第134話 社会から弾かれた者たち
「ふん、名門ミツルギが聞いて呆れるな! これだから魔導しか取り柄のない人間は……」
短く切り揃えられ、整髪料の類も付いていない清潔感溢れる髪形。
縁のない丸眼鏡に中肉中背より少し痩せた身体付き。
これぞ優等生という感じではあるが、出会い頭から凄いディスられ方だな。
まあ今更こんな奴に凄まれたところで、そよ風も同然。とりあえずは気にしないでおこう。
それよりどんなに記憶を探っても、コイツの姿に心当たりがないことの方が問題だからな。
とはいえ、スルーしていても引く様子はなさそうだし、少しおちょくってみるか。
「一人で盛り上がってるところ悪いが、お前は誰で何の用だ? いや、それ以前に休日の過ごし方を他人に指図される謂れはないんだが?」
「空っぽの頭で戦うだけの君たちは楽でいいという話さ! 全く、どうしてこんな連中に世界の命運が託されているのだろうか!? 本当に理解に苦しむよ!」
見るからにインテリっぽい割には、随分とやかましい奴だ。それと前後が無さ過ぎて話も下手。
不良美女なのに、テーブルマナーが完璧だった萌神とは真逆にすら感じられるほどだ。
しかし感情的になってくれたおかげで、この優等生君は自分からいくつかの情報をばら撒いていた。
それは奴がミツルギの学生ではないこと。
同時に俺がミツルギの生徒だと確信を持って接触して来ていること。
まだ確証の域は出ないとはいえ、口ぶりからしてそう考えるのが自然だろう。
実際、奴が俺に対して虚勢を張る理由がないしな。それに態度からして、萌神の知り合いではないことも確定。
つまり奴が憤って絡んで来たのは、“俺たち”――ではなく、“魔導”や“魔導至上主義”に対して。
実際には、奴自身の高くない魔導適性や社会全体に対しての憤りをぶつけてきているわけだ。
現に奴の魔力は、感知が大変なレベルで微弱極まりない。もし魔導適性の所為で無碍に扱われているのだとすれば、世界の中心足る魔導騎士は全て敵にでも見ていることだろう。
まあ完全に八つ当たりではあるが。
しかし俺たちが、そんなに頭が緩そうなカップルにでも見えてたのか、コイツは――。
「じゃあ変わるか?」
「はぁッ!?」
「俺は周りの連中が平穏無事に過ごせるなら、それでいい。結果が同じなら誰が戦おうが変わらないし、やる気のあるやつが戦ってくれ」
「ば、馬鹿にしているのか!? お前は自分の立場を分かっていない! それは破れた夢を踏みにじる行為だ!」
まあこうなるわな――と、想像通りの答えが返って来る。
実際問題、皇国内の学生というカテゴリに限定すれば、競争社会の頂点に位置するのがミツルギ学園であることは事実。
よって、学園外に出てしまえば、他校生から良く思われないことも多々ある。実際、名門なのに休日は私服着用が推奨すらされているほどだ。
理由は芸能人や進学校出身者が犯罪や失敗をやらかした時、みんなに挙って叩かれる様な自体から逃れるためだろう。
学校と社会は違う。
お勉強だけ出来ても意味がない――と、金持ちやエリートになれなかった一般人が自己を肯定するための醜い罵詈雑言から。
しかも今は皇国内の優秀生徒を競わせるサバイバルが行われた直後だ。とても普通の教育機関ではあり得ない行事に対して、ヘイトが集まっていることは自明の理。
何せ参加する者たちからすれば、夢と不安の二律背反で手に汗握る一大イベントである一方、その特別な舞台に立てない同年代からすれば、これ以上悔しい見世物はないはず。
言ってしまえば、同じ学生なのに蚊帳の外。
それどころか自分の学園がミツルギの二軍、三軍の受け皿扱いをされているも同然。上昇志向の奴には、これ以上ない屈辱なのだろう。
だが――。
「一理なくはないが、俺には関係ない。自己満足の説教なら余所でやってくれ」
「ふ、ふざけるな! どうしてこんな奴が……!」
言っていること自体は理解できるが、受験で落ちた奴のために学園に通う――なんて、神経で生活する人間が一体何人いるのやら。
少なくとも、俺は顔も名前も知らない同年代のために心を痛めるほど、聖人君主じゃない。
戦闘の最中だとか、思いを託されたとかなら話は別だが、他の連中だって身の丈と実力に合った生活を送っている。というより、それを判別するための試験であるはず。
みんなで手を繋いで一等賞。そんな理想論は絶対に成立しないのだから――。
「意識が高いのは自由だが、それを他人に押し付けるな。周りを変えたいなら、実力を示すしかない。特に今の社会なら……」
「だから社会が間違っていると……」
「ちょっ、遊馬君!? 一体何をしているの!?」
しかし大体の事情が分かってきた最中、また騒がしい連中が姿を見せた。
肩口で切り揃えられた単発に眼鏡。真面目そうな印象を受ける少女。
小太りとまではいかないが、恰幅が広くて鈍くさそうな男子。
空色の髪をアシンメトリーに伸ばした少女。
優等生君の時と同様に見覚えは無いが、全員揃ってこちらを睨み付けてきている。何にせよ、優等生君の知り合いということだけは確かだろう。
いや同志とでも称するべきなのかもしれない。
さて次に確かめるのは、意識高い系の部活やサークルなのかどうか。
これ以上ヒートアップされても面倒だし、泳がせてみるのが最善。
本当に殴って解決できるなら、それが最短なんだが――。
「いい加減、ウゼェな。さっさと失せてくんねぇか?」
そんなことを考えている最中、ここまで静観を貫いていた萌神がガンを飛ばす。
どうやら、大体の推測と分析が終わったらしい。
「なんて汚い言葉だ!? 育ちが知れるな!」
「あァっ!? なんか言ったかァ!?」
「ひ、っ……!?」
直後、連中は震え上がり、脱兎の如く逃げて去ってしまう。
戦闘中と比べれば眉をひそめた程度の威圧感ではあるが、それでも連中にとっては耐え難いものだったらしい。
まあ雰囲気も体付きも素人丸出しだったし、致し方ないのかもしれない。
「成果は?」
「上々ってところだ。それにしても、また随分とキナ臭い案件に首を突っ込んだもんだな。テメェは……いや、今回はアタシにも心当たりがあるかもなァ。あぁ、めんどくせェ……」
萌神は不機嫌そうな表情で小さくピース。
どうやら反論せず、話を引き延ばした甲斐があったようだ。
さっきまで絡んできていた学生連中。
“KEINERAGE”の追手。
その全員が同じ装飾のアクセサリー身に着けていたことについての因果関係。
まずはそこからだな。
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