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第121話 凌駕する弾丸【side:風破アリア】

「もっと大物を狙いたいけど……まあアンタから、ぶちのめしてやる!」

「相変わらずだね。貴方の家がどれだけお金持ちなのかは知らないし、興味もないけど……ちょっと言い過ぎじゃない?」


 生徒たちが思い思いの相手と戦いを繰り広げる中、最高高度で空を舞うのは、風破アリアと根本京子。

 事実上の一騎打ちと化す中、魔力弾を激しく撃ち合っている。


「はっ! 貧民層なんて、何を言われたってしょうがないでしょ!? だって守られるだけの食い扶持(ぶち)泥棒なんて生きてるだけで罪なんだから……!」


 京子の火砲が火を噴く。

 (だいだい)色の魔力弾が次々に放たれ、アリアを強襲する。


「そういう人がいるのは事実だけど……守らないといけない人たちもいるでしょう!? そんな風に(しいた)げてたら、誰もいなくなっちゃうよッ!」


 一方、アリアの火砲は翡翠の光を放ち、直撃コースの魔力弾のみを撃ち落とした。

 だが見事攻撃に対処されても京子の勢いは収まらない。

 二人は二色の魔力弾を飛び交わせながら、激しい空中戦(ドッグファイト)を繰り広げていく。


「はあああっっ!!!!」


 京子はライフルの大口径・大出力をフルに活用しながら、マシンガンの如き速さで魔力弾を放つ。

 対するアリアは一撃の質に重きを置き、静謐(せいひつ)に必要な弾だけを撃ち放っている。


 動と静。

 同じタイプのスナイパーライフルを用いていながら、両者の戦闘スタイルには明確な違いが生じていた。

 だが精密射撃以外の能力としては、機体スペックが影響してか京子が頭半分ほど上回っている。

 故に尻を追われるアリアと、追い立てる京子――という戦況から変わらぬまま、少しずつ後者優勢で戦いが進んでいた。


「オラオラッ! 逃げるだけってか!? 腰抜け! 貧民層!」

「く……っ!? 好き勝手言ってくれちゃって……!」


 学年三位のアリアが押されている通り、根本京子の実力が一年の上澄みに位置することに関しては議論の余地もないだろう。

 どう考えてもAクラスは確実。とても受験落ちするような体たらくではない。


 だがその反面、彼女はこうして地方の二軍校から名門へと這い上がろうとしている。

 こうなってしまった理由は至極単純であり、全ては受験当日の面接で教師相手に金持ちマウントを取ってしまったことにあった。

 つまり、貧民層に審査されるなんて何事――と、臆面(おくめん)もなく言ってしまう問題児であると判断され、不合格という形で学園からお断りされたわけだ。

 いくら実技試験で上位に食い込んでいたのだとしても――。


「こんな雑魚が我が物顔でのさばってる時点で、この学園が低レベルなのは確定! 絶対、アタシがナンバーワンなんだから……!」


 しかし、狭い価値観の中、魔導至上主義の悪い部分だけに影響を受けたイマドキ女子は、更にパワーアップしてこの地へと帰還した。

 それもここで結果を出せば、確実に学園入学が認められるという状況。

 故に残留確実であろう烈火や雪那のように、自分も圧倒的な力を見せてやると意気込んでいる。


「ほらほらっ! 雑魚に構ってる暇なんてないのよ!」


 ――“ガルフバレット”。

 銃身より放たれるのは、中級の入門と称するべき魔導であり、一年のカリキュラムを逸脱した術式。


 (だいだい)の弾丸は、疾風のようにアリアを攻め立てていく。

 視界を埋め尽くす光を前に回避は不可能。紛れもなく、勝負を決めるべく放たれた一撃だった。


 対処法は――。


「そうだね。初めて意見が合った」

「ああァ!?」

「私も貴方みたいな雑魚(・・)に構ってる暇はないんだよ! 自分が世界の中心みたいな顔しないで!!」


 ――“リプスバレット”。

 それは上級への入門と称するべき魔導術式。

 これまでアリアが主に使って来た、そして京子が切り札としている“ガルフバレット”の上位互換。

 そして銃身から翡翠の弾丸を連打し、一点集結。

 橙の弾幕を貫き、背後のアリーナシールドへと着弾する。


「ぐ……こんなっ!?」


 京子の顔が怒りと驚愕に染まる。


 自分は固有(ワンオフ)機。

 あちらは貸出機。

 本来なら圧倒して勝つのが、当然の対戦カード(マッチアップ)であるはず。


 加えて今の京子は、見下していた相手からの攻撃を必死に避けてしまった。

 その事実が腹立たしくてたまらないのだ。

 しかし戦況と直接関係のないプライドの自己主張は、時に致命的な隙を晒してしまうことにも繋がりかねない。


「これで……っ!」


 現に戦闘装束の所々に焦げ跡を作りながらも、アリアが突貫。

 爆炎の中を突っ切りながら京子へと迫っているのだから。


「そんな必死な顔して……まぢでムカつくんですけどォ!」


 直後、互いに銃身を向け合い、最後の一撃を放つが――。


「は、へっ……!?」


 “ミュンツァーⅣ”の銃身から放たれたのは、弱々しい魔力光。

 消えかけの花火。

 いや、火花だけが散るガスライターとでも称するべき、光の破片だった。


 魔力切れ。

 しかし京子がその事実を認識する間もなく翡翠の弾丸が命中し、半壊したスナイパーライフルが手の中から吹き飛んでいく。


「が、ぐ、ァぁぁああッ!?!?」


 全てはアリアの計算の上。

 勝敗を分けたのは、戦闘経験値の差。


「そりゃ、あれだけバカスカ撃ってれば、そうなるよね! まあ、ならなそうな人も知ってるけど……私たちが出来ないのを分かってて真似しても意味ないよ!」


 曲がりなりにも、アリアは烈火や雪那の戦いを何度も見て来た。

 第二研究所での訓練も経験として蓄積されつつある。


 故に授業や訓練でしか魔導の力を振るったことのない京子とは、絶対的な違いが生じていた。

 それは試験に合格するのではなく、戦いの中で生き残ることを主眼に置いた考え方。


 確かに機体スペックに差がある以上、京子が有利なのは自明の理。

 その反面、術者の技量に大きな差がないのであれば、機体スペックを凌駕する戦略を打ち出すことは可能だ。

 そんな中でアリアが選択したのは、他の生徒との戦いのために余力を残すべく、最小限の消耗で最大の戦果を挙げるための一手。

 京子に魔力切れを引き起こさせ、確実に撃墜するという一手を――。

 だからこそ、彼女らしからぬ言葉で直情型と思われる京子を煽っていたわけだ。


「ひ、ぅ!? だ、だったら……!」


 一方、主兵装を失い、飛行魔導の維持すら出来なくなった京子は、恐怖に駆られながら高度を落としていく。

 だがプライドだけは一人前であるのか、もたもたとした動きで実体ナイフを取り出しながら健気な抵抗を測るが――。


「こんなライフルを持ってて、無策で近づくわけないでしょ!?」

「な……が、ぎぃいいっっ!?!?」


 “濃霧の長銃(ミスト・クローフィー)”の銃身付近のパーツが開き、八つの光が飛翔する。

 それは術者の魔力を糧に射出される内蔵型小型ミサイル。


「ぐごォォっ!? ほごぉっ!? ぐひいぃぃいっ!?」


 通常の魔力弾と比べて(いちじる)しく射程が劣る一方、炸裂からの破壊力は抜群であり、京子の身体は爆裂の度に空中を跳ね回る。

 それは宛ら、壊れた玩具(おもちゃ)の様――。


「ふ、ァ……っ!?」


 程なくして爆裂が止めば、京子はアリーナの突起に戦闘装束のスカートを引っ掛ける形で宙ぶらりん。

 何と、貸出機を用いたアリアを相手に一対一(タイマン)戦闘で完全敗北を喫することになった。

 見事過ぎるジャイアントキリングとあって、アリーナ中が感嘆の声に包まれたことは言うまでもない。


「ふぅ……」


 “濃霧の長銃(ミスト・クローフィー)”。

 零華が(たわむ)れで作り、高速戦闘を好む烈火からの優先順位も低く、第二研究所の倉庫で眠っていた兵装。

 だが長射程の獲得と火力不足解消――という形で、アリアとの相性は抜群だった。故に見事な戦果を挙げるに至ったわけだ。


 更にその後のアリアは、Aクラスを一人、Cクラスを二人、Dクラスを三人、他校生一人を撃墜。

 最後は他校の固有(ワンオフ)機持ちを追い詰めながら、惜しくもリタイアとなった。


 だがその戦果は大金星と言って差し支えない。

 何せ三分の一近くの生徒を一人で撃墜しているのだから――。


 試験を終えてピットに戻ったアリアに対し、悔しさと称賛の入り混じった大量の眼差しが突き刺さったことは説明の必要すらないだろう。


 こうして第三試合は終幕を迎えることとなった。

 続く試合は――。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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