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第117話 超特化型の才能

 モニタールームから訓練場に移動する際中、零華さんの目はキラキラと輝いていた。


「烈火も面白そうな子を連れてくれたわねぇ」

「零華さんにそうやって言ってもらえるなら、アイツにとっても嬉しい誤算だったかもな」

「知らずに連れて来たの?」

「ああ、本当は進級試験対策のために、基礎の底上げをやるつもりだったんだ。でも気になることを雪那に試してもらったらビンゴだった……って、感じだな」


 そんな話をしながら、零華さんを伴って訓練室へと足を踏み入れた。

 皆の反応は、四者四様。


「あ! 烈火と……し、所長さん!? 度々お世話になっております!」

「し、所長さんって……あ、ダメ……立ち上がれない……」

「ふ……ぇ? あ、っ……ふ、不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いしましゅ!」


 雪那以外の三人は、研究所の主を目の当たりにして低頭平身。

 朔乃だけは物理的にではあるが――。


 しかし自己紹介より先に嫁入り前の挨拶とは、シュトローム教諭はまた誤解を生みそうな言い方をしてくれたものだ。

 まあ俺の保護者が研究所の責任者で――というのは伝えてあるし、今日ばかりはテンパってしまうのも当然かもだが。


「……」


 そして我が麗しの幼馴染は、ドス黒いオーラを纏いながら能面のような無表情を向けて来ている。

 何事かと思えば、ああ――零華さんが腕に引っ付きっぱなしだ。

 自分に模擬戦を押し付けて俺がコレじゃ、怒るのも当然だな。しかし中々振り解けない。


「それでさっきのアレは何なんだ?」

「多分、雪那が見たままだな。どうしてFクラスなのか……ってことなら、学園の方針が悪い」


 全ての視線が疲労で座り込んだままの朔乃を射抜く。

 だが雪那の疑問は、当然のものだろう。


 実際問題、俺や雪那、シュトローム教諭であれば、さっき朔乃が行った障壁展開を彼女以上の練度で行うことは可能だ。

 でもそれは、一般的な学生レベルを超えた技能。Fクラスはおろか、風破や普通の三年生ですら容易じゃない。いや、並の教師にすら真似の出来ない領域であり、異常と称して差し支えないレベルだった。

 しかも一年のFクラス――なんて、学園最下層の朔乃には過ぎた力なのは、言うまでもないだろう。


「……それにさっきの模擬戦中、一度でも攻撃されたか?」

「なるほど、そういうことか」

「え、あの……ちょっと、どういうこと?」


 風破は疑問を呈して来る。

 零華さんやシュトローム教諭が何も言ってこない辺り、この辺りは経験の差か。


「ほぇ……?」


 まあ当の朔乃本人が最も状況を理解していないのは、何ともも言えない話かもしれないがな。


「あまり口に出したくはないが……朔乃は攻撃魔導の適性が極端に低いらしい。そして学園の評価基準は、評定平均の高さ」

「そっか……ある意味、攻撃系の魔導は魔導騎士にとって一番大切な技能だから……」

「一つの適性が突き抜けていても、他がダメなら相対的に評価は低くなる。教頭……学園が育てたかったのは、どこに出しても恥ずかしくない良い子ちゃんだからな。逆にこういう一極特化型は、欠陥品と見なされる」

「う、うう、っ……」


 恥を晒す形になってしまって申し訳ないが、まずここを肯定しなければ何も始まらない。

 だがその反面、彼女にとっては希望の光でもあるはずだ。


 そして朔乃の悩みの種は、“魔導適性”と呼ばれるもの。

 読んで字の如く、魔導を発動させるために必要な要素の一つだ。


 まず大前提として、魔導を発動させるためには、術者自身の魔力と運用技術が求められる。

 分かりやすい例を挙げるなら、魔力が車の燃料で運用技術が運転技術。“魔導兵装(アルミュール)”の機種やスペックが、車種や走行性能という感じだろう。

 加えて、魔導を使えない人間というのは、生まれつき術式の発動基準を満たせないほどに魔力が少ない者のことを指しており、さっき襲ってきた連中が正しくそれだ。

 だがその反面、仮にも名門であるミツルギに入学出来ている以上、朔乃には関係のない話だった。


 魔力はあるのに、攻撃魔導が使えない。

 これがミソだな。


 では改めて、“魔導適性”とは何か。

 それは、攻撃・防御・飛行・治療――など、各種魔導術式に対応する適性を指す言葉だ。


 もっと単純に表すのなら――。


 運動神経が抜群(ばつぐん)なのに球技が苦手。

 逆に球技はプロ級なのに走る速さは学生に混じっても鈍足。


 こんな当たり前で不思議な現象を魔導の種類に例えれば、随分と分かりやすくなるはずだ。

 攻撃系の魔導が壊滅的である反面、防御系の魔導だけは大得意であると――。


 とはいえ、優秀と称される魔導騎士は、往々(おうおう)にして数多くの魔導適性を持っている。

 それ故に企業や軍に売り込む生徒を作るのであれば、平均的に適性の高い人間が評価されることになるのは、当然の話だ。

 何せ、ある程度は技術と経験でカバー出来るのだとしても、根本的な魔導適性自体を後天的に鍛えることは不可能だからな。


 運動神経が壊滅的な人間がプロスポーツ選手にはなれないし、人に聞かせられないレベルの音痴は歌手にもなれない。

 こればかりは容姿や身長と同様、生まれ持った個人の特性なのだから――。


「まあ、そんなにしょげるな。それを差し引いて有り余る適性が見つかったんだからな」

「へ……?」

「それがさっきの……?」

「そういうことだな。確かに朔乃の攻撃魔導は使い物にならない。それは魔導騎士にとって致命的な弱点になることも事実だ。でもそれ以上の強みにも出来るはず……」


 朔乃は自信なさげな顔を上げ、俺の方を向いている。


 対抗戦前に彩城少将が言っていた通り、学生レベルの優秀さなんてものは、たかが知れている。

 実際、優秀な人間が集まっている中でエースと呼ばれる連中は化け物揃いだし、学生のレベルに王様だった奴が底辺扱いされて挫折することあるだろう。

 ついこの間も、ミツルギで頂点を極めた連中がAE校生徒に一蹴され、全世界に醜態を晒していたわけだしな。


 経験を含めて上位互換がひしめく中に飛び込んで行くことを考えればこそ、オンリーワンな唯一性。

 そういう強みがある奴の方が、生き残っていける場合もあるはず。

 加えて、外へのゴマすりに命を懸けて才能を潰していた教頭が排除され、学園全体の気運も変わりつつある。

 正直、朔乃に関しては、もう最後の思い出作りかも――と、やるせなさを抱いていたりもしたが、思わぬ形で希望を見出せたことは事実だった。


 ちなみに俺が朔乃の適性について把握していない理由だが、単純にFクラスはまともに実技授業すら行われないからだった。

 まあ訓練機の数に限りがあるから貸し出し制度にしているわけで、大成の見込みがないFクラスに回すリソースが極限まで減らされるのは自明の理だろう。


 卒業資格というエサに対して学費を払い、余剰リソースで優秀生徒を支える。

 非魔力保持者からは疎まれ、魔導騎士の卵からは見下される。


 そんな歪なサイクルの中でも最底辺に位置するのが、Fクラスという存在だった。

 差別をしないで皆仲良く――ではなく、差別をして競争心を煽るというのが、世界の気運なのだから、こればかりはどうしようもない。


 だがそろそろ潮時の様だ。

 俺も朔乃も這い上がる時が来たのかもしれない。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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