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計一時間のシンデレラ  作者: 浅葱玲奈
2/2

渾名は

 その日僕は、天使を見たと思った。

 ブランコが止まると、彼女のブレザーの裾を小さく引っ張る。

 すると驚いた様にこちらを見て、何の用ですか、と小さく尋ねてイヤホンを片耳外す。

 先程まで笑顔だったのに俺が話しかけるとす、と無表情になってしまう。しかしそれに幻滅する事はなく、むしろギャップに打ちひしがれていた。



「一目惚れしました」


「……えと、」


 もう片方のイヤホンも外してスマートフォンに巻きつける彼女。俺はごくりと固唾を飲む。

 彼女は目を泳がせた後に小さくごめんなさい、と述べた。彼女の声は女性にしては少し低く感じられ、凛とした美しさがあった。


「ごめんなさいですけど……まだわからないので、明日も、来て。」


 などと。あれ?これってチャンスある?

 そう思わせる彼女は罪な女だと、思ってしまう。どこか思わせ振りな態度なのだ。先程から俺の目を見てそらすことはないし、頬はほんのりと赤く染まっている。


「明日、何時?」


 問いかける。


「……12時、」


 そっぽを向いて君が言った。


「昼のだよね?」


 一応の確認で、問う。


「あっ……当たり前でしょ!?馬鹿!?」


 彼女は勢いよくこちらを向いて、大声をあげた。


「いや、君って夜が似合いそうだからさぁ、」


 俺が理由にならない理由を告げると


「何それ……意味ワカンナイ、」


 彼女はまたそっぽを向く。


「格好いいし…あっ、名前は!?」


 彼女はきっと凛とした、綺麗な名前なのだろうと


「……教えない。」


 ……その予想すら確かめることは出来ない。


「なんで!?」


 不満に思って問い詰めると


「知らない人に教えちゃダメでしょ、」


 至極全うなことを言う。


「話してもダメじゃない!?」


 自分から声をかけといて、馬鹿だなぁ。


「特別よ、渾名つけていいわ。」


 彼女は目を細めて告げる。

 風に長い髪が揺れて、彼女の顔を一部、隠した。チラリズムと言うのだろうか。それが妙に色っぽく、美しく感じて俺の頬は色味を帯びた。


 じゃあ、と切り出すと彼女の表情は柔らかくなって、こちらを期待が帯びた目で見つめた。きっと彼女は酷く子供っぽくて、でもそれを表に出すのを許さないプライドがあるんだ。


「マスクちゃん。」


 俺が渾名を言うと、彼女はあからさまに嫌そうな顔をした。「ださ、」と述べてふいと顔を背ける。俺がじゃあ名前教えて、といえば絶対いや!なんて。


 お互い意地になっているのだろう。彼女は渋々ながらマスクちゃんと言う渾名を受け入れた。そして立ち上がると「帰る」と。


 俺が慌てて手を振ると軽く振り返してくれた。時間を確認すると、一時きっかりだった__。

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