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第142話 人間ボーリング

「な、何をするんだ!?」

清廉(せいれん)な教徒の割には、随分俗っぽいっと思ってな。いっそ変態教団にでも名前を変えたらどうだ?」


 驚愕と怒り。

 一斉に睨み付けられるが、連中の憤りなんて知ったことじゃない。人を害せる武器を振り回している以上、連中は既に一線を越えている。救われるべき被害者ではなく、自らの厚意でただの犯罪者に成り下がった。


「情報収集は十分ってか? まァ、分かりやすくていいわな!」

「ごぶっ!?」


 一方の萌神もいつもの調子に戻っており、さっきからチラチラと視線を向けて来ていた男性信者を蹴り飛ばしていた。

 行動がグレーなのはこちらも同じだが、俺たちと連中は違う。自分の行為を正義だと正当化するつもりはないし、他者に理解を強要することもない。


「我らの教義に反旗を翻すつもりか!?」

「反旗? 同調出来る部分が皆無過ぎて、入会の前に脱会する意思表示と言ってもらいたいわけだが?」

「俗世から来たばかりで未だ頭の中が切り替わっていないということか!? ならば我らの救済が必要だな!」

「会話がドッジボール過ぎだな」

「彼らに救いを!!」

「救いを!!」

「ちょっとやべーな。頭ン中……」


 警棒、竹刀、木刀にフライパン。

 武器を持った信者に囲まれる。


 意識の天昇と言えば格好は付くが、連中がやろうとしているのは集団リンチ。強制的に相手を従わせる正義なんて、笑い話にもならない。

 どんな理屈や大義名分があろうと、力を振りかざした時点でそれはただの暴力に他ならないのだから。


「きええぇぇぇいいいっ!!!!!!」


 周りの連中が一斉に飛び掛かって来る。

 でもこの集会所は密集地帯であり、重火器の(たぐい)は周りを巻き込んでしまうために使えない。であれば、残りは近接戦闘(クロスレンジ)しかないわけで――。


「……相手が弱すぎるってのも考え物だな」

「二、三人、殺ってもいいんじゃねぇか?」

「不用意に被害者要素を生じさせると、連中の心象が良くなる可能性がある。無関係な人間を巻き込んだ責任は取らせるべきだ」

「ちっ、めんどくせーが、まあそれしかねぇわな!」


 振り下ろされる警棒を掴み取り、相手の腹を蹴り飛ばす。吹き飛んだ先で信者がドミノ倒しになる様は、(さなが)ら人間ボーリング。

 対する萌神も男性信者の喉元に靴底を叩き込み、見事な全ピン倒し(ストライク)を叩き出していた。


 多少訓練を積んでいるようだが、所詮(しょせん)は素人。

 それにこちらは魔導と“魔導兵装(アルミュール)”も残しているわけであり、相手が数十人いてもが何ら脅威にはなっていない。

 むしろ大人数で密集しているが故に身動きが取れず、見事に弱体化しているほどだ。正しく、烏合の衆。


「というわけで、命は保証する。代わりに腕や足の骨ぐらいは覚悟しておいてくれ」

「不浄の(やから)めェっ!!」

「止まって見えるぞ」

「ぐぶううぅぅっ!?!?」


 立ち上がった司祭の顔面に回転足刀蹴りを叩き込む。

 先ほどの以上の勢いで吹き飛ばし、別の信者たちを押し倒しながら豪快なストライクを取っていく。


 やはり火器の類が使えない以上、連中は勝手に近づいて来る。よって、周りの動きを見ながら、近づいてきた相手に対処するだけで大幅に数を減らせてしまうわけだ。

 結果、五〇人近くいたはずの信者を鎮圧するのにかかった時間は、僅か五分半。

 それもこちらが身体強化の魔導以外を使っていない以上、超絶舐めプに他ならない。最早戦いの様相すら呈してすらいなかった。


 だがそうして全員拘束した直後、意識を取り戻したらしい司祭は真っ赤に晴れた顔で怒号を上げている。


「こ、の……!? 我らをどうするつもりなのだ!?」

「当然、警察のおじさんたちと楽しくお話することになるな」

「い、偽りの法で我ら神の使徒を裁けると思うな!」

「同情すべき点が全くないわけじゃないのかもしれないが、お前たちの行為は八つ当たりを正当化しているだけだ。自分が正しいと思うなら、そうやって自分の思うままに主張すればいい。牢屋の中でな」

「まあ正しいと思われたら出て来られるんじゃねぇの? 自称・神の使徒さんよォ」

「う、ぐぅぅうっ!?!?」


 理不尽に晒されるのは、誰だって同じ。

 人生を懸けた熾烈な競争を勝ち抜いてまで軍に入ったのに、一〇代、二〇代で戦死する魔導騎士も多い。同時にそれは、恐怖と責任の中、国民を護るために散る命に他ならない。

 優遇されるということは、それだけの責任と重要性、危険性が生じる裏返しでもあるわけだ。

 土守のように(おご)って他者を見下すことが悪ではあっても、必要な優遇措置は存在している。


 短く鮮烈な人生。

 所謂(いわゆる)、普通の人生。


 どちらが幸せだと感じるのかは当人次第だが、相手が、社会が――と、(わめ)きながら他者を害しているだけのコイツらに正当性が生じるはずがない。

 それは連中も心のどこかでは理解しているのだろう。

 自分は被害者だから――と、都合の悪い事実から目を背け、同じ考えを持つ人間同士で集まって気が大きくなっていたというだけで。


 だが武器の密造・密輸。

 拉致監禁に婦女暴行未遂を始めとした法令違反のオンパレード。


 パッと見でこれだけやらかしている以上、連中は確実に逮捕されるだろう。

 ついでにこの学生たちを保護してもらう手筈(てはず)も整った。

 当然、警察が介入すれば、俺たちが知らない部分まで浮き彫りになるわけで、他の拠点への捜査も始まることだろう。これでこの組織は崩壊へ向かい始めた。


 後は本社を潰すだけだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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