第140話 普通の人々
血走った瞳。
何者かに心酔するような祈りの姿勢。
周りは異様な雰囲気に包まれている。
「さあ、皆さん。今日も世界の平和と秩序の安定について理解を深めて行こうじゃないか。忌むべき間違った人間をどうすれば救えるのか……とね」
周囲の視線が向けられるのは、私服姿で佇む普通の男。
居るだけで吐き気を催す異様な空間ではあるが、これこそがストーキングしてきた連中曰く、“祈りの儀”――とかいう、定例集会らしい。
というわけで、敵を知るためにこうして潜入しているわけだが――。
「ですが、司祭様! 同胞が警察に逮捕されたと聞きました!」
「そうです! 守るべき市民を捕らえるなんて、絶対に許せません! こちらから打って出るべきでは!?」
「魔導使いを歴史から引きずり下ろし、我らだけの新しい国を作る時が来たのではないでしょうか!?」
目の前では暴論というか、とんでもない主義主張が声高に叫ばれている。
作業自動化に伴い、クビを宣告された単純労働の作業者。
魔導兵器の発展で立場を失った自衛官。
“異次元獣”襲来に伴う不景気により、生活が苦しくなった主婦。
同様に不景気で進路が失われた学生やフリーター。
魔導が使えないという一点で、社会から弾かれた者がこうして集っているのだろう。
だがいくら理不尽な目にあったのだとしても、それが他人を害したり、国家反逆を肯定していい理由になるはずがない。
何より、実際に実弾兵器まで持ち出している以上、イキり台詞として聞き流すべきものではないはず。
現にいくら魔力を持っていても、胸や頭に銃弾を受ければ人は死ぬ。魔導騎士だって絶対無敵というわけじゃない。
人海戦術を用いて特攻でもされれば、武器を持った民間人も相応な脅威と化すわけだ。
つまりこいつらは、“普通の人々”という名のテロリスト。
いや連中曰く、魔導のない世界を作るための聖なる戦士というところか。
どうやら普通に通報して、どうにかなる話でもなさそうだ。お役所仕事は結論が出るまでにとんでもない時間がかかるし、事件が起きた上で警察が認識してからでなければ、連中も動けないからな。
それにこの間のように末端を捕まえたとしても、私たちには関係ない――と言い逃れられてしまえば、それで終わりだ。
確かな確証や証拠を得た上で本拠地と教主を潰し、イカれた破滅思想から連中の目を覚まさせる。
それが解決への最善策。
「今はその時期ではない。もう暫し待つのだ。世界の終わりが迫る時、我らが立ち上がれば良いのだからな」
「ですが……」
「勝てる戦いと玉砕は違う。教主様もそうおっしゃられることだろう」
何より、今は人間同士の内輪揉めをしている場合じゃない。
解決に割けるリソースはないし、どっちつかずの状態で“竜騎兵”が襲来でもすれば、国家崩壊は確実的なものとなってしまうことだろう。
しかも“竜騎兵”の襲来を連続で退けているクオン皇国は、世界から一目置かれる拠点となりつつある。
そんな中で皇国が揺らげば、国家どころか世界の戦力バランスが崩れることにもなりかねない。技術や資産を目当てに、経営の苦しい他国から戦争を吹っかけられる可能性も十分にあるのだから。
そうなれば世界規模での内輪揉めが生じてしまい、世界崩壊の刻限が予期せぬ形で早まってしまう。だからこそ、極東の島国の小さな思想――と切り捨てるわけにはいかない。
「皆は今まで通り、穏やかで至高の日々を送ってくれ。来るべき、その時まで……」
それに末端はともかく、上役たちは普通に戦っても勝てないことを理解しているらしい。となれば、正面から向かってこないのが道理だ。
人質や無差別テロ。
もし周りの連中が巻き込まれたら――と考えれば、早急に処理する必要がある。
「あぁ、新人の方ですね? 同士が増えて嬉しい限りです! ではこちらの用紙に……」
故に連中への対処。
その決意を新たにしたわけだが――。
「ええ、ありがとうございます」
どうして萌神まで一緒についてきてしまったのやら。
しかも潜入用のキャラ作りなのか、最早別人レベルでお淑やかな女の子らしく笑っている。
偽名を名乗って向こうの男の質問に答える傍ら、お互いに居た堪れない気分になったことは言うまでもない。
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