第113話 行き詰まる世界
ミツルギへの編入。
この時期に行われる試験。
それは即ち、他校からの引き抜き疑惑に他ならない。
いくら裏の事情に詳しくない面々とはいえ、自分の置かれている状況を察してしまったのだろう。
捲し立てるような言葉を聞き、風破や朔乃の表情が強張っていく。
「どうやら恐れ慄いたようね! アンタたちみたいな学校にも通えない欠陥品とは、格が違うのよ! 格がね!」
まあ別の意味での勘違いは、俺たちが全員私服であるが故に起きてしまった悲劇と称せるのかもしれないが。
「しかし非情なまでに在校生を振るい落すとは……これも全て、理事長が表舞台に出て来たからか?」
「まあ大人の事情が散見しているのは事実だろうな。この追い詰められた情勢も、それを後押ししているはず」
「追い詰められた情勢……地方から優秀な生徒を集める。まさか……」
「ああ、遠くない内に勃発するかもしれない総力戦への備え。現にヒュドラル、ノスタリー、ギムレア……三国が壊滅しているわけだし、竜騎兵の言う通りなら……まだこの国に対しての侵攻は終わっていない」
「なるほど……それなら狙われるのは、この首都付近である可能性が高い。つまり地方の守りを捨てて、いずれ想定される首都防衛戦に全精力を割くための……」
「ああ、政府も騎士団も国全てを守れる力は残っていない。知れば知るほど、この世界はどん詰まりだ」
対抗戦の一件。
“竜騎兵”の大規模侵攻を軽微な犠牲で乗り越えられたことは、文字通り奇跡に近い。
だが見方を変えれば、それは四ヵ国同時侵攻の内の一つを何とか乗り切れただけに過ぎない。
今すぐにしろ、そう遠くない未来にしろ、崩壊の予兆は誰もが感じられるものとなってしまっていた。
「それに生徒の引き抜きも同じだな。優秀な生徒を一ヶ所に集めて騎士団に入れる仕組みを作れば、魔導騎士の供給が安定するし精度も高まる」
「そうか……学生でも実戦で通用する者がいるというのは、皮肉にも私たち自身が証人になってしまったからな」
首都に近く設備も整っているミツルギは、魔導騎士の育成・供給の中継本部を確立させるには最適の場所。
生徒側からしても、名門卒業の名誉と安定した進路が得られる。
これが御剣幸子による学園再生へのプロセスの完成形。
時流も大義名分も、全てを内包した一手だということだ。
結局、全ては誰かの掌の上。
俺たちは籠の中の鳥か、肥え太らされている家畜なのか――。
ああ、最高の世界だな。
本当に反吐が出る。
「貧民層は、黙って私たちの言うことを聞けばいいのよ!」
「そうザマス! 本当ならウチの京子さんは、今頃ミツルギ学園の一年エースと呼ばれているはずでしたのよ!? 何とかクイーンさんも所詮、京子さんがいないレベルが低い中で大きな顔をしているだけですわ!」
「貧乏人ー! 貧乏人ー!」
まあ釣られて来た次代を担うエリート一家がこのレベルの低さなのだから、どっちもどっちなのかもしれないが。
「……にしても、一家揃ってあんな感じってことは、頭が残念過ぎて筆記か面接で落されたパターンか」
「魔導技能だけを重視した極端な実戦主義。あんな連中が呼び寄せられてしまったのは、Fクラスの誰かが最前線で戦った弊害かもしれんな」
色々と秘密事が多いのを根に持たれているのか、雪那からチクリと刺されてしまう。
しかし地元単位で有力な出身であっても、立場的には一番近いであろう風破や朔乃が呆れたように見ている辺り、喧嘩をする価値もないと判断されている。
何より、ある意味ではFクラスにすらなれなかった奴が何を言っても――と、哀れさすら感じない。
粗方事情は把握した。
もう話を聞く必要もないし、出入口が塞がっているのなら、いっそ空でも飛んで逃げてしまおうか。
誰もがそう思った瞬間――。
「よし! 行くぞぉぉ!!」
俺の視界の端に白い影が映り込む。
足を振り抜いた体勢でこけそうになっている男の方のクソガキ。
その少し後ろには、地べたに座って泣いている六、七歳くらいの少年。
つまり暇になったクソガキは、その辺の子供をぶん殴ってサッカーボールを奪った挙句、見事なノーコンシュートを披露したということ。
その結果、直撃コースでボールが飛んで来ているわけだ。
一方、保護者は気にもしていない。
傲慢不遜というか、ただ非常識なだけというか――。
だがそこそこ勢いのあるボールが俺に向けて飛んで来ているのは、揺ぎ無い事実だった。
「へぼぅぅっ!?!?」
そして直撃コースだったはずのノーコンシュートは、俺を擦り抜け――その向こう側にいる根元京子とマウストゥーボールをかましていた。
全く、石器時代の原始人でも、もう少しマシなコメディを披露してくれそうなんだがな。
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