血税
世界は吸血鬼との戦いに敗れた。
その昔、人々はそれの存在を知っておきながら、それを忘却の彼方へ追いやった。いや、自ら忘れようとしたとか敢えて目を逸らしたとか、能動的に行ったのではない。吸血鬼のほうが姿を見せなくなったのだ。何年も何十年も何百年も、彼らは姿を見せなかった。
しかし吸血鬼は、何もしていなかった訳ではない。夜の間に世界を歩き、巡り、回った。そして調べ上げた、世界がどこまで、どれくらい広がっているのかを。いつしか住処を広げられる事に気付いた彼らは、人間を捩じ伏せた。
とはいえ人間を絶滅させたのではなく、吸血鬼にとって人間は必要なものだったので、戦いの中で無闇に数を減らそうとはしなかった。彼らの目的は他のところにあった。
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まず吸血鬼は、人間の国を治める人間を手中にした、つまりはそれらを同族に変えてしまったのだ。こうすることで両者の望みは完全に一致させられる。
吸血鬼の望みは以下の通りである。
①より多くの人間を味わうこと。
②吸血鬼をこれ以上増やさないこと。
見た目はほぼ同じである両者といえども、吸血鬼は吸血鬼を味わう事は出来ない。実際に行った者はいないが、もしそうした場合は死ぬと噂されていた。それに吸血鬼を増やす事は人間を減らす事と同義、一人当たりの取り分を減らさないためにも①と②の同時進行が必要不可欠であった。
人間の国を治める吸血鬼には人間の血を集めさせた。文字通りの血税、これを集め、その殆どをより純度の高い上位の吸血鬼に収めさせた。純度の低い吸血鬼は純度の高い吸血鬼に逆らえないのである。また人間は、それぞれ自らの命を人質として血を黙々と納め続けた。
これが続くうち、人間の中で様々な変化が起きた。血を差し出そうとしない者、これを捕え糾弾する者、人間を集わせ血を集める人間。特に血を集める人間は聡明だったと思われる。集めたそれぞれの人間から定められた量よりも少しだけ多く集め、自身の血を逃れさせたのだ。さらにこれを糾弾する者も現れ、捕らえた者は自身の血をこれに肩代わりさせた。
また、最も大きな変化は、人間の中で吸血鬼になる方法を発見する者が現れた、という点である。吸血鬼は吸血鬼を味わう事ができない、つまりその者はすぐさま血税を受け取る側となった。
吸血鬼の寿命はとても長く、永遠と称される程だ。吸血鬼は少しずつではあったが確実に増えていった。
人間は数が減っているのに、吸血鬼は増えている。そうなると当然一人一人の血税は増えた。これに嫌気が差した人間は必死になって吸血鬼になる方法を模索した、他にも最も親しい人間にこれを教える者もいた、自らを吸血鬼だと偽る者さえいた。しかし逆に、段々と血税が増えているにも関わらず、文句一つ言わず血を渡す者もいた。
人間が減っている事を問題視した吸血鬼も確かに存在し、人間に戻る方法も確立された。しかし誰もそうはしなかった。
ある日人間の数は遂に底をついた。
また更に、ある日吸血鬼が吸血鬼を喰らった。