第119話 白騎士の力
“魔導兵装”を纏ってバトルフィールドに集ったのは、三〇人の一年生。
俺を含めた一組目の参加者だ。
まあさっさと出番が終わること自体はどうでもいい一方、集められた面子に問題があるわけで――。
「では、第一試合……始めっ!」
何せ鳳城先生が開始宣言を終えた瞬間、二九人全員が俺一人へと突っ込んで来ているのだから。
「行くぜ、行くぜ!!」
「ぶっ殺せ! オラァ!!」
最悪のラブコールではあるが、理由は明白。
この連中は全員がミツルギの生徒であるからだ。
しかもその大半は、問題生徒と称するべき連中。
恐らく、座学成績が下の下で実技が中の上。
実家が何の変哲もない一般家庭。
こんなところだろう。
つまりFクラスに送り込むほど酷くはなくとも、今後不良債権になりかねない連中が一ヵ所に集められているということ。
俺の撃破という、エサのニンジンをぶら下げられて――。
「よくも神宮寺さんとこれ見よがしにイチャイチャしやがってぇ!!」
「風破やハーフの先輩ともしゃべってたぞ!?」
「てか、テメェをどうにかすりゃ、確実に残れんだろ!?」
一部、別の意味での問題生徒も混じっているようだが、連中の言うことが学園に残る最適解であることは事実だ。
実際、風破やキサラギ先輩から聞かされた通り、俺はこの数ヶ月で無駄に有名になってしまっている。
それがこの状況なのだから、一種の賞金首の様なものと化してしまっている。
でも仮に全員で俺をタコ殴りしたところで、連中の評価はそれほど上方修正されることはない。というか、そもそもいくら集まったところで有象無象だ。
何より、今日は固有機の使用も許されているとあって、こんな雑魚連中に苦戦する道理は存在しない。
「……」
白き流星となって駆け抜ける。
「へ、っ……!?」
白突一閃。
五人の荒くれ者がパタリと倒れた。
「ま、全く視えなかった……!?」
「てか、あの子って、対抗戦の……ヤバすぎじゃない!?」
鳳城先生の脱落コールが響く中、フィールド内外からやかましい声が聞こえて来る。普通に突っ込んで斬り伏せただけで驚かれても困るんだが。
まあ平然としているのは、雪那と鳳城先生に加えて狸婆ぐらいか。
「ちょっ、まぢ何だし!?」
客席に見知った顔も見受けられるが今はどうでもいい。
ただ視認出来る敵を無力化するのみ。
「残り、二四……」
「ちっ!? 全員でぶちのめせ!」
だからそれじゃ意味がないと内心で吐き捨てながら、“白亜の拳銃”を展開。
左の長剣、右の可変拳銃と一刀一銃の構えを取る。
「ぐ、ごっ……!?」
蒼弾四射。
今度は四人の生徒が、腹部に最小威力の魔力弾を浴びながら倒れ込む。
「残り二〇……」
「ぐ、ぐぅっ!!」
慌てて態勢を立て直そうとしても、所詮は急場凌ぎ。
それどころか、普段から連携なんて意識したことがない連中とあって、むしろ数が集まる方が弱体化するレベルだ。
だから狡い頭脳戦を仕掛けてこようが、一対一で戦いを挑んでこようが、連中は詰んでいる。
あの狸婆、俺に厄介な在庫処分を押し付けてほくそ笑んでいるらしい。変わり映えのしない連中じゃなく、他校エースの実力を見たかったってのに――。
「ちくしょうっ!」
「ぶっ飛ばしちまえ!」
――“マジックバレット”。
二〇人全員が一気に魔力弾を放ち、視界全てが色とりどりの光に包まれる。
すっかりバトルロイヤルルールはどこかに行ってしまっているが、戦いの終わりを告げるゴングが打ち鳴らされることはなかった。
とはいえ、この程度の弾幕、“異次元獣”が群れるド真ん中を突っ切ることに比べれば、何の脅威にもならない。
しかしご丁寧に全部避けて、連中の思い出作りに付き合う義理もないか。
「巨大な翼……!?」
「凄い、目に見えて分かる。この出力は……!?」
“フォートレス・フリューゲル”。
それもソル・ヴァーミリオンとの戦いを経て更なる調整を加え、より推力が増した代物。
何より、対抗戦の中継が半ばで途切れていたらしい以上、余所の連中からすれば未知の代物でもあるのだろう。
「しゃらくせぇっ!!」
「やっちまえっ!」
――“ネメシスフルバースト”。
高度を上げながら両翼を広げ、一気に剣群を撃ち放つ。
「あ……がっ!?」
「こ、こんだァっ!?」
蒼穹の剣が光玉を貫く。
二〇、一七、一三、九――と、連中の戦力が複数人ずつ減っていく。
“オーバードライブ”の完全制御を目標に日々研鑚を積んでいるのだから、この程度はウォーミングアップにもならない。
現に刃を潰し、威力を最小に抑えようとも、連中の初級魔法は壁にすらなり得ないのだから――。
「……」
爆音が止み、周囲を静寂が包み込む。
アリーナの上空から見下ろす先には、二九人の横たわる姿。
「残存一人となったため、第一試合は強制終了! 各員、手当と回収を……!」
そして試合終了を告げる号令が響き、恐らく学園を去ることになる不良生徒たちは物悲しく裏へと引っ張られて行ってしまう。
六割は自業自得。
残る四割は理不尽。
だが教師の絶対数が足りない以上、こればかりはどうしようもない。
まあ腐ってもミツルギ上がりだし、二軍校でエースになれる可能性は十分ある。
後は連中がどうするかだけだ。
「何がハズレ世代よ……とんでもない一年が残ってるじゃない!?」
「化け物だっ!? いくら同じ魔導って言ったって、こんなの……次元が違うじゃないか!?」
直後、愕然としているらしい他校生に迎え入れられながら、学園闘争の第一幕が終結する。
しかし視線が痛いし、人波が横一列に広がっていて、全然進めやしない。
早くしないと、雪那が参加する第二回戦が始まってしまいそうだ。
とはいえ、当の雪那に関しては心配の必要もないだろう。
それより気になるのは、残る二人とキサラギ先輩の戦果だ。
強制転校を見送るのも忍びないし、頑張って欲しいところだが――。
自分の進退より、よっぽど緊張するな。
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