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第138話 未来と執着【side:風破アリア】

 ◆ ◇ ◆



 ミツルギ学園・応接室――。



 風破アリアは最早感触に慣れてしまった高級ソファーに腰かけ、固まった体を(ほぐ)すように大きく伸びをした。


 普段の素行。

 学園対抗戦と襲撃に際した非常時への対処。

 年度末試験。


 結果的に評価を爆上げしたアリアは、今日も企業と面談のために学園に来ている。今は二社目との打ち合わせまでの時間を潰している真っ最中であった。

 しかし、これは将来を左右しかねない面談。

 大人ですら疲れる打合せのだから、学生であるアリアは更に緊張して然るべき。ソファーの感触とは違い、こればかりは未だ慣れていないようだ。


「随分と人気者だな」


 一方、担任の唯架は、ぐでーっと背もたれに体重を預けるアリアに対して揶揄(からか)うように苦笑する。

 同時にそれは、アリアへの釘刺しでもあった。


「あはは……まあ嬉しい悲鳴ではあるんですけどね。ただ企業によって差が凄いというか……雑誌のモデルはともかく、グラビアなんて……」

「教員としてはこんなことを言いたくないが、この時点のテスターに期待されているのは将来性という面が大きい。肌を晒してアイドルをやるような会社はお(すす)めしないが、自分が企業の広告塔になるという自覚は持っておいた方いい」

「それは……」

「特に昨今は、外野から己の過去や一挙手一投足で挙げ足を取られることも多い。便利な時代も考え物だが、適応していかねばな」


 コネ無しでのテスター大抜擢(だいばってき)稀少(きしょう)な事態である反面、生じるのはメリットばかりではない。

 特に具体的なものとしては、マスメディア・SNS等のネットニュースによる晒し上げ。そうした有名税を大義名分とした私刑が横行している以上、顔が売れるということは相応の危険性(デメリット)を抱えるも同じであるわけだ。

 現にアリアが有名になった結果、アザレア園の買収騒動が起こっているのだから。

 (もっと)も裏事情を知らぬアリアからすれば、相手が信頼に足るのであれば延命になるかも――と、複雑な状況ではあるのだが。


「こちらでも精査するとはいえ、“絶対”はあり得ない。かといって、大手からすれば学生の一人や二人、使い潰しても代わりが効く。待つにせよ、選ぶにせよ、契約書はしっかり読んだ方が良い。自分の納得できる未来を紡ぎたいのなら」


 ともかく在学中に内定ゲット。

 ここからテスターライフで一生安泰(あんたい)――と浮足立たぬように、先達である唯架からの受け売りだった。

 実際、唯架自身も様々な事情から潰れた魔導騎士を知っている上に、その原因は才能や挫折という当人の問題だけに当てはまらない。


 誹謗中傷。

 契約上でのトラブル。

 整備不良や過密日程による心身の負傷。

 若気の至り故の暴走。


 プライベートを含めた自分の立ち回りに責任を求められることは勿論、相手企業の選び方が全てを左右すると言っても過言ではない。

 言うなれば、ブラック企業とホワイト企業を見分け、夢を見過ぎずに自分の中での折衷(せっちゅう)案を決めておけ――ということだ。

 世界に弾き出された者がいれば、選ぶ者になったからこその落とし穴もある。

 唯架はかつての(・・・・)愛機(・・)を思い起こすように、スーツ越しに手首を(さす)った。


 だがその直後、突如応接室の扉が開け放たれる。

 まだ時間があるはずなのに――と、背後を振り向く二人ではあったが、次の瞬間には二つの驚愕に苛まれることになった。


「貴方は……?」

「あぁ、すみません! 飛び込みで来たものですから、応接室はここで良かったですよね?」


 一つは単純に訪問予定のない企業が学園内に入って来たことによる驚愕。

 二つ目は、怪訝(けげん)そうな唯架の問いかけに応える男の出で立ちが、アリアにとって今一番会いたくない人物と完全一致していたこと。


「う、そ……っ」


 恰幅(かっぷく)の良い体形をしたスーツ姿のナイスミドル。

 派手なネクタイを纏めるのは、似合っていない花の十字架。


 それは正しく、昨日接触して来た実の父親。

 東雲遼琉(しののめとおる)に他ならないのだから――。



 ◆ ◇ ◆

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