第一話
読んでくれたらうれしいです
カンカンという音を響かせて誰かが上ってくる音が聞こえてくる。その音を聞いて瞼を開こうとするが前日の書類整理で疲れた体はそれを拒絶するかのように開けてくれない。そうして眠気と戦っているとついに二階まで来たのか音も止みドンドンとドアが叩かれる。
「クロ、起きているか?」
「今起きた」
聞き覚えのある声にしょうがなく、本当につらいが目を開ける。体を起こしふらふらと歩きながらドアまで行きドアを開ける。
ドア開けると目の前には端正な顔立ちに金パツの耳が尖ったエルフが現れた。その顔を見て相変わらず美形で女にもてそうだなとあらためて思う。そう思ったらなんだか目の前のエルフに眠気もあってふつふつと怒りが湧いてくる。
「この男の敵目」
「何を意味不明なことを言っている」
目の前のエルフに嫌味は通じなかったらしく意味不明だと首をかしげている。
「おいだいじょうぶか?」
声をかけられてはっとする。どうやら一人でぶつぶつと喋っていた様だ。気を取り直して用件を尋ねる。
「いや、だいじょうぶだ、ファイ。それよりどおしたんだ?」
「依頼をしに来たんだが、レナさんはいないのか」
ファイが部屋の中を見回しながら言ってくる。そういえばレナはどこにいるんだ、この時間帯ならすでに事務所に来ていてもいいはずだが、寝起きで頭がよく働かない。
「いない、というか多分一度は来てると思うんだがどこかに出かけたみたいだ」
「なら待たせてもらってもいいか」
「いいけど俺がいるんだし俺じゃだめなのかよ」
「だめだ、今お前に話したところで絶対忘れそうだ」
きっぱり断られ何だこのヤローと思ったがここは我慢だ、もし追い返せばこの依頼は二週間ぶりなのでなんで追い返しんたんだとあとでレナに怒られさらに罰を受けることになる。前回の罰のことを思い出してぶるぶると体が勝手に震えてしまった。俺がレナの罰の恐怖に震えているとまた誰かが上ってくるのか階段を登る音がした。
「ただいまクロ、あら来ていたんですかファイさん」
「こんにちはレナさん、今日は依頼をしにね」
レナはファイが俺の友人で以前も遊びに来たことがあるので今回も遊びに来たと思ったのだろうが仕事の話と分かるとキッチンのほうに向かった。
「そうですか少しお待ちくださいお茶でも出しますから」
「お願いするよ」
ファイはレナに頼むと俺がさっきまで寝ていたソファの前のテーブルの反対側に座った。そしてお茶を取りに行くレナの後ろ姿を見ながらファイが俺に言った。
「綺麗になったねレナさん確か今年で19歳だっけ」
「そうだけどレナがどうしたんだよお前まさか惚れたのか」
確かに俺でもレナは綺麗になったと思う元々容姿が整っているエルフ族であるがその中でも特に綺麗だと思う。腰近く伸びた黒髪に切れ長の黒目、背は女の中では長身の部類で体型はスレンダーだがエルフは寿命が長いせいで成長が遅い、だがあと数年もすれば成熟して絶世の美女になるだろう。
「違うってただお前に襲われないかと心配になって」
「誰が襲うか!!それに俺は仮にもあいつの保護者だぞ」
「そうは言っても学生時代のお前の所業を考えてみれば心配にもなるさ」
ファイと話しているとそこにお盆の上に急須と暖かいお茶が入って湯気が出ている湯飲みを一つ載せてレナが戻ってきた。テーブルの傍まで来るとファイの前に湯飲みを置いた。
「ファイさんどうぞ」
それを見て俺もお茶を飲みたいと思いレナに頼んだ。
「レナ、俺もお茶が欲しいんだが」
「いいですが書類は終わったんですか」
「大丈夫だちゃんと終わらしたさ。おかげで昨日から徹夜でやったからとてつもなく眠いんだが」
「徹夜でするのは当たり前です、その書類は一週間ほど前から昨日までに終わりにしてくださいと言いました、さらには昨日の朝には念のためにまたお願いしますと言いました。そこまで言ったのに当の誰かさんは書類が終わっていないにもかかわらず何と朝からナンパに行きました。私そろそろ切れてもいいですか」
レナは喋ってる間にどんどん怒りがたまってきたのか最後には鬼の形相になっていた。レナの鬼の形相を見て身の危険を感じた俺はすぐさま行動に移した。
「すいませんでした」
勿論土下座である。土下座して謝ったのがよかったのか客が来ていたから許したのか鬼の顔を戻して、茶を飲みながら俺たち二人の会話をのほほんと見ていたファイの方に視線を戻しさっきまで俺が座っていたソファに座った。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「いいよ見ていて楽しかったから」
ファイが笑いながら言うのを見て俺は土下座から顔を上げて口をはさんだ。
「俺は楽しくなから」
楽しくないどころか命の危機さえ感じるほどである。今回はファイがいるのでレナの対俺用お仕置き武器がでていなかったがもしお仕置きをくらっていた今頃床に頭がめり込んでいただろう。お仕置きを受けてもレナは治癒の魔法を使えるから傷を治せるからいいんだが俺に反省の色がないとまたくらわすのだ、そしてまた回復させるまさに生き地獄である。まさに鬼である。
そんなレナの所業考えているとレナがにっこりと笑いながらこちらを見た。
「クロ」
俺は名前を呼ばれただけで背中に冷や汗をかき頭を下げ土下座を続けた。それを見てレナは仕事用のクールな顔をしてファイの方に向き直った。まあ基本的にはレナはいつもクールなんだが。
「どんな依頼ですか」
ファイはやっと仕事の話が出来ると思いこちらも顔を引き締めた。そして依頼の細かな内容が書かれている書類をテーブルの上に置き話し始めた。
「ここイース国から隣国のステイナ国まで列車が通っていることは知っていると思いますが最近その列車が魔物に襲われるという事件が多発していまして今回の依頼はその列車の護衛です。二日後に出発する列車です」
「列車の護衛ですか。なぜ私たちに」
その疑問は当たり前である。この国には守備隊があるからである。俺も話しに参加するため土下座から立ち上がりレナの隣にびくびくしながらも座った。
「その疑問は当然です、本来は私たちがするべきことですから。ですが今回は少し人数が足らないのですよ」
「どういうことです」
「列車を襲っている魔物の他にもその付近に魔物がいることが分かったんですよ。まだ正確な数は分かっていませんがかなりの数がいることが確認されています。なので列車の護衛に人数を回せないのでこうしてここに依頼しに来たわけです。もちろん列車の護衛はあなた達だけではありませんハンター協会のほうにも護衛を頼んであります。列車の護衛の依頼受けてくれませんか」
「分かりましたその依頼受諾します、クロはどうですか」
大まかな内容が分かったのかレナがファイの依頼を受けたのを見ながら俺はいまひとつ納得できないことがあったのでファイに尋ねた。
「二つ納得できないことがあるんだがいいかそれを聞いてから俺もその依頼受けようと思う」
「いいですよなんですか」
「その依頼はなぜ俺たちにも頼まれたんだ。依頼ならハンター協会だけで列車の護衛の人数分ぐらい簡単に集まるだろ」
「確かにそうですがあなた達に依頼したのは私の上司のご指名だからです。それにあなた達に依頼したほうが安上がりだからですよ」
それを聞いて納得した、ファイの上司は俺と学園時代の同級生だからである。
「もう一つというかこっちが本当は聞きたかったんだが、なんで列車が魔物に襲われるんだ?それにいつから魔物に列車が襲われているか知らないがなぜ今回だけ護衛を頼んだんだ」
「つまりクロは今回の依頼には何か裏があると思うんですね」
「そうだ」
「クロ勘ぐりすぎですよ、魔物が列車を襲ったのはつい最近のことです。それに魔物がなぜ襲うかは謎で僕も知りたいくらいです」
「そうか、分かった。完全には納得できないがその依頼受けよう」
「そうですかそれではお願いします。それでは私は帰ります依頼の報告と他の仕事がありますのでこれで失礼します。あと依頼の報酬は列車の護衛終了後お渡しに来ます」
ファイはそう言って早足に帰っていった。実はとても忙しかったのかもしれないなーと思いながらレナが以前としてお茶を入れてくれないので自分で入れて飲みながらぼんやり考えていた。