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第13話 白騎士の力【side:第二研究所】

 ◆ ◇ ◆



 烈火と陸夜の戦いは終わった。

 しかし勝者に対する称賛(しょうさん)はなく、誰もが茫然(ぼうぜん)と視線を送っている。


「……ぁ」


 彼らからすれば、Fクラスの生徒など、自分たちですら絶対に負けることがない存在だった。

 だから、烈火が陸夜にボコボコにされる光景を期待し、単純な興味とストレス解消(かいしょう)がてら、こうして観戦していたわけだ。


 しかし結果を見れば、最強エリートである陸夜の一方的過ぎる惨敗(ざんぱい)

 故にこの結果を受け止めきれていない。


 しかし驚きを見せない者も三名・・ほど存在していた。


 一人は、神宮寺雪那。

 残りは、第二研究所から決闘という名の模擬戦を観戦していた、サラ・キサラギと揚羽零華の二人だった。


「……当然の結果ね」

「ええ、天月君は、基礎が他よりも固まっているだけの一年がどうにかできる相手ではない。たとえ天月君の“魔導兵装(アルミュール)”が“陽炎”だったとしても、勝敗自体は変わらなかったはずです」

「あら、運動音痴(うんどうおんち)なのに、ちゃんと見てるのね」

「それとこれとは話が別ですから……!」


 今も模擬戦を終えた烈火を映し続ける隣のモニターには、一週間ほど前に彼が行った戦闘シミュレーターの映像が再生されていた。





 ――一週間前。


 無機質な訓練室が市街地(しがいち)に変わる。

 だがその瞬間、“アイオーン”を起動した烈火の背後からは、既に(・・)灼熱の火球が迫っていた。


 舞台暗転直後に背後からの不意打ち。

 初見殺し――というレベルではない。


 そう、この最高難易度のシミュレーターは、始めからクリアされることを想定すらされていないのだ。

 当然、サラはこんなものを学生にさせるなんて――と、零華の正気を疑っていたが、そんな思考はすぐさま吹き飛んでしまうことになる。



 剣戟(けんげき)(はし)り、火球が()ぜる。


 不意打ちの灼熱を斬り裂いたのは、紛れもなく烈火。

 尋常(じんじょう)ではない反応速度だ。


 更にその直後、烈火の姿が()き消え、火球を放った飛竜――“メイレムワイバーン”へと迫る。


 迎撃、急制動から高速機動に移行して即強襲。

 これら全てが流麗(りゅうれい)な一連の動作。


 その様は正しく、天空を駆ける白騎士。


 そして烈火は白い疾風と化して飛竜に肉薄(にくはく)し、“白亜の剣(アーク・エクリプス)”を一閃。

 相手に反応させる間もなく、赤褐色(せきかっしょく)の首を断ち斬る。


 しかし烈火は、下級竜種(ワイバーン)を仕留めたにもかかわらず、表情一つ変えていない。

 それどころか飛竜が命を散らすよりも早く、既に次の高速機動に入っている。

 目指す先は、別の(・・)脅威。


 最高難易度に設定されているだけあって、相手は不意打ちをしてきた飛竜だけではない。

 現に烈火が向かう先には、同種の飛竜に加えて両腕に巨大な(かま)を持つ甲虫種――“レギオンマンティス”の混成部隊が空を(おお)い尽くすように展開している。


 しかもその最奥には、藍色(あいいろ)の巨大竜種が(ひか)えていた。

 “サベージタウロス”とですら比較にならない威圧感を放つ怪物が――。


 だが烈火が(おく)することはない。

 閃光の(ごと)(はや)さで、天空(そら)()けていく。


 当然、“異次元獣(ディメンズビースト)”たちも黙ってはいない。

 飛竜は火球を放って迎撃、奥ではマンティスが両腕の(かま)を振り上げて待ち構える。


 一方の烈火は、速度を落とさぬまま連続回避。

 更に武装を“白亜の剣(アーク・エクリプス)”から“白亜の拳銃(アーク・ミラージュ)”へと換装(かんそう)し、蒼い魔力弾を撃ち放つ。


 直後、魔力弾が蒼の軌跡だけを残して寸分の狂いもなく、飛竜やマンティスを次々と撃墜(げきつい)していく。


 剣から銃へ、銃から剣へ――といった風に“魔導兵装(アルミュール)”の武器は、術者の意志で任意に入れ替えや形態移行ができる。


 例えば今回は使っている(ひま)がなかったが、土守陸夜の“オーファン”なら細剣(レイピア)から“魔導杖(ロッド)”への形態移行が可能だ。

 逆に“陽炎”の場合は武装の数が少なく、頑丈(がんじょう)な刀一本で戦うことになる。


 このように武装の形態や性能は、機体によって千差万別であり、状況に応じた武器の使い分けも魔導戦闘における重要な要因(ファクター)となるわけだ。

 当然、武装やギミックが増えれば扱いも難しくなり、多くのテスターを殺しかけたほどの“アイオーン”がどちらに該当(がいとう)するのかについては、議論の余地もないだろう。

 まだ真の姿を見せていないというだけで――。


 しかし当の烈火は、尋常ではない機体出力(パワー)を持つ“アイオーン”を手足のように(あやつ)り、一刀一銃の構えを取る。

 そのまま蒼穹の魔力を(まと)った白刃でマンティスの胴体を斬り裂き、正確無比な魔力弾で飛竜の翼を撃ち抜いていく。


 サラは天空を舞う白騎士の戦いを目の当たりにして、全身に電流が(はし)ったような感覚を覚えていた。


 (きら)めく純白の刃。

 猛々(たけだけ)しくもどこか(はかな)蒼穹(そうきゅう)の極光。


 圧倒された。感嘆(かんたん)を抱いた。

 そして彼に見惚れていた。


 だがそんなサラを置き去りにするかのように“蒼穹の斬撃(エクシードフィアーズ)”が肉の壁を()ぎ、残骸(ざんがい)と化した飛竜とマンティスを地に()ちていく。

 圧倒――という言葉が、これほど相応(ふさわ)しい状況もない。


 とうとう残す敵は一体。

 烈火は藍色(あいいろ)の巨大竜――“フェルズメイ”と向かい合う。


 多種多様な“異次元獣(ディメンズビースト)”の中でも高位とされている存在――巨大竜種。

 そんな災害クラスの相手に対して、学生一人が戦いを挑むなど笑い話にもならないだろう。

 だが烈火の瞳に恐怖はなく、鋭く冷たい眼光が目前の竜を(とら)えていた。


 竜が()える。

 対する白騎士は、一刀一銃の構えを保ったまま応戦する。


 瞬間、両者が空を翔け、戦いが激しさを増していく。

 しかし烈火が竜種と戦っている最中、戦闘シミュレーターが強制終了された。


 これこそ、一週間前に烈火が“アイオーン”を使った際の戦闘記録。


 ちなみに終了操作をしたのは、満足そうな表情を浮かべている零華だった。

 とりあえず初期稼働データとしては十分過ぎるとのことではあったが、変なところで冷静というか、常識人――と、サラが呆れてしまったのは完全な余談だろう。





「はっきり言って、天月君の戦闘能力は異常です。その一方……」

「あっちのお坊ちゃんは、“レギオンマンティス”と同程度……。それも一対一の状況に限定すれば……といったところでしょうね」

「ええ、そもそも強さの次元(・・・・・)が違うのですから、勝負にすらなっていません。土守君には(こく)な話ですが……って、本当なら逆では? というか、どうして彼がFクラスにいるのですか?」


 零華は肩を(すく)める。


「“アイオーン”の機体性能をフルに発揮できる魔導騎士は、騎士団の中でも一握(ひとにぎ)りいるかいないか……。そういうレベルであって、少なくとも学生が扱える代物(しろもの)ではありません。それなのに……」


 “アイオーン”。

 それは稀代の天才科学者である零華によって生み出され、半ば採算(さいさん)度外視(どがいし)してハイスペックのみを追求した試作機。


 (ゆえ)に並の魔導騎士では、途轍(とてつ)もない機体出力に振り回されてしまうことになる。

 それどころか膨大(ぼうだい)な機体出力の代償(だいしょう)は、術者の激しい魔力消費という形で現れ、更に使用者を(せば)める惨状(さんじょう)となっているほどだった。


 飛び抜けて高性能な“魔導兵装(アルミュール)”でありながら、誰の手にも渡っていないのは、こういう理由からだ。


「しかも、あのシミュレーターにおける機体稼働率(かどうりつ)は、九七パーセント。当日にマニュアルを流し見してのぶっつけ本番で、“アイオーン”の性能を九割以上引き出したということです。もう凄いを通り越して何というか……」


 だが逆を言えば、通常機動で“陽炎”を危険な領域になるまで破損させてしまった烈火だからこそ、“アイオーン”が相応(ふさわ)しい機体だということを示しているのかもしれない。

 少なくとも、シミュレーターの結果が全てを物語っている。

 サラは最初から勝敗が決まっていた陸夜との決闘より、烈火自身のことについての興味と驚愕が尽きないようだ。


「当然ね。だってウチの子だもの。それに“アイオーン”もまだ調整不足で、基本武装だけしか搭載(とうさい)してないわ。これからは烈火自身の慣れもあるし、まだまだこんなもんじゃないわよ」


 一方の零華は、満足そうに微笑んでいる。

 そんな零華が見つめるモニターには、ピットに戻る烈火と彼を迎える雪那の姿が映し出されていた。

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