第139話 突入前
ある日の朝。
珍しい来客が天月家のソファーに腰掛けている。
「……って、わけなんだけど」
そんな風破から説明されたのは、とある企業とのテスター契約について。
給料・保険・機体の占有性。
規約的な問題で具体的な数値は伏せられているが、頭一つ抜けている優良な契約を提示されたらしい。
ただ一つ問題なのは、相手の社名が“KEINERAGE”だったということだ。
「ふむ、良い話には裏があると言いたくはないが……」
「あんな風に絡まれた後だと疑っちゃうよね。タイミング良すぎだし……」
雪那やヴィクトリアさんが言う通り、この件については少々話が出来過ぎている。本来なら喜んで然るべきではあるが、流石に疑ってかかるべきだろう。
そういう意味では一人で判断して契約に飛び付かなかったのは、大正解の行動だったはずだ。
打診を受けるかどうかはともかく、風破に接触してきたという事実を見逃さずに済んだのだから――。
「最後に選ぶのは風破自身だが……少なくとも、この会社は止めておいた方がいいだろうな。たかが学生一人に明らかに異常な執着だ」
「そう、だよね。いくら家族だったからって、まるで手元に置きたいみたいに……」
とはいえ、情報量的には、俺たちも大差ないというのが正直なところだった。
いや俺だけは、少しばかり話が違うか。
だが反魔導至上主義を是とする過激派集団に関係していながら、一度捨てた娘に対してここまで執着する必要があるのだろうか。
それも風破の魔導適性は、平均を大きく上回っている。劣等感の塊のような連中と肩を並べるなんて出来るはずがない。
愛情があるなら娘を捨てるはずもないし、風破一人を仲間にしたところで社会と戦うにはあまりに無力だ。
よって、将来性を――ということも考え辛い。
まあ何にせよ、あの一般人から聞き出した“集会”とやらに参加すれば、大体の事情が分かるはずだ。
そして組織の規模と目的さえ明確になれば、この状況を一気に動かせる。
状況次第では風破の実父と敵対する可能性も多分にあるが、連中が決起前の過激派武装集団であることは事実。真っ当な相手じゃないのだから、何らかの対処はすべきだろう。
少々強引なやり方にもなりかねないが、とにかく勝負は三日後だな。
「鳳城先生は?」
「初めて聞く企業だし、条件が良くても慎重になって考えるべきだって」
「そうか、正しい判断だ。それに新しいパイプ作りのために契約を強行されなかったわけだし、教頭一派が消えたことは不幸中の幸いだったな」
「うへぇ……じゃあ変なのに目を付けられたけど、最悪じゃないから元気出せってこと?」
「まあ打診を断れば、とりあえず合法的に接触されずには済む。今は自分の将来だけ考えておけ」
風破はもう十分苦しんだ。
努力して結果を出して、みんなに認められている。
だから後は子供たちと笑っていればいい。
裏に関わる事態と化した以上、この事態は適任者が処理する。
戦う力でしかない俺の魔導でも、それぐらいのことは出来るはずだ。
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