弄されるばかりの手探り状態と比べれば、雲泥の差だからな。
「俺たちの周りに関して言えば、とりあえず最良の形で収まった。今はそう思っていればいい。でもいつ狙われてもおかしくない立場にあるわけだし、今後は身の回りに気を付けながら生活をしていくしかないな」
「致し方ない」
「そうだね。いよいよ新しい職場でデビューだし……緊張するなぁ」
主犯である東雲から証言を得ることは叶わない。
よって、被疑者死亡で事態は終幕。
信者たちへの取り調べや洗脳解除に関しては、本職が奮闘中。
風破も本人なりに折り合いをつけたらしく、別の企業から良い契約を貰ったと連絡が来ている。
萌神に関しては特に言うことはない。強いて言うなら、今度飯を奢る約束を取り付けられたぐらいか。
そしてこれからの基本方針としては、引き続きトルドー財閥について調べながら、己自身の力を高めること。
現状としてはこんなところだ。
だが実質的に今の俺たちがすべきなのは、日常生活を謳歌することだけだろう。
世界の裏側全てが連中の手の中にあるというのなら、否が応でも顔を合わせることになるのだから――。
「初日から忘れ物は勘弁してくださいよ」
「大丈夫! 二人にも確認してもらうから!」
「自信満々に胸を揺らしながら言うことがそれですか」
「まあ初年度から担任を持つことはないだろうし、なんとかなるだろう。それより烈火こそ、今年のサボりは許されんぞ。少なくとも、もうFクラスではなくなるのだからな」
日常と非日常を反復横跳びする日々は忙しないが、これこそが俺たちの日常――。
「あんっ!?」
そうして良い話風に一段落しかけた最中、突如室内に巨大魔力反応が出現する。
直後、白銀の髪が目の前を舞い、机の上にはこれまた麗しい美少女が女の子座りで着地していた。
どうやら早速、非日常が自分から降って来たようだ。
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