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借金とはしたくてするわけじゃない

死んだ。


あっさりしてるけど人生そんなもんだ。生きてる時は死にたくねぇとか、死なないためにいろんな努力をするけども、死ぬ時は死ぬ。


小学生のころに「行きたいところは?」と聞かれて、ひねくれた感じがカッコいいと勘違いしていた俺は、「あの世」と答えたことがある。


だがあれは愚かな間違いだ。あの世なんて、死すことを終着点としている人間ならば、誰でも行くことになるのだから。だから小学生は素直に「ハワイ」とか言っとけばいい。


お望みのあの世に着いた感想? そうだな・・・、とにかく何も無い。そのくらいか。


周囲を見渡せば、白。それはそれは白。距離感も分からなくなるくらい白の世界が続いている。


何も無い白の世界。しかし俺の視線の先に、一つだけ不自然なものがある。


「なにこれ・・・。魔法陣・・・?」


そこにあるのは五芒星の魔法陣だった。これで伝わらない人に説明すると、円の中に一筆書きの星が描かれているような形といえば伝わるか。


3次元の日本育ちの俺には、まったく馴染みのないもの。マンガとかカードの中でしか見たことがない。


「うわ、光った・・・・・・」


しゃがんで触れようとした途端、魔法陣が淡く光を放つ。


ここに乗ればどっか別の世界へ飛んで行けたり、元の世界に帰れるのかなぁ、と思うけれど、踏みとどまる。


中から何か出てきたから。


「はぁーい! ウェルカーム、迷える子羊ちゃーん」


魔法陣から降臨なさったのは、背中に白き一対の翼を携えた見目麗しい女性。


この手の人間?は、もちろん我々3次元で生きる人々には馴染みのない人だ。現実で翼生やした人なんているはずないんだから。


だが誰もがその姿を知っている。


彼女は間違いなく、天使だ。


「え、あ、はい」


「うーん、堅い! 大体ここに来る人ってあなたみたいな人ばっかだからもう慣れたけど、毎回言っちゃう!」


「はぁ・・・・・・」


なんだろう・・・。とても鬱陶しい。


別に死んだから落ち込んでいる、ということもないが、それを差し置いても鬱陶しい。それが死んだ人への態度か。


「まぁ死んじゃったんだもんね。色々混乱するし、気落ちするよね・・・。でも落ち込んでたって、何にもならないよ! これから君の第二の人生が始まるんだから、元気だしていこっ!」


「あー、はい、そっすね」


「素っ気な!」


そういうこの人がうるさいのである。俺は至って一般人のテンションだ。


「第二の人生ってことは何です? も一回生まれ直すんですか?」


さらっと俺は人類の永遠の疑問を口にした。


人は死んだらどこへ行くのか。天国で死んだまま生きる? それとも別の命に魂を宿して生まれ直す? その疑問に今、答えが出ようとしている。


「ううん。死んだ人はねぇ、3つの道を選ぶことになるの。天国(ここ)で過ごすか、別の世界線へ転生するか、精神の狭間で魂を封印されるか」


答えは想定していたどれでもなかった。てか、


「最後のやつすっごい気になるんですけど」


「でもねぇこの3つ、実は本人に選択権があるわけじゃないんだよねー。その人の前世での行いとか適正とかで私たちが決めるんだよねー」


「いや・・・最後のやつ・・・・・・」


「で、あなたの場合は、別の世界線へ転生するのに天性があるみたい! 『転生』だけに! ぷふっ!」


いや面白くない。ていうかうざい。シンプルにうざい。


「だからあなたには『異世界転生』してもらおうと思うの!」


「いやそれより精神の狭間だの、魂封印だのってなんですか?」


「ああそれは前世でよっぽど悪い事した人じゃないとそんなことにはならないからあなたは大丈夫!」


いや大丈夫とかじゃなくて、くわしく。だがこの天使、こちらの話をまったく聞かない


「てか、なんでそんなにテンション高いんですか? 疲れるんですけど」


「え、これ? これはねー、死んだ人ってかなりナーバスな状態でここに来るからさー、中には混乱して、死んだことを受け入れられない人もいるんだよねー。そんな人ができるだけ親しみやすそうなキャラを心がけようとしてる内に、これが素になっちゃったの!」


なんとまあ。天使もいろいろ大変である。


だが彼女の方向性は間違いなく間違っている。ナーバスになっている人にそんなうっとうしいキャラで行ったら、ファーストコンタクトは絶対失敗だ。


「まぁあなたが私のこのテンションをウザいとか、実はこの天使バカだろ、とか思ってるのはさて置き、とにかくあなたには適正が出てるので、転生してもらいます!」


「なっ、心を読まれた!?」


この人・・・、バカに見えてやりおる。腐っても人外生物。こちらの想像くらい超えてるってか。


「でね、異世界転生する人には『なんかすごい武器』か『なんかすごい能力』を与えられるんだけど・・・どうする?」


「すいません。抽象的すぎて全然すごそうじゃない」


この天使、どうあってもバカなんじゃないか。


「ぐぬぬ、またバカって言ったね。バカっていう方がバカなんだよー!」


「そうですか。じゃあ今3回も言ったあなたはどんだけバカなんですか?」


「うぎー!」


こんな人が担当で大丈夫なんだろうか。第二の人生不安だらけ。


「ま、まぁともかく! 強い武器ってのはたとえば・・・、どんなものも切れる光の剣とかどんなものも撃ち抜ける銃とか・・・」


「うーん、やっぱり今ひとつ強そうじゃないなぁ」


「くぅー、自分の語彙力のなさが悔しい!」


「まぁいいや。で、能力の方は?」


「能力の方は単純です! ズバリ自分で考えた能力が、私たちの力で何とかなる範疇ならそれを身につけられます!」


「へぇー」


武器の強さが彼女の語彙力で説明できないことを差し置いても、能力を選んだ方が強そうな気がする。


「それってたとえば『世界を征服できる力』とかはできないですよね?」


「それだと抽象的すぎて無理ですねー。結構具体的じゃないとダメなんですよー。たとえば『火を自在に扱える』とか『身体能力を極限まで高められる』とか」


なるほど。それはかなり頭を使わないと今後にも関わってくる。


「そうなんですよ。ちなみに能力のメリットは、武器と違って失うことがない、自分の熟練度次第で成長する、能力次第ではどんな武器よりも強くなる、って所でしょうか。逆にデメリットは、能力次第では弱い、自分で考えて選ぶのでアタリハズレが大きいの2つでしょうね。ハズレを引きたくないからって、ある程度の強さが保証される武器の方を選ぶ人も多いんですよ」


「なるほど」


なんだ、やればできるじゃないかこの天使。初めてまともな説明をしてくれた。


「でもここで武器に落ち着けたら、なんか負けた気がするよなぁ・・・」


「おっ! いいですねー!」


しかし能力の方を取るなら、どんな武器にも勝る能力にしなければならない。そうでなければ本当に負けだ。


そしていろんな使い方があって、柔軟で、強くて・・・。


「『創造』なんてどうです?」


「ほぅ、詳しく聞きましょう」


「自分の思い描いた物をなんでも手元に創り出せるんです。剣でも槍でも銃でも」


どんなに強い人でも弱点がある。同じようにどんなに強い武器も万能じゃない。剣なら遠距離なら銃には敵わないし、銃も近距離なら剣に敵わない。それならどんな武器をも創れる力の方が強いのではないか。


「なるほどー。面白いですね。でも厳しいです!」


天使は少し考えてから首を横に振った。


「さすがに何でも創れる、というのは強過ぎますね。あくまで『武器限定』ならできると思いますが、それならどうですか?」


「それ、何か不都合あります?」


「そうですね・・・。武器限定なので建物とかは創れないです。あと資材とかも。だから本当に戦うためだけの能力になりますかね」


少しだけ利便性にかけるということか・・・。まぁ戦闘面しか考えていなかったので、そこは構わないんだが。


「正直、その能力・・・どう思います?」


能力が強いかどうかは実際に使ってみなければわからない。だが実際に使える頃にはもう取り返しがつかない。


そこで、バカであっても今まで何人も送り出してきた天使の意見が聞きたい。


「そうですねー、正直悪くはないと思いますよ? ただこれはどんな能力にも言えるんですけど、使い方次第じゃないかと」


「それだけで充分です。それでお願いします」


悪くはない。それだけが聞きたかった。


使い方ならどうとでもできるが、能力そのものが弱ければ、それはどうにもならない。それだけは避けたかった。


しかし・・・。バカな天使に気を取られていたが、今から俺は異世界転生するのか・・・。


現世で俺はそれなりにオタク系に通じていたので、異世界転生モノと呼ばれる小説もいくつか読んだ。


近年では、転生してなぜかチートレベルに強くなった主人公が無双するだけのテンプレとか、もう飽きたとか言われているが、結局みんな異世界転生が好きなのだ。


小さい頃、ポケットなモンスターとか、プリティでキュアな魔法少女たちの世界に行きたいと思ったことなんて、割と誰でもあるだろう。それと同じ。


自分の見たことない空想の世界に飛び込みたい。それは人の永遠の夢だ。


その夢を今叶えようとしていると考えると、すごくテンションが上がってきた。


そんな感じでにやけていた俺に天使は、


「はーい。じゃあそれでやっときますねー。・・・で、ここからは個人的話なんですけど・・・」


周囲には誰もいないのに、なぜか声を潜める天使。


「実は転生者の人たちって転生しても、転生者仕様でステータスがチートレベル!なんてことはなくて」


「へぇ・・・、それは鍛えなきゃいけませんね」


「いえ、向こうの世界では筋力値とかは生まれつきのもので、鍛えても強くはなれないんです。だから聖剣とかを持っていっても、筋力値が弱すぎて剣を振れませんでしたーなんてよくある話で」


なんだそりゃ。


そんな題材でラノベができそうだけどそんなの実際にあったら、つまらない、というより虚しい。きっと「転生者がステータス的に最弱な件」って感じのタイトルでラノベが始まったとしても、それは「なんかいつの間にか強くなってたわ! ガハハ!」という道筋を辿るに違いない。


結局異世界転生とは、転生者が強くなければ夢がないのである。


「あなたの選んだ能力も、どちらかと言えば近接戦闘向きじゃないですか? だから筋力値とかゲロ弱だったらやばくないですか?」


「まぁ、たしかに・・・」


俺の肯定を誘ったところで、天使がクスッと笑う。


「個人的にあなたのこと気に入ったので、個人的に!あなたのステータスを強化することもできなくないのですが・・・」


あくまで個人的に、ということを強調する。あまり大声では言えないことなのだろうか。


「はぁ・・・、そりゃやってくれるならやって欲しいですけど・・・」


「やって欲しいですか!? じゃあやりますねっ!」


なんだろう・・・。なんでこの天使はこんなに食い気味なんだ?


俺のことを気に入った? この短時間でそんな要素あったか?


すごく嫌な予感がした。


「はい。じゃあ今からあなたに能力の付与を行いますねー」


天使はそう告げて、俺の足元に魔法陣を敷いた。


魔法陣の光が、陣に触れた足先から体に流れ込む。


「おぉ・・・」


その光が体に力を授けている。そんな気がした。


あれ? で、俺は何を考えていたんだっけ?


「今回のあなたは『召喚』の能力と筋力値の強化の追加オプションですね」


追加・・・、オプション・・・? 額から汗が頬を伝って流れ落ちた。まさか・・・、




「2つあわせて、総計5億ベルになります!」




天使はにこやかな笑顔でそう告げた。


「ベル・・・? なんのことですか・・・?」


一応問いかけてみたその声が震えた。頭の中ではもう理解している。


「ベルっていうのは、今からあなたが行く世界の通貨の単位です!」


「やっぱりぃ!」


やられた! つまりこの天使はこう言ったのだ。「能力はやるから金を払え」と。


「あ、でも今はそんな大金ないと思いますから、ローンで大丈夫ですよー」


「いや全然大丈夫じゃないだろ!」


なんか自然にまとめられていようとしていた話を延長させる。


「向こうの物価とかよく分からないけど、5億って絶対ヤバい数字だろ! ていうかアンタ、金払えなんて一言も言わなかったじゃないか!」


「ええ、言ってませんよー。だって聞かれてませんから」


そう答えた天使の顔に、さっきまでのバカっぽい様相はなかった。


ハメられた。最初から全て演技だったんだ。




「だから言ったじゃないですかー、バカって言う方がバカなんだ、・・・・・・って」




天使の目はまるで憐れむように、俺を見下ろす。


食ってかかろうとしても、魔法陣によって形成された見えない壁が彼女に届かせない。


「あ、でも大丈夫ですよー。あなたの考えた能力が悪くないのは本当のことです。それに私の与えた筋力があれば、あなたはかなり強くなれますよ」


「でも5億って大丈夫なの!? 5億だよ!? ご・お・く!」


「大丈夫。きっと返せますよー。・・・・・・一生かければ」


「今、一生って言った!? 俺の異世界生活、借金地獄になっちゃうの!?」


「えぇ。ですからそうならないように、頑張って稼いでくださいねー」


天使はひらひらと手を振る。


足元の魔法陣の光が強くなって、足先からシルエットが薄くなってきた。




「それじゃあ行ってらっしゃーい! 早く借金返して、レッツエンジョイ異世界ラーイフ!」


「こんの詐欺天使がああああああああ!!!」




視界が真っ白な光に包まれ、天使の姿が見えなくなる。いよいよ異世界転生するらしい。


だが、これだけは言わせてくれ。


俺は、



借金するために異世界転生するわけじゃない!




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