創作落語 寅吉と馬吉
創作落語「寅吉と馬吉」
むかし、むかし、
お江戸の町に、寅吉と馬吉という男がおったそうな…
ドンドンドンドン、
おーい、馬吉〜
ドンドンドンドン、
朝っぱらから、うるせぇなぁ〜誰だよ、
ドンドンドン、
馬吉〜開けてくれ〜
何だよ、寅吉か、
馬吉は、目を擦りながら戸を開けた。
ガラッ、
どうしんたんでぃ朝っぱらから、まだ宵の口じゃねぇか、鶏も鳴いてないぜ、
おおっ、
そこには、すすで真っ黒な顔をした寅吉が立っていた。
すまねぇ〜馬吉〜
昨晩、オイラの長屋が火事で焼けちまったんだ。しばらく、ここにおいてくれないか〜
そういや、昨日、半鐘の音が聞こえたなぁ〜お前ん所の長屋だったのかい、まぁいいけど、何も無いぞ、
いいよ、いいよ、
寅吉を中に入れる馬吉。
しかし、真っ黒だな、
目をパチパチする寅吉。
誰だか〜解らないぜ、風呂でも入ってこいよ。今沸かすからさ、すすを落とせよ、
ありがとさーん、
ドッポーン、
ひゃ〜気持ちいい〜
風呂の外、
お前〜何か悪いことでもしたろ、長屋が燃えるなんてよ〜
何も、してねぇよ、
本当か?本当に何もしてねぇか、
そういや、火事の前の日に神社でお詣りしたなぁ〜
パンパンって手を叩いて、金が無かったから賽銭箱に葉っぱを入れてきた〜へへへ〜
馬鹿だね〜そんな事したらバチが当るに決まっているだろう、
そんな事あるわけねぇよ、ハハハハハ、
困った奴だ、もっとバチが当たるぞ、
へへへっへ〜
馬吉が飯の用意をしていると、風呂から寅吉があがってきた。
パンパン、手ぬぐいを頭に乗せる寅吉。
ホント、何もねぇなぁ〜、おまんまとお新香だけかよ、しけてるなぁ〜
仕方がねぇだろう、うちも貧乏なんだから?ーーぎゃー(馬吉)
ぎゃー(寅吉)
ぎゃーー(馬吉)
ぎゃーー(寅吉)
何だよ大声を出して、馬吉〜
しっ、しっ、
……
しっ、しっ、
……
お玉と蓋で追い払う格好の馬吉。
何だよ、オイラだよ、
しっ、しっ、
オイラだよ〜
しっ、しっ?
寅吉か?
寅吉だよ、正真正銘、寅吉だよ〜ガルルル、
やっぱり、寅だ!
お玉と蓋を構える馬吉。
冗談だよ、馬吉〜
どうして、寅になんかなっちまったんだ、寅吉、(ジロジロみる)
こんな時に〜悪いんだけど〜お前も〜馬になってるぞ、
ええっ、
馬吉、慌てて手足を見てみる。
ぎゃー、
馬の手足になっている〜どうしちまったんだ〜
ガルルル、(寅吉)
わっ、怖いなぁ、
寅吉が寅、馬吉が馬、こりゃ、笑い話にもならねぇぜ、ハハハハハ、
ハハハじゃねぇよ、何で、こんな身体になっちまったんだ〜(涙)
まあ、仕方がねぇ、とりあえず飯でも食うか(寅吉)
二人は、ちゃぶ台に行った。
……
……
何か、飯食いたくねぇ…(寅吉)
食えよ、贅沢だなぁ、(馬吉)
食いたくねぇ〜
何か、美味そうな肉食いてぇなぁ〜
肉?
肉はダメだ、将軍様に怒られるぜ、
そうか〜無性に食いてぇ〜
そういう馬吉も飯食ってねーじゃねーか、
……
……
オ、オイラは、柔らか〜い草を食いてぇ〜んだ、
草?
そんなもの美味いのかい?
美味そうだよ、想像しただけでもヨダレが〜
草食いてぇ〜、
変な奴だ、
おい、寅吉。お前さん〜寅だったら足が速いだろう、パッと外に出て草を取って来てくれねぇか、
やだよ、この格好じゃ目立って仕方がねぇ、
頼むよ〜元はと言えば、お前が神社の賽銭箱に葉っぱなんか入れるから、こうなったんだぞ、
そうかなぁ〜
そうだ、行ってこい!
わかったよ〜
寅吉は、そーっと戸を開けてみた。
キョロキョロ、
誰もいねぇな、今だ!
ピューッザッザッザッ、ピューッザッザッザッ、ピューッコケッ、バタン、
ハアハアハアハア、
戸の前で立っている寅吉。
ほら、草だ、草を手渡す寅吉。
すまねぇ、寅吉、
バクバクバクバク、バクバクバクバク、
うんめぇ〜たまんね〜
バグバグバグバグ、
うんめぇ〜、寅吉も少し食べるかい?
草を差し出す馬吉。
いらねぇよ、そんなの不味そうだ、
そうか、美味いぞ、
バクバクバクバク、バクバクバク、
あー、美味かった、
……
すまねぇな、寅吉。オイラばっかり食べちまって、
とぼけた顔の寅吉。
怪しい。
寅吉のお腹を見てみる。ポッコリ膨らんでいる。
寅吉〜お前、外に行った時、何か食ってこなかったか?
知らん顔の寅吉。
お前〜何か食ったろ、
口に薄ら血が付いているぞ、
ゴシゴシゴシ、慌てて口を拭く寅吉。
手には鳥の羽根が着いているぞ、
パンパン、慌てて手を払う寅吉。
寅吉〜お前〜鶏食ったな、
……
知らん顔の寅吉。
とぼけたってダメだ、鶏食ったろ!
仕方がねぇだろう〜外に出たら美味そうな鶏がいたんだよ、チョイっと掴んでパクッと口に入れたら、これがまた美味い!
二、三匹、ホイホイっと食ちまったぜ〜
楊枝でしーしーする寅吉。
おい、そんな事をしたら長屋が大騒ぎになっちまって、オイラたちが寅と馬なのがバレちまうじゃねぇか、
ちょとぐらいいいだろう〜
困った奴だ、
ふわぁ〜満腹だし、ちょいと昼寝でもするか…
二人は眠ってしまいました。
夕方、
ググッ〜(お腹の音)
腹が減ったなぁ、馬吉〜
ググッ〜(お腹の音)
オイラも腹が減った、寅吉〜
どうする〜(馬吉)
どうする〜(寅吉)
……
……
ジュルッ、
お前、今、ヨダレ出さなかったか?
出してねぇよ、
本当か?
本当だよ、
ジュルッ、
やっぱり、ヨダレ出したろ、
すまねえ、馬吉〜、お前の太ももが美味そうで美味そうで、たまらないんだ〜
バッ、慌てて寅吉から離れる馬吉。
お前、まさか、オイラを食いたいんじゃないだろうな?
いや〜ちょと一口、かじらせてくれねぇかなぁ〜頼むよ〜
やだよ、痛いだろう!
ちょとだけだよ、ほんのちょと、
やだよ、
頼むよ、馬吉〜
ジュルッ、ガルルル〜
何か….お前、怖いな、
ガルルル、
バン、ガリガリガリーーー
爪で柱を削る寅吉。
そ〜っと寅吉から離れる馬吉。
ギロ、
コソ、
ギロ、
コソコソ、
馬吉〜、すまん食べられてくれ〜
助けてくれ〜
大きな口を開ける寅吉。
すまん〜
ガブッ!
ガバッ、
布団から飛び起きる馬吉。
何だ夢か、
正月から、変な夢見ちまったぜ、
ガルルル…
寅吉が、イビキをかいて寝ている。
コイツのイビキで妙な夢を見ちまったんだ、まったくよ〜
今年一年トラウマになっちまうぜ〜
トラウマ、トラ馬、寅馬、寅と馬!
おしまい。