第12話 白騎士煌臨
俺が飛び出した瞬間、決闘会場であるアリーナが静寂に包まれる。
“陽炎”か“テンペスタ・ルーチェ”を使うはずの人間が、固有機を纏っているのだから、無理もないのだろうが。
「……君のそれは、一体どういうことだ?」
実際、土守もピットから飛び立った俺を見て、驚愕を隠しきれないでいるようだ。
白を基調としたロングコートを思わせる戦闘装束。
黒い手袋に包まれた手には、主兵装である長剣が収まっている。
それが俺の今の風貌であり、零華さんデザインとあって一般量産機の戦闘装束よりも洗練されていることは確かだろう。
俺がFクラスであることを考えれば、分不相応――馬子にも衣装ってヤツかもな。
「色々あって、この機体は俺が使うことになった。何か問題があるか?」
「Fクラスのお前が、“固有魔導兵装”だと……ォ!? 余程バカな企業が君に玩具を渡したようだな!? 不愉快極まりない!! 恥を知れ! 恥を!」
一方の土守はブチ切れ状態。
まあ、あれだけ馬鹿にしていた問題児が、自身と同じ“固有魔導兵装”を起動して、目の前に立っているんだ。
無駄に高いプライドが傷ついたと思い込んで、キレているのだろう。
とはいえ、凄まじいマシンガントークだ。
疲れないのか、それ――と思っていると、意図しない形で試合開始のアラームが鳴り響く。
「まあいい、今は見逃してやろう! 僕は全ての障害を破壊する。土守陸夜と“オーファン”が奏でる魔弾の輪舞で――ッ!!」
すると、奴は開始の合図と共に細剣を振り回し、五つの魔力弾を撃ち放った。
――“マジックバレット”。
魔導騎士にとっては基本中の基本と言える魔導術式であり、効果も生成した魔力弾を射出するというシンプルなものだ。
一方、誰もが使える基本ということもあり、ある意味では技量の差が最も出る術式ともされていた。
「一度に五発か……」
平均的な高等部一年のレベルでは一度に三発も生成すれば、良く出来ましたと通知表に丸が付く。
だが土守は一度に五発もの生成を行っている上に、術式起動の速度や魔力弾の威力も他の生徒を大きく上回っている。
僕様とやらも、口だけではないらしい。
ただ数が多かろうと直線的な弾道でしかないのだから、避けるのは容易い。
しかし当の奴は、当たらないことも計算通りとばかりに口元を吊り上げていた。
「僕の魔弾から逃げきれると思うなよ!!」
いきなり直進していた魔力弾が方向転換し、回避した俺に目掛けて再び迫り来る。
確かに“マジックバレット”は、術者の意志で弾道に変化を加えられはする。
とはいえ、こちらも変化の度合いや弾数が術者の技能に依存する以上、高い精度で五発の魔力弾を操る技能自体は大したものだと言わざるを得ない。
脅威になるのかとは、別問題だが――。
「これが僕の魔弾! 磨き上げたフォーメーションさ! 君風情が味わえるだけでも光栄と思いたまえ!! “マジックバレット”、乱れ撃ち!」
小刻みに動き回る魔弾は、あくまで陽動。
相手に隙を作り出し、細剣による斬撃魔導を命中させる。
恐らく、それが奴の必勝パターン。
故にオーケストラの指揮者の如く細剣を振り回し、思うままに相手を追い詰めていく。
奴の立ち振る舞いを象徴する、高飛車な戦闘手段だ。
だが所詮は――。
「底が知れたな」
「なっ――!?」
俺が剣を振り抜けば、全ての魔力弾が消え去る。
多分、誰もが目の間の状況を理解できないでいるのだろう。土守を含め、みんなが大口を開けてこっちを見ているようだ。
「僕の魔弾がっ!? お前、何をしたッ!!」
僕様は自身の必勝パターンに対処されたのが、よほどお気に召さなかったようだ。頭の血管が切れそうな勢いで新たな魔力弾を撃ち放ってくる。
だが即座に剣圧を飛ばせば、術式を起動することなく全ての魔力弾が消し飛ぶ。
まるでさっきの焼き直しのように――。
「なんだ……何なんだよ、これは!?」
奴が驚愕の視線を向けているのは、天空に煌めく――“白亜の剣”。
持ち手から刀身までの全てが白で染まった長剣であり、俺の主兵装。
そして魔弾を消し飛ばしたのは、薙ぎ払いで生じた剣圧。
ただ純粋に俺の剣圧が、奴の魔導を上回っていただけだ。
魔導騎士の命でもある、その魔導を――。
「一度ならず二度までも……!? こんな出来損ない風情に僕の魔導が……くそっ!? Fクラスだと侮っていたが、ここからは本気だ!!」
すると、土守は六つの魔力弾を撃ち放つと同時に最高速度で突貫して来る。
「受けるがいい! “魔弾剣士”の真の一撃を――!!」
先行させた魔力弾で多角的に相手を攻め、必殺の剣先で刺し貫く。
これが奴のフォーメーションとやらの真骨頂。恐らくはそんなところだろう。
「“セブンスバレット”――ォォ!!!!」
高速機動の果て、加速する世界で奴が何を思っているのかは分からない。
だがこの程度――。
「止まって見えるな」
「な、にっ――!?」
今度は“白亜の剣”に蒼い魔力を纏わせて一閃。
剣圧だけの時とは比較にならない薙ぎ払いで、全ての魔力弾を消失させる。
これで裸の王様――いや僕様。
さて魔力弾を失った魔弾の剣士に何ができるのだろうか。
「これで終わりだぁっ――!!」
だが奴は、何としても最後の魔弾を届かせてやるとばかりに、剣先を刺し出して来る。
さっきの迎撃で剣を振り抜いた結果、俺に隙が出来たと間違った判断を下したのだろう。
別の武器で反撃してもいいが――。
「この程度なら、素でどうにでもなる」
対する俺は振り抜いた剣を引き戻し、突貫刺突に向けて剣尖を合わせる。
「――ッ!?」
刺突激突。
だが威力が拮抗することはなく、バキンっ――と音を立てながら、奴の細剣が砕け散った。
「ぐ……ぅ、ぁがッ!?!?」
激烈な勢いで吹き飛んだ土守はアリーナの壁に叩きつけられ、その四肢を力なく投げ出して気絶。
そして奴が力尽きたことを示すかのように、無残な姿で落下した細剣が地面を転がる。
決着。
誰の目から見ても、勝敗は決した。
でも審判すら決闘の結果に打ちひしがれているのか、試合終了のアナウンスが飛んでこない。
信じられないのは分かるけど、そろそろ引っ込みたいんだがな。ちょっと視線の嵐が痛い。
とはいえ――。
「“アイオーン”……か。付き合ってもらうぞ、これからも……」
この“アイオーン”という機体。
確かに凄まじい機体出力を秘めている。
“陽炎”が三輪車なら“アイオーン”は超高速戦闘機。
それぐらいの差があると言ってもいい。
だが俺はこの殺人マシンに確かな手ごたえを感じながら、手にした“白亜の剣”を一瞥した。
まあ相手が弱すぎて、魔導らしい魔導をほとんど使えなかったことだけは、少し計算外ではあったが――。
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