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籠の中  作者: Kate
3/5

なんだか周りが騒がしい気がする。

もちろん耳が聞こえないので詳しくはわからないが、ぼくの入っている棺桶が激しく揺れている。結構な衝撃。結構な回数。

大方、外からこの棺桶を蹴ったり殴ったり揺らしたりしているのだろう。あれだけ人を傷つけておいてまだ飽きないのか。しつこいにも程があると思う。

そろそろ体が辛い。元々肉体的ないじめで僕の体はダメージを受けていたんだ。鼓膜は破れて音は聞こえず、口元も切れているのかズキズキ痛む。もはやどこが一番痛いかなんてのは分からなくなってきていた。

体中のすべての部位が悲鳴をあげている。僕自身は絶対に悲鳴をあげなくても体はそうはいかない。体中から血液が流れ出て、青あざなんて数え切れない。骨折しててもおかしくないだろう。

そんなボロボロな状態なのに寝かせることもせずに棺桶に入れられる。しかも立たせて。

鬼畜な人だな熊田は。見くびっていたようだ。

ともかくこんなにも強い痛みといじめからはやく抜け出したい。

さて、どのように抜け出そうか。光はひとすじも僕のところには差し込まない。紐で手を後ろ手で縛られているので動けない。単純に体が痛くて精神的に参っている。こんな悪条件の脱出劇が今までにあっただろうか。あったら全米が泣いたとキャッチコピーを入れてあげてほしい。

試しに棺桶を内側から足で蹴ってみる。

ガンガン。ガンガン。ガンガン。

まあ、何も変わりはないとは分かっていた。ただつま先が痛くなっただけだ。ただでさえ巻き爪なのに悪化してしまうじゃないか。

次に縛られた手を色々な方向に曲げてみる。結構頑丈に絞められているため、あまり効果はなさそうだ。紐が手首に食い込んで痛い。

八方塞がりだ。もう何も抜け出し方は浮かばない。正確には考えたくない。もう眠いんだよ。

僕にはもう、手首を擦り合わせることしか出来ない。いつかは紐が切れてくれるのではないかという微かな希望を持ってひたすら手首を擦り合わせ、手の甲に食い込む紐をちぎろうと力を込める。

ひたすら。ただひたすらに擦る。

すりすりすりすりすりすりすりすり。

すりすりすりすりすりすりすりすり。

すりすりすりすりすりすりすりすり。

5分くらい経っていたと思う。僕は一瞬意識を失いかけた。

クラクラとしている。息が荒い。目眩がする。きつい。ただでさえ酸素の薄いこの棺桶の中でひたすら体を動かしているのだ。酸欠にでもなったのだろう。

壁に寄りかかる。息を整えるために深呼吸をする。僕の左手に何かが刺さった気がした。

なんだ?何が当たった?

僕は手探りで何かを推理する。表面は凹凸があり、先が尖っている。硬い。細く、指の第二関節当たりまでの長さが壁から突き出ている。そしてその棒状のものにはなにかが吊り下げられている。紐がついている。

わかった。これは釘だ。何が吊り下げられているかなんて皆目見当もつかないがそんなことはどうでもいい。これは使える。

手首にかけられている紐をその釘にひたすら擦りつける。ぴんと張った紐に凹凸がうまく引っかかり、紐にダメージが蓄積されているのが感じられる。

外からの衝撃や暗闇の恐怖、体の痛みなんてすべて忘れるくらい一心不乱に紐を擦り続けた。この紐がなくなれば僕に自由は与えられると信じている。そしてここから脱出して熊田にありとあらゆる苦痛を与えてやりたい。流石に今回は我慢の限界だ。やりすぎだ。

脱出のために僕はひたすら擦る。擦る。擦る。擦る。

ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり。

ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり。

ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり。

ずりずりずりずりずりずりずりずり。

ぷつん。

手応えが無くなった。手首の痛みは消え、手首が一気に軽くなった。紐が切れたのだ。

僕を締め付け、拘束していた禍々しい紐は僕の身から離れたのだ!

天に突き上げたガッツポーズは見事に天井に当たり僕の拳を痛めた。

さて、棺桶の中で多少の自由が効くようになった僕はこれからどのように脱出すればいいのか。

思い切り棺桶ごと倒れてやる。 倒れた衝撃でこの扉は開くかもしれないし、周りに誰かがいるなら誰かしら助けてくれるはずだ。

だが、一つだけ心配なことがある。こんな受け身も取れない状態で倒れたら僕の体はどうなってしまうのか。意識を失わなければ僕の勝ちだ。

出るためならばそんなことは気にしていられないか。

よし。やろう。倒れよう。正面は怖いから横向きに倒れよう。左肩には後で謝っておこう。

深呼吸を一つして、僕は心を決めた。

一度右に体重をかけ、その反動を使い左に全体重と勢いをのせる。

体が浮いたように感じた。

そして僕は棺桶とともに盛大に左に倒れた。

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